異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

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「あの、ごめんねアイラ」
「べ、別に、仕方ないんだからいいもん」

 冷え込んで来たので俺たちはテントに入って寝ることにした。
 俺のテントは二人用サイズ。
 そう、二人用サイズだ。
 ダブルベッドとそう大きさは変わらない。

 二人が寝るだけのスペースはある。逆に言えば二人が眠るスペース程度しかない。
 そんなテントの中で俺とアイラが一緒に眠るんだ。
 密着する訳じゃないが、近いことは間違いない。

 シュラフはアイラが。俺はその下に敷くマットの上に寝転ぶ。
 テント内に敷いたシートはクッション性の高い物を使ってるってのもあるけど、下が砂地のおかげで体が痛いと感じることはない。

 えぇーっと、あとなんか考えることはあるかな。
 なんか考えて気を紛らわせてないと落ち着かない。
 隣で女の子が寝てるシチュエーションとか、これまでの人生であったか?

 あ、あったな。
 姪っ子一歳。

「ね、眠れないの?」
「え、あ……えーっと、ま、町に付いたら、何をしようかなと思ってね」
「んー、まずは路銀稼ぎじゃないかな」
「お金か。やっぱりお金は必要だよなぁ。ちなみに俺、こっちの世界の通貨だと一文無しなんだけど」
「期待していないから大丈夫。それに、私もお金なんて持ってないから」

 それは果たして大丈夫と言えるのだろうか。
 ド貧乏コンビじゃないのか?

「我も金など持ち合わせてはおらんぞ」
「それこそ期待してないよ。むしろ持ってたら驚くぞ」
「モンスターの素材は買取されているから、てっとり早く稼ぐなら素材狩りね」
「狩りかぁ」

 だが十日間で狩り過ぎたせいか、この辺りではモンスターの姿を見かけない。
 一応、小さくても高価だっていう素材を二つ三つ貰ってあるから、いくらかにはなるだろう。
 この世界の通貨や物価も分からないし、まずはそれを調べなきゃな。

 まぁ宿も食事も、俺のキャンプセットでどうにかなるから焦る必要はない。

「なーんか、冒険っぽくなってきたなぁ」
「タックは冒険者になりたいの?」
「え、冒険者が実装されてるってことは、まさかギルドがあったり? って、タック?」
「あっ。ちが、あの、か、かぐらっ」

 いやいや、言い直さなくてもいいんだけど。
 タックか。懐かしい響きだな。

「タックでいいよ。俺、子供の頃は友達とかに、そう呼ばれていたし。逆にかぐらはさ、『タックのくせにカッコ良過ぎる』とか言われて、そっちで呼ばれることの方が稀だったから」
「そ、そう……じゃあ、タック……て呼ばせて貰う、わね」
「うん。あ、それで冒険者ギルドとかあるの?」
「ギルドのことは聞いたことはあるけど、どんなところかは知らない。タックの世界にもあったの?」
「いや、ないよ。でも似たようなのならあったのかな」

 人材派遣会社とか、似ているんじゃないかな。
 違うのはモンスターを相手にした仕事の斡旋はないってこと。
 
 冒険者ギルドがあるなら、ダンジョンもあるのかなぁ。

「そろそろお前ら、寝た方がいいんじゃないのか? 数時間後には出発するのだろう」
「そ、そうだな。えっと、じゃあ、おやすみ、アイラ」
「う、うん。おやすみ、タック」

 その後、ずぅーっとドキドキしてなかなか寝付けず。
 意識が飛んだ──と思ったら、

「起きんか主。夜が明けるぞ」

 というドラゴンの声で起こされた。

 

 

「ふぃー、暑くなり始めたな。そろそろテントを広げよう」

 三時間ほど歩くと、早くも暑くなった。

「はぁー、賛成」
「キャッンプ~飯♪ キャッンプ~飯♪」

 ついに歌いだしたぞこのドラゴン。
 はぁ、じゃあ準備するか。

「手伝うわ」
「ありがとうアイラ。それじゃあ冷凍の焼きおにぎりをアルミホイルで包んで貰おうかな」
「れ、れいとー、ん? あるみほ??」
「あー、冷凍の焼きおにぎりがこれ、で、アルミホイル、これで包むんだ」

 実際に一つ包んで見せる。
 
 砂が熱い。アルミホイルに包んで砂の上に転がせておけば、すぐに自然解凍される。
 何十個もこれを作ってから、テントを張る準備をした。

 テントを固定するペグは、本来ならこんな砂地には刺さらない。というか倒れる。
 だけど加護のおかげか、砂漠でもしっかり立っていた。
 テントを張り終わったら焼きおにぎりを持って中へ入る。
 おかずには焼き鳥缶を開けた。

「主、焼きおにぎりにマヨネーズつけてみんか?」
「おまっ。それ禁断のレシピだぞ!!」
「なに!? き、禁断となっ」
「そうだ、禁断だ!!」

 焼きおにぎりにマヨネーズをぬる。
 テントの外でブレスると、醤油マヨが香る焼きおにぎりが完成。
 醤油のおこげとマヨネーズのおこげとが、絶妙なシンフォニーを奏でる。

「「うまあぁぁぁぁーいっ!」」
「アイラも一つ食べる?」
「え……ううん、今日はいい、かな」
「これを食わぬとは、娘の人生の半分は損をしておるぞ」

 いや、そこまでじゃないと思うけど。

「ドラゴン、お前は食べ過ぎだって。体が小さいんだから、胃袋も小さくなれよ」
「何を言う。これでも十分、小食ではないかっ」

 まぁ確かに。最初はステーキ肉何百枚も食べていたしなぁ。
 今は焼きおにぎり三〇個ほど。
 確かに少なくなった……かも?

「あの、ずっと思っていたのですが。ドラゴンさまにはお名前がないのでしょうか?」
「む? 我か。種としての名はあるが、個としての名はないな。そういったものは、人族種の習慣でしかないからな」
「そ、そうですか」
「確かドラゴンは、エンシェント・ホープドラゴンだっけか」
「うむ」

 額の鱗には希望を叶える加護があるとか、鑑定にあったけど。

「それって本当なのか?」

 と訊ねると、

「人間の勝手な妄想だ」

 という返答だった。
 希望もなにもねぇー。

 けど名前か。ずっとドラゴンって呼んでたけど、もし別のドラゴンと遭遇したらごっちゃになりそうだし。

 ホープ、希望。希望……金色のドラゴン。銀色の希望──

「なぁドラゴン。お前の名前さ、ノゾム・銀次郎なんてどうだ?」
「ノゾム?」
「銀色の希望っていう意味でね」

 全然違うけど。

「ノゾム・ギンジロー……ふっ、よいではないか! 我、エンシェント・ホープドラゴンの、ノゾム・ギンジローなり!!」

 小さなドラゴンは、そう言って胸を仰け反らせてきな粉餅を食べた。

「あ、これも美味いの」
 
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