異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

文字の大きさ
上 下
10 / 31

10:旅立ちのキャンパー

しおりを挟む
「狩りの手伝いなんて、別にいいのに」

 オアシスの村を取り戻して三日目。
 アイラと二人で狩りへとやって来た。

「もちろん、手伝いだけじゃないさ。旅をしていればお金は必要だしね。俺自身の分も含めて狩りをするのさ」
「あぁ、そういうことね。サンドパールが手に入らなかったし、その分稼がないとねぇ」
「そういうこと。それに俺、砂漠モンスターのことはよく分からないから、どの素材が売れるのかとかさ、教えてほしくてさ」
「そ、じゃあ──サンドブラックスコーピオンはお勧めよ。堅い甲羅はどの部位でも買い取って貰えるから」

 逆にサンドワームはダメ。ぶよぶよだし、食べる事も出来ないから──とアイラは言う。
 亜種にしても目玉以外は取引されないそうだ。
 さすが気持ち悪いだけのことはある。
 爬虫類系モンスターは、爪や牙、大型なら鱗も売れるらしい。
 鑑定でそのあたりも分かればいいのになぁ。

「かぐら、スコーピオンよ。三体いるわ」
「よしきた」

 とととっと駆けて行って、

「餌だぞ!」

 餌は俺です。さぁこい!

「ギチチッ」

 黒光りするサソリが突進して来て、そのハサミで俺の胴を真っ二つにしようとする。
 でも出来ない。
 ガキーンッって音がするだけ。
 やだ俺鉄の音がする。

「痛くないけど、痛いだろう!」

 無敵テントでぶん殴り、いっちょ上がり。
 残り二匹もぶん殴って、三体討伐完了。

「その服、変わったデザインだけどやっぱり魔法防具なので。スコーピオンのハサミをまったく受け付けないなんて、凄いわ」
「あー、うん。そうなんだ」

 俺がカッチカチなだけです。
 ここからサソリの解体ショーが始まる。
 背中の甲羅は硬くて刃が通らないが、お腹の方の繋ぎ目なら刃が通る。
 パカァっと開くと、意外と簡単に甲羅が身から外れた。

「なんかエビみたい……」
「えび? えびって何」
「あー、海とか川にいる甲殻類なんだ。モンスターじゃなくってね」
「海! 川!?」

 目を輝かせる彼女を見て、レイラの言葉を思い出す。
 アイラは外の世界に憧れているんです──という言葉を。

 だけどそう簡単なことじゃない。外には恐ろしいモンスターがいるし、北の山脈は険しく、越えるのは命懸けになる。
 とレイラは言っていた。

 え、そうなの?
 ずっと砂漠にいるつもりはないし、いつか越えなきゃならないんだけど。
 まぁ神様加護のテントやキャンプグッズもあるし、大丈夫な気がするけど。
 
 でもアイラにはそれがない。
 
「アイラはさ、村の外に出たいとか思わないのか?」
「え!? あ、え、なんでそんなこと」
「旅の話しを聞きたがるのは、興味があるからだろ?」

 暫く黙っていた彼女は、ため息を吐いた後にぼそりと呟いた。

「父との約束、だから」

 ──と。

 それからサソリを一心不乱に解体し、次の獲物を探し始める。
 解体した甲羅は、荷物を全部村に置いてきて身軽になったカートに積み込む。
 ロックを解除すれば、甲羅ごとミニカーサイズになってくれた。
 ただ甲羅をカートに乗せてから落しても、甲羅は補充されない。
 元々乗っていたモノだけが対象なんだろうな。

 カートは大きくないが、無理やり積み込んでやっと四匹分の甲羅しか入らない。
 一杯になったら村へ戻って下ろし、また狩りに出る。

 そんなことを十日も続けると、村には砂漠モンスターの素材が山のように溜まった。





「タクミさん。あなたのおかげで、この村は救われました。物々交換用のモンスター素材も、これだけあれば二年は安泰です」
「そのうえ狩り尽くしたから、暫くオアシスの周辺は安全よ」
「ふふふ。タクミさんは村の勇者様です」
「いやいや、俺は大したこといてないって。それより野菜の方はどう。根付きそう?」

 毛虫に荒らされた畑にどうかと思って、玉葱人参じゃがいもを提供した。
 根野菜はまんま持って来ていたし、上手くいけば発芽してくれる。じゃがいもなんかはそのまま種芋だ。
 
「はい。芽が伸びて来たものがあるようです。うまく根付いて花を咲かせてくれたら、そこから増やしていけそうです」
「それはよかった。これで安心して出発できるよ」
「はい……本当に、ありがとうございます」
「かぐら、私からもお礼を言うわ。あんなに沢山の素材集め、手伝って貰って。というか、ほとんどあんたがぼこってくれたんだけどさ」
「路銀稼ぎのついでさ、ついで」

 それだけじゃないんだけどね。
 
「かぐら、忘れ物はない?」
「んー、無敵テント持った、カート、クーラーボックスもよし。毛布入ってる。大丈夫、俺は・・ないよ」
「そ、よかった」
「じゃ、行くよレイラ」

 俺がレイラにだけ、別れを告げた。
 そのレイラは荷物を抱えて立っている。

「姉さん、それ。かぐらへのお土産なんじゃないの?」
「これ? これは……あなたの荷物よ」
「私、の? ど、どうして私の荷物なんか」

 レイラは荷物をアイラへと押し付けた。

「アイラ、行ってらっしゃい」
「行ってって……え?」
「村を出ていくのは危ないからダメだって言ったお父さんのいいつけ、ずっと守って来たけどもういいのよ。タクミさんと一緒なら、安全だもの」
「ちょ、かぐらと一緒に!?」

 アイラが俺を見る。
 正直に言えば、こんな可愛い女の子と二人でキャンプ旅なんて恥ずかしい。
 だけどずっとここでの暮らしを窮屈に感じて、飛び出したいと思っている彼女の気持ちも分かるんだ。

 ブラックって程じゃないけど、会社の先輩や上司がクソで何度辞めたいと思ったか。
 ソロキャンプだって、ガス抜きで始めたんだしな。

「こんな男と二人でキャンプ旅も嫌だろうけどさ、せめて北の山脈超えるまでは──」
「おいっ、主ぃぃ。我を忘れておるぞ、我を!」
「あー、男と雄の、二人と一匹のキャンプ旅。とにかく、北の山脈超えるまでは、俺たちと一緒に行こう。そうすれば安全だからさ」
「こやつを囮にすればよかろう。なんせ我の牙すら通らぬからな」

 ちっこいドラゴンがそれ言っても、バブみしかないんだけどな。

「アイラ。タクミさんとドラゴンさまと一緒に、外の世界に出てらっしゃい」
「姉さん……」
「ひとりだと危険だって、お父さんは言ってたでしょ。でもタクミさんやドラゴンさまが一緒なら、お父さんとの約束を破ることにはならないもの」
「で、でもっ」
「でもでもだってじゃないわ。アイラ、自分の気持ちに正直になって」

 レイラはそう言ってアイラを抱きしめた。
 
 俺にも姉がいたけど、まぁ性別が違うし年も少し離れてるってのもあるからだろうけど……姉弟仲は良くも悪くもなく、お互いあんまり干渉することもなかったもんな。

「ま、アイラが行きたくないって言うなら、俺は別にいいんだぜ。じゃ、行くかドラゴン」
「うむ。一緒に来ぬとは勿体ない。今ならキャンプ飯が食い放題というのにな」

 お前はいつだって食い放題だろ。
 
「ほら、アイラ。お二人が行ってしまうわよ」

 俺はわざと歩き出す。
 一歩、二歩。
 十メートル、二十メートルと歩いたところで、後ろから砂を蹴る音が聞こえた。

「わた、私も連れて行ってっ」

 こうしてキャンプ旅の仲間がひとり、増えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

処理中です...