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29:来訪者
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山に入って一週間。
地図で見るとこの辺りが、ちょうど中間地点みたいだ。地図上には建物が描かれているけど……。
「お、あった。あれが中間地点の目印みたいだぞ」
丘の先に建物が見えた。崖を削って造ったような、まるで神殿のような建物だ。
大きくはないけど、雨風を数十人がしのぐには十分な大きさだ。
「今夜はあそこで野宿?」
「そうしよう。せっかく用意されている建物だ。有効活用しなっきゃ、建ててくれた人たちに申し訳ないしね」
「しかしどうせテントで寝るのだろう」
当たり前じゃんか。
いくら建物の中だといっても、気温は低いんだ。
一定温度に保たれているテント内の方が、快適に過ごせるんだからな。
到着してみると、やっぱり崖を削って造られたものだっていうのが分かった。
扉はない。前面の壁もない。
あれ? これじゃあ中で休んでも、めちゃくちゃ寒いんじゃ?
「テント、あってよかったわね……」
「だな」
中は不思議と、薄っすら明るかった。
「天井にヒカリゴケが生えていますのね」
「表に壁がないから吹きっさらしかと思ったけど、意外と暖かいのね」
「風が吹き込まないのは有難いね。俺のテントでも、風が吹くとパタパタうるさかったし」
少し奥まで進んでテントを張った。
ランタンを灯し、焚火台を使って火も起こす。さすがに神殿の床で、直火は罰当たりだろうと思うしね。
「ここって、神殿みたいな造りだけど」
「うむ。神殿だの。奥を見てみるといい。神の像が立っておるだろう」
んー、どれどれ……。
本当に奥の方だな。ぼんやりとしか見えないぞ。
見に行ってみると、そこには五体の像が並んでいた。
よく見ると、そのうち四体の像には見覚えがある……気がする。
「主は会ったことがあるか?」
パタパタと飛んで来て、俺の頭に着地した銀次郎が訪ねて来る。
その声にはどこか含むものがあった。
「会ったこと……会った……あ」
ある。
最初のあの森で出会った四人の神様だ。
もちろん、若返った方の姿だけど。
「あ、そうだ。お礼言っておかなきゃ。神様たち、加護をくださってありがとうございます。おかげでこの世界でも、無事に生きながらえております」
加護なかったら絶対死んでたよなぁ。あの森ん中で。
無敵テントはまるで鈍器だし、本来のテントとして使っても快適極まりない。
あ、いや、そうじゃない面もあるにはある。
といってもテントのせいじゃない。
やっぱり風呂だよなぁ。
桶風呂にしてるけど、水をはるのが大変だし、入っている最中の水跳ねも気にしなきゃならない。
底面がなく、サウナテントみたいに地面が剥き出しになってれば、テントを濡らす心配も少しは緩和出来るんだろうけど。
いや、どっちにしろ二人用テントだし、狭い所に無理やり桶を置いてるからな。水が跳ねて側面も濡れるさ。
広さの拡張も出来ればよかったのになぁ。
あともうちょっと立派なお風呂が欲しい。というか安心して入れるお風呂設備が欲しい。
それとマット。
シュラフとマットは一組しかない。アイラに使って貰ってるけど、俺の分も欲しい。
ソロキャンプだし、一組しかないのは当たり前なんだけどさ。
だけどそのマットも、さすがに硬い地面の上だと快適とは言えないんだよなぁ。
なんせエアーだし。
横幅も広かったら、寝返りもうてるんだろうけど。
厚みと横幅が、今の倍になったらなぁ。
あ、そうじゃなくって。
神様にありがとうって伝えるんだった。
「そうだ」
ポケットからミニカーカートを取り出し、ロックを解除して元のサイズへ。
モンスター素材も入っているから、既に拡張サイズだ。
風呂桶に突っ込んでいる荷物の中から、レトルトのぜんざいを取り出した。
カート内にスーパーの袋を置いたまま、そこからぜんざいを取り出せば即補充される。
ぜんざいを四つにしたら、それを──いや、五つにしよう。
もうひとりの神様像の人は誰だか知らないけど、仲間外れだと悲しむだろうし。
神様の像の足元に、ぜんざいをひと袋ずつ置いていく。
これは前回、あの森でも出さなかったものだ。
「甘い物苦手な神様がいたらごめんなさい」
そう言って手を合わせると、俺はアイラたちの方へと戻った。
「ふぅ~、ごちそうさまぁ」
「美味しかったですわぁ。クック丼と仰いましたか?」
「半分はね。クック肉の他にも、焼き鳥缶を開けたんだ」
焼き鳥缶と、火で炙ったクック肉、それとスライスした玉葱で、親子丼を作った。
付け合わせは野菜炒めとインスタントの味噌汁だ。
今夜はテント風呂にも入った。
十分な薪を用意し、火の番を交代ですることに。
クロエ、銀次郎、俺、最期にアイラの順で。
旅慣れしてきたのか。最近は寝つきが良くなった。
起きると少し背中が傷むけどね。
「──さん」
ん、んん。もう俺が見張る番か?
「──みさん。起きてますか~?」
「ん……だ、れ……」
女の人の声だ。でもアイラやクロエじゃない。
「拓海さん、起きてください」
え!?
俺をちゃんとした名前で呼ぶのは──
「これ、どうやって食せばよろしいのでしょうか?」
ニコニコと笑みを浮かべ、手にはレトルトぜんざいを持った豊穣の女神様だった。
地図で見るとこの辺りが、ちょうど中間地点みたいだ。地図上には建物が描かれているけど……。
「お、あった。あれが中間地点の目印みたいだぞ」
丘の先に建物が見えた。崖を削って造ったような、まるで神殿のような建物だ。
大きくはないけど、雨風を数十人がしのぐには十分な大きさだ。
「今夜はあそこで野宿?」
「そうしよう。せっかく用意されている建物だ。有効活用しなっきゃ、建ててくれた人たちに申し訳ないしね」
「しかしどうせテントで寝るのだろう」
当たり前じゃんか。
いくら建物の中だといっても、気温は低いんだ。
一定温度に保たれているテント内の方が、快適に過ごせるんだからな。
到着してみると、やっぱり崖を削って造られたものだっていうのが分かった。
扉はない。前面の壁もない。
あれ? これじゃあ中で休んでも、めちゃくちゃ寒いんじゃ?
「テント、あってよかったわね……」
「だな」
中は不思議と、薄っすら明るかった。
「天井にヒカリゴケが生えていますのね」
「表に壁がないから吹きっさらしかと思ったけど、意外と暖かいのね」
「風が吹き込まないのは有難いね。俺のテントでも、風が吹くとパタパタうるさかったし」
少し奥まで進んでテントを張った。
ランタンを灯し、焚火台を使って火も起こす。さすがに神殿の床で、直火は罰当たりだろうと思うしね。
「ここって、神殿みたいな造りだけど」
「うむ。神殿だの。奥を見てみるといい。神の像が立っておるだろう」
んー、どれどれ……。
本当に奥の方だな。ぼんやりとしか見えないぞ。
見に行ってみると、そこには五体の像が並んでいた。
よく見ると、そのうち四体の像には見覚えがある……気がする。
「主は会ったことがあるか?」
パタパタと飛んで来て、俺の頭に着地した銀次郎が訪ねて来る。
その声にはどこか含むものがあった。
「会ったこと……会った……あ」
ある。
最初のあの森で出会った四人の神様だ。
もちろん、若返った方の姿だけど。
「あ、そうだ。お礼言っておかなきゃ。神様たち、加護をくださってありがとうございます。おかげでこの世界でも、無事に生きながらえております」
加護なかったら絶対死んでたよなぁ。あの森ん中で。
無敵テントはまるで鈍器だし、本来のテントとして使っても快適極まりない。
あ、いや、そうじゃない面もあるにはある。
といってもテントのせいじゃない。
やっぱり風呂だよなぁ。
桶風呂にしてるけど、水をはるのが大変だし、入っている最中の水跳ねも気にしなきゃならない。
底面がなく、サウナテントみたいに地面が剥き出しになってれば、テントを濡らす心配も少しは緩和出来るんだろうけど。
いや、どっちにしろ二人用テントだし、狭い所に無理やり桶を置いてるからな。水が跳ねて側面も濡れるさ。
広さの拡張も出来ればよかったのになぁ。
あともうちょっと立派なお風呂が欲しい。というか安心して入れるお風呂設備が欲しい。
それとマット。
シュラフとマットは一組しかない。アイラに使って貰ってるけど、俺の分も欲しい。
ソロキャンプだし、一組しかないのは当たり前なんだけどさ。
だけどそのマットも、さすがに硬い地面の上だと快適とは言えないんだよなぁ。
なんせエアーだし。
横幅も広かったら、寝返りもうてるんだろうけど。
厚みと横幅が、今の倍になったらなぁ。
あ、そうじゃなくって。
神様にありがとうって伝えるんだった。
「そうだ」
ポケットからミニカーカートを取り出し、ロックを解除して元のサイズへ。
モンスター素材も入っているから、既に拡張サイズだ。
風呂桶に突っ込んでいる荷物の中から、レトルトのぜんざいを取り出した。
カート内にスーパーの袋を置いたまま、そこからぜんざいを取り出せば即補充される。
ぜんざいを四つにしたら、それを──いや、五つにしよう。
もうひとりの神様像の人は誰だか知らないけど、仲間外れだと悲しむだろうし。
神様の像の足元に、ぜんざいをひと袋ずつ置いていく。
これは前回、あの森でも出さなかったものだ。
「甘い物苦手な神様がいたらごめんなさい」
そう言って手を合わせると、俺はアイラたちの方へと戻った。
「ふぅ~、ごちそうさまぁ」
「美味しかったですわぁ。クック丼と仰いましたか?」
「半分はね。クック肉の他にも、焼き鳥缶を開けたんだ」
焼き鳥缶と、火で炙ったクック肉、それとスライスした玉葱で、親子丼を作った。
付け合わせは野菜炒めとインスタントの味噌汁だ。
今夜はテント風呂にも入った。
十分な薪を用意し、火の番を交代ですることに。
クロエ、銀次郎、俺、最期にアイラの順で。
旅慣れしてきたのか。最近は寝つきが良くなった。
起きると少し背中が傷むけどね。
「──さん」
ん、んん。もう俺が見張る番か?
「──みさん。起きてますか~?」
「ん……だ、れ……」
女の人の声だ。でもアイラやクロエじゃない。
「拓海さん、起きてください」
え!?
俺をちゃんとした名前で呼ぶのは──
「これ、どうやって食せばよろしいのでしょうか?」
ニコニコと笑みを浮かべ、手にはレトルトぜんざいを持った豊穣の女神様だった。
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