26 / 31
26:友人のアドバイス
しおりを挟む
「えぇっと、防寒具と鍋、食器。念のための予備の毛布っと」
「食材はどうする?」
「なるべく荷物を多くしたくないし、手持ちの食材でなんとかしよう」
『我は構わぬぞ。ぜんざいの頻度を上げてくれればな』
お湯ぽちゃで温めるレトルトタイプのぜんざいだから、用意するのが面倒くさいんだよなぁ。
こんなことならお湯を注ぐだけのカップのやつにすりゃよかった。
でもレトルトの方が、味が濃くて美味いんだよなぁ。粒もしっかり入ってるし。
「手持ちのと仰っていますけど、そのリュックには銀さましか入っていないのでは?」
クロエは首を傾げて心配そうに俺たちを見る。
彼女にはまだカートのことやテントのこと、そして俺のことは話をしていない。
人前でその話をする訳にも行かないし、さっさと買い物を済ませて宿へと向かった。
「今日は二部屋取ろうか。ベッド三つの部屋なんてないしさ」
「二人部屋とひとり部屋で二部屋取るより、四人部屋の方が安いじゃない」
「そ、そうなんだけどさ」
「あら、わたくしのことでしたらお気になさらないで」
「だって。タック、節約できるところは節約しなきゃ」
クロエはいいとして、アイラはもう少し年頃の女の子らしく、恥じらいを持つべきだと思うんだけどな。
「はぁ~。お風呂。ふふふぅ~ん、ふふ、お・ふ・ろぉ」
先に風呂を終えて部屋で待ってると、鼻歌交じりのクロエの声が廊下から聞こえて来た。
部屋へと戻って来たクロエは、かなりご満悦なようだ。
「はぁ~。たかが温かいお湯に浸かるだけ、と思っていましたが、なぁんて気持ちいいんでしょう」
「風呂が気に入ったようだな」
「えぇ。普段はたま~に水浴びする程度で、温かいお湯に浸かったことはありませんでしたから」
巨大なドラゴンじゃ、入れるような風呂がないもんなぁ。
「泡で体を洗うなんてのも、初めての体験ですわ」
「最初、石鹸を食べようとしたから慌てたわよ」
「ア、アイラさん、言わないでっ。恥ずかしいですわっ」
なんか、二人で風呂に入って仲が良くなった……みたいな?
「銀さまもお入りなったらよろしいのに」
「ギュイィ」
「ん?」
あ、そうだった。クロエには言ってなかったな。
「あ、ノゾムさま。さっき食堂で美味しそうなデザートを見つけたんですけど」
「キュッ! イキュイキュ!!」
「タック、ちょっと行ってくるわね」
「うん、じゃあお金、渡しておくよ」
アイラが銀次郎を連れて部屋を出ていく。その姿をクロエが物欲しそうな顔で見つめた。
「それで、銀さまはどうしてお喋りになられませんの?」
「うん。今は小人ドラゴンのフリをしているんだ」
「小人ドラゴン!? ど、どうしてそんな雑魚モンスターのフリなんかっ」
「うん。誰かさんが孵化直後の銀次郎を襲ったりしたから、力が完全に戻ってないんだ」
「ち、力が? それはいったい、どういうことですの」
どうって、孵化直後は体力魔力が低下してるって……。
え、知らないのか?
「わ、わたくしは、孵化後の殿方を負かせれば、殿方のハートを掴めるって……」
「教えて貰った、と?」
クロエはこくりと頷く。
「お友達、ですの。恋愛の先輩でもありますわ」
「え、じゃあ相手を襲って強さを示すことが、ドラゴン流の告白方法だってのは本当のことなのか?」
「……わか……りませんわ。銀さまのあの嫌がりようを見れば、彼女の言ったことが真実だと思うのは……」
もし、クロエの友人が嘘を教えたとして、なんの得があるんだ?
考えられるとすると、その友人も実は銀次郎のことを狙っているっていうことぐらいか。
クロエが嫌われるよう仕向けて、横からNTRるとか。
けど、銀次郎はそもそも、クロエのことを知らなかったんだ。
嫌われるように仕向ける必要なんてないだろう?
じゃあ……なんで?
「と、とにかく、銀次郎がドラゴンだと気づかれる訳にはいかないんだ。体力魔力が下がってる状態だと、人間にだって狩られやすくなるだろ?」
「そ、そうですわね。わたくしたちドラゴンを狩ることが出来れば、それだけで人間には名声と、そして富を得ることが出来ますもの」
富……ドラゴンの素材か。
「上位ドラゴンの血肉は、不老不死の妙薬だなどと言われていますし」
「そりゃなおのこと、お前たちの正体は隠さなきゃな。でもそれ、嘘なんだろ?」
「当然ですわ。不老不死だなんて神ですらなれないのに、わたくしたちを食べることでなれるのなら、今頃この世界には多くの神が闊歩していますわよ」
少なくとも四人はその辺をぶらぶら散歩しているみたいだけどな。
「あぁ、でも。不老不死にはなりませんが、古竜種の血を飲めば高い魔力を得られ、肉を喰らえば強靭な体を手に入れられますわよ」
……マジか。
「い、いいかクロエ。お前も銀次郎も、人前では絶対にドラゴンだと悟られるな。いいな?」
「わ、分かっていますわよ。銀さまをお守りするためですものね。心得ましてよ」
「お前もだよ。とんでもパワーがあっても、それだけじゃ勝てない相手だってどこかにいるかもしれないんだ。それに──」
ドラゴンの血肉を食ってパワーアップするのは、何も人間だけじゃないはず。
強いモンスターにたまたま喰われでもしたら、とんでもない化け物を生み出すかもしれないんだぞ。
とりあえず、うっかり身バレしましたを避けるために、早めに町を出よう。
「食材はどうする?」
「なるべく荷物を多くしたくないし、手持ちの食材でなんとかしよう」
『我は構わぬぞ。ぜんざいの頻度を上げてくれればな』
お湯ぽちゃで温めるレトルトタイプのぜんざいだから、用意するのが面倒くさいんだよなぁ。
こんなことならお湯を注ぐだけのカップのやつにすりゃよかった。
でもレトルトの方が、味が濃くて美味いんだよなぁ。粒もしっかり入ってるし。
「手持ちのと仰っていますけど、そのリュックには銀さましか入っていないのでは?」
クロエは首を傾げて心配そうに俺たちを見る。
彼女にはまだカートのことやテントのこと、そして俺のことは話をしていない。
人前でその話をする訳にも行かないし、さっさと買い物を済ませて宿へと向かった。
「今日は二部屋取ろうか。ベッド三つの部屋なんてないしさ」
「二人部屋とひとり部屋で二部屋取るより、四人部屋の方が安いじゃない」
「そ、そうなんだけどさ」
「あら、わたくしのことでしたらお気になさらないで」
「だって。タック、節約できるところは節約しなきゃ」
クロエはいいとして、アイラはもう少し年頃の女の子らしく、恥じらいを持つべきだと思うんだけどな。
「はぁ~。お風呂。ふふふぅ~ん、ふふ、お・ふ・ろぉ」
先に風呂を終えて部屋で待ってると、鼻歌交じりのクロエの声が廊下から聞こえて来た。
部屋へと戻って来たクロエは、かなりご満悦なようだ。
「はぁ~。たかが温かいお湯に浸かるだけ、と思っていましたが、なぁんて気持ちいいんでしょう」
「風呂が気に入ったようだな」
「えぇ。普段はたま~に水浴びする程度で、温かいお湯に浸かったことはありませんでしたから」
巨大なドラゴンじゃ、入れるような風呂がないもんなぁ。
「泡で体を洗うなんてのも、初めての体験ですわ」
「最初、石鹸を食べようとしたから慌てたわよ」
「ア、アイラさん、言わないでっ。恥ずかしいですわっ」
なんか、二人で風呂に入って仲が良くなった……みたいな?
「銀さまもお入りなったらよろしいのに」
「ギュイィ」
「ん?」
あ、そうだった。クロエには言ってなかったな。
「あ、ノゾムさま。さっき食堂で美味しそうなデザートを見つけたんですけど」
「キュッ! イキュイキュ!!」
「タック、ちょっと行ってくるわね」
「うん、じゃあお金、渡しておくよ」
アイラが銀次郎を連れて部屋を出ていく。その姿をクロエが物欲しそうな顔で見つめた。
「それで、銀さまはどうしてお喋りになられませんの?」
「うん。今は小人ドラゴンのフリをしているんだ」
「小人ドラゴン!? ど、どうしてそんな雑魚モンスターのフリなんかっ」
「うん。誰かさんが孵化直後の銀次郎を襲ったりしたから、力が完全に戻ってないんだ」
「ち、力が? それはいったい、どういうことですの」
どうって、孵化直後は体力魔力が低下してるって……。
え、知らないのか?
「わ、わたくしは、孵化後の殿方を負かせれば、殿方のハートを掴めるって……」
「教えて貰った、と?」
クロエはこくりと頷く。
「お友達、ですの。恋愛の先輩でもありますわ」
「え、じゃあ相手を襲って強さを示すことが、ドラゴン流の告白方法だってのは本当のことなのか?」
「……わか……りませんわ。銀さまのあの嫌がりようを見れば、彼女の言ったことが真実だと思うのは……」
もし、クロエの友人が嘘を教えたとして、なんの得があるんだ?
考えられるとすると、その友人も実は銀次郎のことを狙っているっていうことぐらいか。
クロエが嫌われるよう仕向けて、横からNTRるとか。
けど、銀次郎はそもそも、クロエのことを知らなかったんだ。
嫌われるように仕向ける必要なんてないだろう?
じゃあ……なんで?
「と、とにかく、銀次郎がドラゴンだと気づかれる訳にはいかないんだ。体力魔力が下がってる状態だと、人間にだって狩られやすくなるだろ?」
「そ、そうですわね。わたくしたちドラゴンを狩ることが出来れば、それだけで人間には名声と、そして富を得ることが出来ますもの」
富……ドラゴンの素材か。
「上位ドラゴンの血肉は、不老不死の妙薬だなどと言われていますし」
「そりゃなおのこと、お前たちの正体は隠さなきゃな。でもそれ、嘘なんだろ?」
「当然ですわ。不老不死だなんて神ですらなれないのに、わたくしたちを食べることでなれるのなら、今頃この世界には多くの神が闊歩していますわよ」
少なくとも四人はその辺をぶらぶら散歩しているみたいだけどな。
「あぁ、でも。不老不死にはなりませんが、古竜種の血を飲めば高い魔力を得られ、肉を喰らえば強靭な体を手に入れられますわよ」
……マジか。
「い、いいかクロエ。お前も銀次郎も、人前では絶対にドラゴンだと悟られるな。いいな?」
「わ、分かっていますわよ。銀さまをお守りするためですものね。心得ましてよ」
「お前もだよ。とんでもパワーがあっても、それだけじゃ勝てない相手だってどこかにいるかもしれないんだ。それに──」
ドラゴンの血肉を食ってパワーアップするのは、何も人間だけじゃないはず。
強いモンスターにたまたま喰われでもしたら、とんでもない化け物を生み出すかもしれないんだぞ。
とりあえず、うっかり身バレしましたを避けるために、早めに町を出よう。
99
お気に入りに追加
1,048
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる