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27:さらば砂漠

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「まぁ! かわいい玩具の荷車ですのね」

 早朝、早い時間に町を出た。
 見渡す限り砂、砂、砂。そんな中でポケットからカートを取り出し、クロエに見せた。
 ミニカーサイズのそれは、子供の玩具同然だ。

「実はこういう仕掛けになっているんだ」

 と、カートのロックを小指の先で解除して、すぐに地面へ置く。
 するとむく、むくくと大きくなった。

「お、大きくなった!」
「元々はもっと小さいサイズなのよ。タック、このままにしておく?」
「いやぁ、中に入ってる物がないし、縮めておこう」

 ギルドに素材を下ろすとき、その場でこいつを広げる訳にもいかない。
 路地裏でこっそり広げたら、狩場からこいつを引っ張って来ましたと言わんばかりに引いてギルド前まで運んでいた。
 終わったらまた路地裏で、誰にも見られないよう縮めてポケットへ。
 これが結構面倒くさい。

「この世界にも、アイテムボックス的なものがあればいいのになぁ」
「あいてむぼっくす? なにそれ」
「あー、小さな鞄や巾着の中が別の空間になってて、無限にアイテムを入れられるってヤツ」
「え!? タックが住んでいた所には、そんなものがあるの!?」

 ないです。
 アイテムボックスも創作上のものだな。まぁ元ヘタはゲームなんだけど。

「無限、ではありませんが、似たようなものでしたらありますわよ」
「「え!?」」
「古代魔法王朝の遺産ですけれど」
「魔法王朝って、この砂漠地帯にあったっていう?」
『何を言っておる。魔法王朝はこの大陸全土を統一していた国だぞ』
「いいえ。この大陸そのものが、魔法王朝という一つの国だったのですわよ」

 じゃあ……キャンプカートを魔法王朝の遺産、と言って誤魔化せるかも?

『そんなことより飯だ! キャンプ飯を所望する!!』





「ん~。このぜんざい、というものは、とっても甘味でほっぺがとろけ落ちそう」
「氷を入れて冷やして食べても美味しいのよ」
「本当!? やってみたいですわ、アイラさん」
「やりましょう!」

 ぜんざいが食べたいという銀次郎の要望で、朝からぜんざいを用意することになった。
 町で買った鍋にレトルトのぜんざいを十袋分入れ、直接煮込めば完成だ。
 アイラとクロエは半日で仲良くなり、氷を入れたぜんざい一つでキャッキャと楽しんでいた。

「我も氷を所望する!」
「あー、はいは……おいっ」

 俺は慌てて銀次郎の口を塞いだ。
 お互い『ドラゴンじゃないフリ』をし、更に銀次郎にはクロエの正体を明かしていない。
 銀次郎にとってクロエは人間なのだ。なのに人前で喋るなんてっ。

「ん? んおっ!? キ、キギゥイ」
「いや、もう手遅れ……」

 だって銀次郎の頼みとあって、嬉しそうに氷を用意しているクロエがここにいるから。
 せめてクロエさん、驚いたフリとかしてくれよ。

 俺の願いはクロエじゃなく、アイラに伝わったようだ。
 アイラが慌ててクロエへと耳打ちすると、そこからわざとらしくクロアが驚いてみせた。

「ま、まぁ銀さまったら、言葉を話せますのね。凄いですわ、まるでドラゴンのよー」

 め、めちゃくちゃ棒読みいぃぃぃーっ。

「ウ、ウホン。ま、まぁな。実はそうなのだ。我はドラゴン。だが人前で正体を明かせば、混乱を招く。故に小人ドラゴンのフリをしておるのだ」
「そうだったのですねー。分かりましたわ。わたくし、誰にも口外いたしませんわ」
「そうしてくれ娘よ」
「はい」

 ということになったようだ。
 いやぁ、それにしても……この二頭、絶対役者にはなれないな。

 テントの中で朝食を済ませた後、山上りのルートについて話し合った。
 雑貨屋で買った登山用の地図には、二つのルートが書かれている。

「比較的安全かつ歩きやすいルートは、北側に出るまで半月以上かかるって話だ」

 高い山を迂回するルートになっていた。

 もう一つは高い山をそのままばく進するルート。こっちは十日前後かかるという。
 険しい山道だから、当然歩きやすい訳がない。滑落の危険だってあるだろう。

 銀次郎をちらりと見る。
 大きくなって、俺たちを乗せて飛んでくれたりしないだろうか?

 でも……それだと面白みがない。
 旅をするのが目的だってのに、ドラゴンの背中に乗ってビューンってのはなぁ。

「なんだ。我に乗って山越えがしたいを言うのか?」
「あ、いや、そも……」
「止めておけ。この山の上空は、風がかなりきつい。そのうえ気温もかなり低いぞ。山を越える前に、凍死する恐れもある」
「だ、だよな。うん、自力で山越えするから大丈夫だ」

 そうか。空を飛ぶなら、山の更に上をいかなきゃならないんだ。
 山頂は雪が積もっているし、気温はマイナス何度……もしかすると何十度かもしれない。
 そこへ更に強風となれば……乗ってる俺たちの生命が危うくなる。

 やっぱりズルはよくないよな。

「急ぐ旅じゃないし、こっちの安全ルートでいかないか? ゆっくり山の景色も楽しめるだろうし」
「私はそれでいいわ。砂漠以外を歩くなんて初めてだもん。いきなり雪山は難易度高すぎるしね」
「わたくしはお二人に合わせますので、異論はございませんわ」
「それじゃあ、遠回りでも安全ルートで進もう!」

 ・
 ・
 ・

 その十日後。

「安全ルートって、なんだろうな」
「比較的……って、雑貨屋のおじさん言ってたわ……ね」

 断崖絶壁こそない、平坦な道も一切ない。
 身の丈ほどもある岩を上ったり下りたり、更にモンスターの襲撃。
 足を踏み外せば斜面を転げ落ちるようなこの状況を、どうやったら安全だと言えるのか。

 異世界人の言う「安全」って言葉なんて、信じるものか!!
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