異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

文字の大きさ
上 下
31 / 31

31:風呂、進化

しおりを挟む
「じゃあ、一斉に引っ張るぞ」
「オッケー」
「うむ」
「はい」

 朝食を済ませた後、幸運の女神ラスリンさまからの加護を確認するべく行動に移した。
 
 まず、テントを広げる。
 張るんじゃなく、張ったテントを広げるんだ。

 ──テントの四隅を、同時に外側へ引っ張ってください。

「いち、にの、さん!」

 俺とアイラ、クロエ、そして少し大きくなった銀次郎が、テントの四隅を掴んでお互い後ろに下がる。
 するとテントがみょーんっと伸び、ぴたりと止まった時には8帖間ぐらいの大きさになっていた。

「おぉ、広くなったではないか」
「これだけ広いと、ゆっくり寛げるわね」
「凄い魔法アイテムですわ。んふふ、楽しい」
「あー、これ……魔法アイテムじゃないんだ」

 クロエは未だに、俺の持ち物を魔法王朝とやらの遺産だと思っている。
 俺のことを知る人間は、極力増やしたくない。
 けどクロエは人間じゃないから、ま……いいかな?

「クロエ。実は俺、迷い人なんだ」
「んなっ。主、それは──」
「話しちゃっていいの?」
「まぁクロエなら、俺を利用してどうこうしようって考えはないだろうしね」
「へ? わ、わた、わたくしがタックさんを、りり、利用して銀さまとのことをどうこうだなんて、そ、そそ、そんなことありませんことよ」

 ……俺を利用していたのか。
 ちっさい理由で利用されたもんだ。

「ま、それに関しては……俺はアドバイスも出来ないし、頑張れとしか言えないよクロエ」
「はひっ。が、頑張れだなんて……が、頑張りますわ」
「ってことで、俺のことだけど」
「はい。迷子なのでしょう?」

 ん?

「いや、迷子じゃなくって」
「あら、違いますの?」
「主よ。迷い人などと人間に言うても、理解出来ぬだろう。その言葉を知るのは神と、それに等しい時を生きる我のような上位種ドラゴン。あとは極々一部の者ぐらいだぞ」

 クロエはその、上位種ドラゴンなんだけどな。

「あ、あの……わ、わたくしはその……若い・・ので、知らないことも多いのですわ」
「そう、なのか」

 じゃあ、まず迷い人のことから話さなきゃいけないんだな。





「ではこのきゃんぷ道具・・・・・・は、魔法王朝のものではなく、元々タックさんが異世界からお持ちになった物に神の加護が?」
「うん、そういうことなんだ。あと俺がやたら頑丈なのも……だ、だから俺、正真正銘人間だからな!」
「タック……それ気にしてたのね」

 うん、わりと気にしてた。
 俺自身、ちょっと最近、人間離れしてきたなって思う事あったからさ。
 
「さ、俺の話もしたことだし、ラスリンさまから貰った風呂を試してみよう」
「タックが入るの?」
「え、いや、別に入らなくてもいいんだよ。どんな風になるのか、それを見たいだけだから」

 カートの中から、ミニチュアサイズになった樽風呂《・・・》と桶を取り出す。
 手のひらサイズだ。
 浅い桶の中に樽を乗せ、それを床に置いて水を注ぐ。

「じゃ、引っ張るぞ」
「手伝うわ」

 俺とアイラが桶を引っ張る。
 テント同様、みよ~んと伸び──というか大きくなった。
 注いでいた水も増えているから、継ぎ足す必要もない。
 浅い桶の方は、テントの形に合わせるかのように大きく四角い形になる。
 これなら多少水が跳ねても、下を濡らす心配がない。

「さらにこちら! これはシャワーノズルです!!」
「「しゃわーのずる?」」

 新樽風呂にはシャワーノズルを付けて貰った。
 このシャワーは風呂の水を使っている。
 でもそこは神のご加護だ。風呂の中の水は常に浄化され続けているので、綺麗らしい。
 人が入った風呂の水で……と思うかもしれないが、じょ、浄化されてるからいいんだ!
 き、気の持ちようさ。はは。
 
 それに水も常に補充されているので、いくら使っても大丈夫。

 使用後は風呂の底にある栓を引き抜けば、すぅーっとミニチュアサイズになるという。

「これ、お湯を注げば大きくなってもお湯らしいんだ」
「す、凄いわ! テント暮らしで快適なお風呂生活なんて、どれだけ贅沢なのかしら」
「こ、これで、いつでもどこでもお風呂に入れますの? あぁ、なんて素晴らしいんでしょう」

 女子二人は歓喜して、樽風呂を撫でている。
 そのうち「入る!」とまで言い出したから、結局水をいったん抜くことになった。

 風呂の底にある栓を抜けば、水は桶へと流れ出る。
 が、ミニチュアサイズになる頃には、水の量はスプーン二、三杯に。
 それを持って外へ行き、水を捨ててからテントへと戻った。

「このサイズに戻った時には、風呂の栓はされてるそうなんだ。だからこのままお湯を注げばいい」
「じゃあさっそく!」

 そう言ってアイラが、クッカーで沸かしたお湯を注ごうとした。

「ちょーっと待ったぁぁ! アイラ、それ沸騰してる湯だぞ。そんなの入れたら、火傷してしまうっ」
「あ……ひ、冷やさないとね」
「うん。注いだ温度がそのまま保たれるそうだから、好みの温度で下げてね」

 でもこれがなかなか難しかった。
 お椀に注いだお湯に水を足し、指を付けて温度を確かめてから風呂に注ぐと──実際に腕を突っ込んでみたら温かった。
 指先だけでは分かりにくいみたいだ。
 給湯器みたいに、湯の温度が分かればいいんだけどなぁ。

「鑑定したらお湯の温度調べられないかな?」

 ふと思い立ってやってみると──出来た。


【ぬるま湯】
 たたのお湯とタダの水を足したぬるま湯。
 温度38℃。


 40℃にしとくかなぁ。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

エウブレウス

21話にて
ブレスにも「倒れる」との部分は「耐えれる」(正確には「耐えられる」)ではないでしょうか?

解除
エウブレウス

3話の「餓鬼状態」ってのは「飢餓状態」のことでしょうかね?

解除
ねこぱんち
2022.09.08 ねこぱんち

喰おうとする…違う意味の方かな?(・ω・)

解除

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。