異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

文字の大きさ
上 下
13 / 31

13:キャンプ泊改め宿

しおりを挟む
「では確認するぞ。まず、人族種どもの前では、荷車を出さぬこと」

 涼しい時間帯を選んで移動していたのもあって、町に到着したのはオアシスの村を出発して四日目の午前中だった。
 中へ入る前に、話し合ったことを再確認する。

「了解。最低限の荷物はリュックに入れた」
「うむ。次、テントは鈍器ということにしておく」

 ……なぜ?

「そうね。ノゾムさまの言う通り、テントは武器ってことにした方がいいわね。だってタック、テントでモンスターを殴り倒してるから」
「納得。じゃあ人前じゃテント張らない方がいいか」

 町中でテントを張るつもりはないけどさ。
 あと俺はアイラと同じ、オアシスの村出身ってことに。
 それなら、いろいろ知らないことだらけでも違和感がないからってことで。

「ノゾムさまも、町中ではお話しないでくださいね」
「無論だ」

 銀次郎は「小人ドラゴン」という種類の、トカゲ目モンスターの振りをして貰う。
 わりと似ているらしい。

 準備を整えた俺たちは、ついに町の中へと入った。
 外からは分からなかったけど、中は賑わっているなぁ。
 町と隣接するオアシスは、アイラの故郷のものよりも大きい。ガチの湖みたいなものだ。

「さて、どこに行けばいいんだろうなぁ」
「まずは素材の売却よね?」
「あぁ。重いし、早く身軽になりたい」

 昨日は久しぶりにモンスターを見た。もちろんテントでぶん殴って仕留めている。
 あっちの村の周辺にいたものより一回り小さいサソリだ。
 小さいと言っても、町中じゃカートは出せないからアイラと二人で縄で括って背負っている。

 町の人にモンスター素材の買取をしてくれる場所を尋ねると、やっぱり「冒険者ギルドだねぇ」と。
 道を聞きながらギルドまでやって来ると、それなりに人で賑わっていた。

「あっち。買取カウンターって書いてあるわ」

 空いているカウンターに向かって、買取依頼をする。

「冒険者ですか?」
「いえ、違います。ダメですか?」
「大丈夫ですよ。ただし手数料として、買取相場の二割を頂くことになります」
「構いません」

 よかった。冒険者登録をしていれば、手数料は一割だということだ。
 高額買取になればなるほど、その一割がデカくなっていくって訳だな。

 素材の数が少ないのもあって、査定はすぐに終わった。

「合計で、銀貨三枚になります」

 それを聞いてアイナを見る。彼女もどうやらピント来ていないようだ。

「すみません。俺たちオアシスの村から来たんですが、この町の宿って一泊いくらぐらいですか?」
「宿の質にもよりますが、平均的な宿で大銅貨二枚ほどです。あ、銀貨は大銅貨一〇枚分ですよ」
「ありがとうございます」

 ひとりなら五泊で銀貨一枚か。そう考えると、銀貨三枚は決して安くはなさそうだ。
 お金を受け取って外へと出る。

「どうする? 今夜は宿に泊まってみる?」
「ん、んー……タックが泊まりたいなら、それでも、いい、わよ」

 そう言いながら彼女はしきりと髪に触れている。
 四日間、風呂に入ってないもんなぁ。
 そりゃあ毎日、お湯を沸かしてタオルで体を拭いたり髪を濡らしたりもしてるけどさ。

「うん。宿に泊まろう」

 と俺が言うと、アイラの表情がパァっと明るくなった。





 風呂付宿は、ギルドで聞いた価格より大銅貨一枚分多かった。
 一般的な宿には風呂がないらしい。
 
 風呂を済ませて部屋い戻ったら、銀次郎はベッドの上でとぐろを巻くようにして眠っていた。
 うるさくない今のうちに、昼食用のホットサンドでも作っておくか。
 ハムサンド、焼き鳥サンド、あとポテトサラダサンドも作るかな。
 せっせせっせとホットサンドを作っていると、アイラが戻って来た。
 頬を紅潮させたアイラは、山積みになったホットサンドを見て笑った。

「ちょっと、何それ。いったいいくつ作ってるのよ」
「んー、これで三十三個目かな?」
「ぬおおぉぉぉぉぉっ! キャンプ飯のニオイがするぞぉぉぉぉーっ」
「あ、起きた。おい、静かにしろよ。しー、だ。しー」

 ベッドでとぐろを巻いていた銀次郎が、ぴゅーっと飛んで来てホットサンドの山へとダイブした。
 はぁ……飲み物用意しておくか。

 銀次郎と俺は炭酸コーラを、アイラは苦手そうだしアイスココアを用意。
 キャンプと言えばコーヒー……なんていう奴は多いけど、俺、コーヒー飲むと吐き気をおこすんだよなぁ。

「はぁ~、お風呂のあとのアイスココアって最高~」

 満面の笑みを浮かべながらアイスココアを飲むアイラ。
 アイラのお気に入りはココアの他に、きなこ団子、あとお湯を注ぐだけのインスタントお汁粉だ。
 甘いものが好きってあたりは、女の子だなぁと感じる。

「何日か滞在することになるけど、今日はゆっくり休むか」
「そうね。ずっと歩きっぱなしだったもんね」
「はぁー、貧弱よのぉ。これだから人族種は」
「その人族種の頭にずーっと乗ったままなのは、どこのどのドラゴン様でしたっけ?」
「……さ、さぁて、ひと眠りするか。ゲフッ」

 炭酸コーラを一気飲みしたあと、またベッドの上でとぐろを巻いて眠ってしまった。
 目を閉じると秒で寝れるって、羨ましい体質だな。

 明日からこの町を拠点にして、路銀稼ぎだな。
 北の山脈を越えるためのルートとかも調べておかないと。

「ふぐっ」
「んぁ? どうした、銀次郎」

 眠っていたかと思ったら、突然銀次郎が呻った。
 ぼぉっとした顔で「おかん」とか言っている。

 おふくろさん?
 ドラゴンの母親……まぁいたっておかしくはないけど。

 おふくろさんがどうしたのか尋ねようと思ったが、銀次郎はまた瞼を閉じて秒で寝てしまった。

「夢でも見たんじゃない?」
「ぷっ、母親の夢か。案外、甘えっこなのかもなぁ」
「えぇー、ノゾムさまが? ふふ、まっさかぁ」


 俺たちが小声でそんな話をしている最中、遠い南の魔瘴の森では──





「くふ、くふふふふふ。さすがですわ。わたくしのこの肌に傷をつけたのは、あなたが初めてですわよ。くふふふふふ」

 漆黒の鱗に身を包んだ巨大な生き物が、北の空を見上げて咆哮した。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...