上 下
5 / 97

5:両手に枝を抱えた竜牙兵

しおりを挟む
「いやぁ~。あの二人、良い物持ってたじゃないか~」

 盗賊二人組が残していった荷物は、リュックというにはあまりにもボロボロな袋が一つと小さな巾着が一つ。
 ボロ袋の中には食べ物とナイフが、巾着には銅色の硬貨が入っていた。

「盗賊ねぇ。あいつら、どこにでも出るのよね」
「あぁ、やっぱりそうなんだ」

 再び集めた薪には、ソディアが火を点けた。
 彼女は剣士でもあり、同時に精霊使いでもあった。
 火の精霊サラマンダーを呼び出すとあっさりと着火完了。
 それから闇の精霊を召喚して、まるで天幕のように広げ灯りが漏れないようにした。
 こうしておけば、山の上からでも焚火の灯りが見えない。居場所を知られることもない、ということだ。

「それにしても堅いパンだなぁ」
『人様の物をタダで貰っておきながら、贅沢な奴じゃのぉ』
「そうね。ちょっと日持ちさせ過ぎかしら……私が持っている方を食べましょう」

 ソディアに貰ったパンはまだ柔らかい。
 他にも彼女が捕ってきた山鳥をさばいて焼いたものと、骨から出汁を取ったスープがある。
 こんな異世界に来て暖かいものが食べられるって、幸せなことだな。

「レイジくんはこれからどうするの?」
「うぅん、どうするかなぁ」
『旅じゃ! 儂を成仏させるための旅に出るんじゃ!』
「――とアブソディラスが言うんだけど、まぁ充てもないし、それでもいいかなと」

 とは言ったものの、今の俺は無一文だ。
 こんなことなら。あの王子がくれるって言ったお金だけでも貰ってくるんだった。
 まぁ最初からくれる気もなかったのかもしれないけど。

「そうね。せっかくこの世界に来たんですもの。あちこち旅をして、住む場所を探すのもいいわね」
「あ、そうか。そういう考えもあるんだな」
「え? どういうこと?」
「いやさ。住む場所探しさ。ただこの国はやばいよな」

 帝国兵に見つかれば、確実に殺されるだろう。
 出来るだけ早く別の国に逃げたい。
 だがここがどこで、どっちの方角に進めば一番他国に近いのか、まったくわからない!

「そうね。早く移動したほうがいいけれど……とにかく今日のところは休みましょ?」
「うん、そうだね」

 じゃあ――と、彼女が火の番をするので起きているという。
 彼女ひとりに見張りをさせるなんて、それはダメだろう。
 だから――。

「アブソディラス……竜牙兵の呪文、教えてくれ」
『なに? 忘れおったのか……仕方ないのう。復唱するんじゃぞ? "我に従え。竜の骨より出でたるは竜牙兵ドラゴントゥースウォリアー"はいっ』
「"我に従え。竜の骨より出でたるは竜牙兵ドラゴントゥースウォリアー"はいっ」
『じゃからはいっはいらん!』

 ……復唱しろって言ったのはお前じゃないか。
 よく見ると、一瞬だけ俺の指先から白い何かがポロっと転げ落ちるのが見えた。
 あれが俺の骨なのか……。
 恐る恐る指先を触るが、骨の感触はある。
 取れた瞬間には再生されているのか。
 俺の治癒力、半端ないな。

 落ちた骨が土に潜り、そしてぽこぽこと竜牙兵が出てくる。
 その数は五体。さっきと同じだ。
 よく見るとただの骨ではなく、皮鎧のようなものを着て、手には剣も持っている。
 つ、強そうじゃないか。

「盗賊を追い払った竜牙兵?」
「あぁ。なんか俺の骨から生まれているようなんだ」
「え……どうしてそんなことになっているの?」

 どうしてだろうな。
 俺の骨がドラゴン化しているから……とか?
 それは嫌だ。

『竜牙兵は命令に忠実に動く兵士じゃ。主の身を守るよう命令すればよいじゃろう』
「ふぅん。じゃあ竜牙兵たち。俺たちが安心して眠れるよう、守ってくれ」

 カラカラと乾いた音を立て、竜牙兵が敬礼する。
 こういうポーズは万国ならぬ、全異世界共通なのだろうか。

 これで安全は確保された……と思う。
 一体には一晩分の枝拾いに出てもらい、残り四体が俺とソディアを守るように立つ。
 これでよし。さぁ、寝るぞ――そう思ったが、背後の茂みが揺れ音を立てる。
 モンスターか?
 思わず立ち上がって見ると、そこにはさっきの二人組……と、その他大勢がいた。 

「こ、こいつでさぁボス! この野郎が俺らの荷物を奪ったんですぜ」
「ほぉ。魔法で骨を動かしてる魔術師様か。しかも女もいてやがる。くぅー、イイ女だぜ」

 パっと見ても二十人はいるな。全員悪そうな顔だ。
 人数が多いな……"爆炎"……は、確実に森が炎上する。

『また小物かのぉ』
「小物ってお前、向こうは人数が多いんだぞ。竜牙兵四体じゃあ勝てないだろっ」
『いやいや小物じゃて。竜牙兵の相手にもならんじゃろ』
「え、竜牙兵ってそんなに強いのか?」
『並みの冒険者ならば五人で挑んでも勝てぬぐらいにはの』
「竜牙兵は腕の良い冒険者と勝負しても、五分五分ぐらいの強さがあるわ」

 冒険者の強さの基準がわかないものの、冒険者と盗賊ならきっと冒険者の方が強いだろう。
 これは……勝てる?

「魔術師は魔法を唱えさせる時間を与えなければどうってことはねえ! 一気に畳みかけろっ」
「え、ちょ……」
「レイジくん、下がって!」

 この盗賊、わかってらっしゃる!
 呪文を唱えられなければ魔法は使えない。
 しかも俺は竜牙兵召喚と、マップ破壊兵器魔法しか知らない。
 あんなもん気軽に使えやしないし、事実上最弱なの俺じゃないか!

 ――まぁ、何もしなくても終わっていることって、あるよな。

 駆け出した盗賊に反応して、三体の竜牙兵が動く。
 盗賊の一振りなど完全に無視し、躱すこともなく、だがまったくダメージを受けた様子もない。
 逆に竜牙兵の一振りで奴らの首が宙に舞い、俺は思わず顔を逸らした。
 動かないと思われた一体は俺の傍に控え、万が一抜け出してきた奴を仕留めようってことなんだろう。

 だが、僅か三体の壁を盗賊たちは超えられなかった。

 静まり返ったあと、そぉっと前を向くと――そこには半べそ状態の盗賊たち……の幽霊が立っていた。

『怖えぇよぉーっ。母ちゃ~んっ』
『俺だってさぁ、好きでワルになったんじゃないんだぜ』
『ただのスケルトンじゃねえなら、最初からそう言ってくれよ』

 新鮮な幽霊はなかなかにグロい。
 死んだときの、そのままの姿であることが多いからだ。

 首が皮一枚で繋がった幽霊に、四肢が欠損した幽霊。更にそれらを潰された幽霊。
 うっぷ……こ、これはきつい。

「どうしたの、レイジくん。顔が青いようだけど?」
「ソ、ソディアには見えないんだよな。今まさに、死にたてほやほやの盗賊どもの幽霊がいるのも」
「え!? い、いるの?」

 ささっと身を寄せてきて、辺りをきょろきょろしだすソディア。
 あれ……案外怖がりだったり?

「アンデッドはいいの。見えるから。でも幽霊は見えないから嫌なのよぉ」

 アンデッドは見えて幽霊は見えないって……モンスターとそうじゃない物の差、なのかな。
 とりあえず彼女が怯えるからさっさと逝って貰おう。

「成仏してください成仏してくださいっ!」

 必殺、ひいばあちゃん伝授の拝み!
 手を合わせてそう唱えると、その手から眩い光が溢れ出し、その光は幽霊たちを包み込んでいく。

『あぁ……なんて温かい光なんだ』
『母ちゃんが呼んでいる。俺、母ちゃんと同じ所に行けるのかなぁ』
『ありがとう。ありがとう』
『今度生まれ変わったら、真人間になるんだ』

 そう言って幽霊たちは天に昇っていった。

 幽霊が成仏する光景を見るのは初めてだぜ。
 この上なく幸せそうな顔で天へと上って行く盗賊幽霊たち。
 危険は去った。
 ほっと胸を撫でおろした瞬間、再び背後の茂みが音を出す。

「つ、次はなんだ!? また盗賊か、それともモンスターか!?」

 身構えた俺たちの前に現れたのは、両手に枝を抱えた竜牙兵だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

【完結】 魔王討伐のために勇者召喚されたんだが、チートスキル【未来予知】は戦闘向きではない件〜城から追放されて始まる異世界生活〜

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
町中高校二年B組の生徒十人は勇者召喚の対象者として、異世界に転移させられた。 生徒たちはそれぞれに異なるスキルを有した状態になり、召喚の儀を行った王様に魔王討伐を懇願される。 しかし、そこで魔王の襲撃を受けて生徒たちは散り散りになる。 生徒の一人、吉永海斗は危機的状況を予測する魔眼で難を逃れるが、魔王を倒すに値しないスキルと見なされて城から放り出される。 右も左も分からない状況でギルドを頼るものの、門前払いになって途方に暮れる。 そんな彼がたどり着いたのは、深紅の旅団と呼ばれる多種族の集まりだった。 旅団の創設にはある目的があり、やがて海斗は協力するか否かを迫られる。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...