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 砂を五十個……個っていう言い方も変なんだけど、砂は物量1ごとに一個ってことみたい。
 それと貝を六十五個ゲットして、わたしとヴェルさんは豚さん──草原ピック──の狩りを始めた。

「ここには草原エリマキトカゲもいるからね。そいつはアクティブモンスターだから、勝手に襲ってくるわよ」
「ほえぇっ、もう襲われてますぅー」
「おやぁ。ごめんごめん。てやっ」

 うぅ。ヴェルさんが強くて良かったぁ。
 それにしても、トカゲさんまで一撃で倒しちゃうなんて。

 豚さんからもトカゲさんからも革が出て、あっという間に三十個集まった。
 他にもトカゲの皮膚や肉も。もちろん、

「エリマキだぁ~」
「それも製造素材になるらしいよ」
「ふふ。これで作れる物って、どんなのですかねぇ」
「ダサそうだけどねぇ。さ、町に戻ろうか。丁度そいつ、ログインしてるからさ。時間は平気?」

 そうだっ。紅葉ちゃんは──まだログインしていないし、時間も現実のほうで8:45。
 こっちだと三十分以上ある!

「もう少しなら大丈夫です」
「よし、じゃあ走ろうか。あ、ここだけの話だけどね──」

 ヴェルさんがわたしの耳元に顔を寄せる。そして、

「移動するときに駆け足か、全力疾走を続けていると良いことがあるよ」

 と教えてくれた。
 良いこと……なんだろう?

 二人で走って町まで戻って、そこからやっぱり走って商業地区へ。
 生産ギルドの建物は凄く大きくて、迷子にならないようヴェルさんの後を付いて行くので必死。
 大きいだけじゃなく、人も多いんだもん。
 錬金術師ギルドとは大違い……。

 その建物の三階に行って、ヴェルさんがある部屋の扉をノックした。

「ロックん、いるか?」
「いないよ」

 即答でいないって言った!
 ヴェルさん構わず扉開けちゃったよぉ。

「あのさ、鞭作ってよ」
「え、ヴェルってそんな趣味が?」
「コロスゾ。この子のメイン武器が鞭なんだよ。でも初期のままでね」

 中には二十歳ぐらいのお兄さんがひとり。
 グレーの髪にグレーの瞳。青いバンダナを巻いたそのお兄さんは、わたしのことをじぃーっと見ていた。

「錬金術?」
「あ、はいっ。こ、この服、錬成して作りました」
「ほぉほぉ。面白いねぇ。いや、何人かそうやって装備グラフィックを変えようと、錬成に挑戦した連中も見たけど」
「そうだね。あんまり上手くはなかったな」
「そ、そうなんですか? 最初のステータス、全部DEXに振ったのがよかったのかなぁ」

 えへへ。やったね。

「いや、単純にセンスが悪かったんだと思うよ。錬成って、イメージ力が凄く大事らしいから。途中で変なこと考えたりすると、それだけでどろどろになるらしいからさ」
「ほえっ。じ、実は難しいんですね……」

 まだ失敗したことはないけど、ホムンクルス錬成でそうなるのは嫌だなぁ。

「ふんふん。そうかぁ。これが錬成かぁ」
「おいロックん。目つきがエロい」
「な、なにを言う! お、俺はそんなえっちな目で見てな──いやいや、君もドン引きしないでっ」

 思わず一歩下がっちゃった。

「あぁもうっ。製造だろ? 素材は」
「あ、はいっ。か、革、これだけなんですけど」
「豚とトカゲか。豚だけでいいや。あ、そうだ。攻撃力が欲しいんだよね?」
「え、っと。はい?」

 ロックんさんがにこりと笑って、部屋にあったタンスへと向かった。
 引き出しを一つ開けて、そこから取り出したのは──糸?
 
「鉄の極細ワイヤーさ。これを鞭に編み込んでみたら、攻撃力が上がると思うんだけど。どうだろう?」
「いいんじゃないか? でも試作はしてないんだよね?」
「うん、まぁね。でも上手くいったら革鎧にワイヤーを編み込んで、防御力も上がると思うんだよ」

 す、凄い。そんなこと考えてプレイしてるんだ。
 本当の職人さんみたい。

「上手く行くか分からないから、手数料なしでいいよ。失敗したら代わりの物も作るからさ」
「お、お願いします!」
「よし、お願いされよう。じゃあ作業に取り掛かるね」
「こ、ここでですか?」

 さっき通って来た一階では、たくさんの人がいろんな作業をしていた。
 作業台みたいなものもあったし、そこでするんじゃないのかなって思ったんだけど。
 ロックんさんは部屋の隅にある大きなテーブルへと向かうと、渡した豚の皮を──叩きだした!?

「五分待ってね」
「は、はい……」

 叩いて──ナイフみたいなのでじょりじょりして──水の入ったバケツに付けて──また叩いて──次は細く切っていった。
 それから椅子に座ると物凄い速さで編み始める。
 よく見るとワイヤーも一緒に編んでいるのが見えた。

 す、凄い!
 超達人!!

「よし、出来た。うん、攻撃力にボーナス補正付いたよ。やっぱりワイヤーはいけるじゃん」
「よかったねミントちゃん。あれ、またリボンにするの?」
「はいっ。わぁ、嬉しい。ロックんさん、ありがとうございますっ」
「リボン? リボンって……え、その腰のリボンが鞭なのかい!?」
「はい。あ、あの。作って貰ったばかりなんですが、錬成してもいいですか? わたし、新体操やっていたのでリボンのほうが使いやすいんです」
「な、なるほど。うん、いいよ。錬成するの見たいし」

 ロックんさんに了承を貰って、レッツ錬成!
 イメージは……革と一緒に編み込まれた鉄の極細ワイヤーをどうしよう。
 刺繍にしたらせっかくの攻撃力は勿体ないし、ここはやっぱり縁取りにするべきかな。

「ヨシ。じゃあ行きます! レッツ『錬成』」

 錬成陣がキラっと光り、中からイメージ通りの物が出てきた!
 ヴェルさんの刺繍は、わたしのDEXだとまだ再現できなかったのかも。
 こっちは縁を極細ワイヤーだけで織り込んだ感じにしてみたの。
 豚さんの革はベージュで、片側の縁だけが鉄糸で出来たリボン。当たったら痛そう。

「おぉぉっ。なんでそうなるんだろうねぇ。ほら、これが元々の革の厚みだよ。それが紙みたいに薄くなるって……いや、だから長さも伸びているのか。物量がそのままだから、薄くなった分が伸びる的な。いやいや面白いよ君」
「あ、ありがとうございます」
「うんうん、で、名前なんていうんだっけ? 聞く前にインターフェースから覗き見するのも悪いから見てなかったんだけど」
「チョコ・ミントです。ごめんなさい、自己紹介してなくって」

 そ、そうか。インターフェースで相手を見れば、名前なんて丸見えなんだよね。
 それをしないで、わざわざ自己紹介を待ってくれるなんて……良い人!

「じゃあチョコ・ミントちゃん。俺と手を組まないかい?」
「ほ……え?」

 ほええぇぇっ!?
 な、なんだか一気に悪そうな人に見えるようになっちゃったよぉっ。
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