異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

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25:悪役令嬢(ドラゴン)が仲間になりました

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「そ、それであなた、いつまで私たちと一緒に来るつもりなの?」

 屋台で昼食を済ませた後も、当然のようにブラックドラゴンは付きまとう。
 まぁ目的は銀次郎──だと思うから、離れる訳ないよな。
 ただ前のように、強引に襲おうという気配はない。

「いつまでと言われましても……」

 ブラックドラゴンはそう言ってこちらへと視線を向けた。
 俺を見ている、のではなく、銀次郎を見ていると信じたい。
 銀次郎は、腹が満たされたからと、リュックの中で眠っている。

「そう……そんなに彼《・》と一緒にいたいのね」
「か、彼!? わ、わたくしはそんな……ぁ……いやぁん、恥ずかしいですわ」

 真っ赤に顔を染め、ブラックドラゴンが身をくねらす。
 そんな様子を見て、アイラは何故か悲し気な表情を浮かべた。

「そう……好きなのね。でもどうして? 彼のどこを好きになったの?」
「どこ、と言われれば。やっぱり凛々しいお姿かしら。あぁ、あと強さですわね。んふ」

 やっぱりドラゴンって、強さが恋の基準なんだろうか。
 動物もそうだもんな。
 より強い子孫を残すために、強い雄と番になる。
 別におかしなことじゃない。おかしくないんだけど……知能の高いドラゴンも、それに該当するのか?

「わたくしがあの方のことを、何も知らないですって!?」
「見た目と強さ。それしか知らないんでしょ? そんなの、知っているとは言えないわ」

 ぅ……俺が考え事している間に、なんか修羅場ってるな。

「私だって出会ってまだそんなに経ってないけど……でも私は外見じゃなく、彼の内面を──」
「や、やっぱりあなたも、銀さまのことを!?」
「わ、分からないわっ。だってこの気持ち……え? 待って、銀さまって言ったの?」
「くっ。銀さまに想いを寄せる者がまだいたなんて。あなたっ、この雌とよくものほほんと一緒にいられますわね。恋のライバルですのに!?」

 頼むから、銀次郎のことで俺をカウントするの止めてくれませんか?

「タ、タック、どういうことよっ」
「話せば、まぁそう長くもないんだけど。とりあえずここじゃマズいかな。二人とも、移動しよう」
「銀さまがいらっしゃるなら、わたくしはどこへだって行きますわ」
「待って。あんた本当にノゾムさまのことを? でもだって、ノゾムさまはド……いいわ、とにかく行きましょう」

 二人を連れてひと気のない路地へと向かい、そこで黒髪の女ことブラックドラゴンの正体を告げた。

「「えぇぇー!?」」

 アイラが驚くのは分かるけど、なんでブラックドラゴンまで驚くんだ。
 まさか正体がバレてないって、まだ思っていたのか?

「ブブ、ブラ、ブラック……」
「ななな、なな、なんのことかしら? おほ、おほほほほほほほ」
「全身黒づくめ、金色の瞳。悪役令嬢のような口調。ブラックドラゴンそのものだろ」
「ぐっ……わ、わたくしの完璧な人化を見破るなんて……あなた、デキますわね」

 いやだから、どう見てもお前じゃん。
 アイラはこいつとあまち喋ってもいないから、気づかないのは仕方がない。
 だけど銀次郎だ。
 あいつ、力が弱まっているとはいえ、気づかなさすぎだろ。
 ってか人化出来るなら、銀次郎もそうして貰えばよかった。

 女の正体をブラックドラゴンだと知って怯えるアイラに、こいつが銀次郎にぞkっこんだと説明。
 話をしている間、女は頬を染めてもじもじと身をくねらせた。その姿を見て、アイラは理解したようだ。

「ま、待って。でもノゾムさまはあんたに食べられる、殺されるって叫んでいたじゃない」
「そこなんだよ。こいつはさ、告白のために強さを見せつけるもんだって言うんだ。ドラゴンの求愛方法って、本当に相手に攻撃するもんなのか?」
「わ、わたくしはそう聞いたから、銀さまに……」
「雄が雌をめぐって、他の雄と対立するっていう話なら動物やモンスターの世界でも耳にするけど……告白するのに雄を襲うっていうのは聞かないわね」

 ほらぁっと言わんばかりに、俺とアイラがブラックドラゴンに視線を向ける。
 ブラックドラゴン本人は不安そうに、その視線は泳いでいた。

 本人は知らず、誰かにそう教えられたのか。
 その教えられたことが本当のことなのか、真っ赤な嘘なのか。
 銀次郎に聞けば分かるんだろうけど……。

「ねぇあんた。本当にノゾムさまのことが好きなの?」
「ノゾムさまというのは、銀さまのことですわね? もちろん、好き……だと思いますわ」
「思う?」

 ブラックドラゴンは路地に置かれた木箱に腰を下ろし、それから空を見上げた。

「わたくし、あなたの言う通り、銀さまの容姿と強さしか知りませんもの。その二つには確かに惹かれていますが……内面は……何も知りませんわ」
「そう。だったら、これから知ればいいじゃない」
「え、これから……」

 ん?
 こ、この流れはもしかして……。

「これから一緒に、私たちと旅をすればいいじゃない。それで知っていけばいいわ。ね、タック」

 やっぱりその流れかぁ。
 まぁ……いつまでも解決しない訳にもいかないしな。

「分かった。だけど条件がある──」





「わたくし、東の大陸から旅をしてまいりました。乗った船が砂漠地帯の港でして……」
「山越えをして北を目指したいが、ひとりでは心細い。それで、北を目指そうとしている人を探していたんだってさ」
「私たちが丁度、そういう話をしていたから、ね」
『ふーん。それで、その娘も途中まで加わることにしたのか』

 そういうこと──にしておいた。

 まず条件として、ブラックドラゴンは正体を明かさないこと。
 明かせば銀次郎は怯えて、まともにコミュニケーションも取れないだろうから。
 それにこれは本人の希望でもあった。
 自然な形で銀次郎のことを知りたいから、と。

 銀次郎に正体がバレることは、当分はないだろうと彼女は言う。

 ──人化には大量の魔力を消費しますの。ほとんどゼロですわ。
 ──そしてより完璧な人間に近づけます。姿形だけではなく、気配までも。

 だから銀次郎に悟られなかった、と。
 ちなみに雄は体の大きさを自由に調整でき、雌は人化出来る。
 それが古竜種の特殊能力なんだとさ。
 銀次郎人化作戦はダメってことか。

 条件は他にもある。

「それじゃあ、旅支度をする為にまずは防寒着を買うか」
「お買い物ですわねっ。んふふ、楽しみですわ──きゃっ」

 ブラックドラゴンの肩が、通りすがりの屈強な男とぶつかった。

「あぁ、なんだねーちゃん。痛ぇーだろうっ。どうしてくれんだ、あぁ? 慰謝料の代りに、その体て支払って貰おうか」
「なん、ですって? このわたくしの体で──」
「おーい、クロエ・・・さぁん」

 クロエってのは、ブラックドラゴンの名前だ。
 さすがにブラックドラゴンなんて、人前、とくに銀次郎の前じゃ呼べないからな。
 黒=クロで、そこから女っぽい名前を考えようとしたら、クロエが浮かんだのでひとまず彼女にはそう名乗って貰うことに。

 彼女に課した条件。
 むやみに人を傷つけないこと。
 魔力は消耗しきっているが、あの細い体にはドラゴン級のパワーが残ったまま。
 だから人間なんて、簡単にふっ飛ばすことだって出来る。

「あ、あら。ふふふ、わたくしとしたことが」
「ぶつかったのは謝りますけど、あなたもこんなか細い女性とぶつかった程度で痛がるなんて。その筋肉は見掛け倒しですね」

 俺がそう言うと、男は顔を真っ赤にして「この野郎!」と拳を繰り出した。
 それを顔面で受け止めるが、ペチンっと触れた感じがしただけ。
 逆に男の方が、

「痛ってぇー!!!」

 拳を真っ赤に腫らしてピョンピョンと飛び跳ねた。

「な、なんて硬い奴なんだ、チクショー!」

 男は逃げるようにして立ち去り、俺たちはそれを見送った。

「あなた……やっぱり只者ではありませんわね。ふふ、わたくしのライバルに相応しいですわ」

 いや、ライバル認定はしなくていいから……。

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