上 下
3 / 31

3:ドラゴンの提案

しおりを挟む
「んぐおおぉぉぉぉ。水だ、水うぅぅぅ」

 ドラゴンは俺からの提案を受け入れた。
 食料と水を提供する代わりに、俺を襲うなという内容だ。
 水を見せたもんだからドラゴンはあっさり承諾。

 しかし……

「み……水、もう……なくなったのか」

 2L程度ではドラゴンの喉を潤すなんて無理ゲー過ぎるよな。

「まだあるよ。ちょっと待ってくれ」

 カートを元のサイズにして、クーラーボックスから水を二本出す。蓋をする。また出す。蓋をする。
 ドラゴンを見ながら、何本あればいいかなと考えて繰り返し、結局五〇本出したところでいったん中止。

「おぉ、おおおぉぉぉ。その荷車、いっぱいどうなっておる?」
「えぇっと、企業秘密で」
「きぎょーひみつ? なんじゃそりゃ。まぁよい、はよ水っ。なんなら器のまま──」
「ダ、ダメだ! ペットボトルは食べられないってっ」

 慌ててペットボトルの前に立ちはだかる。
 ドラゴンは残念そうに項垂れた。
 もどかしいのは分かるけど、仕方ないじゃん。

 三本のキャップを外し、それを抱えてドラゴンの口元へと近づけてやる。

「ほら、口開けろよ」
「む。むむ。そうか、その蓋さえ開けて貰えれば我が自分で飲めるぞ」

 自分で飲める?
 もしかしてラッパ飲みみたいな要領で、ペットボトルを口に咥えるとか?

 と予想したら全然違った。
 キャップを開けたペットボトルの中の水がぽこぽこと浮かび上がり、ドラゴンの口の中へと入っていく。

「どうじゃ」
「おぉ! だったらキャップを全部開けるよ」

 開けた傍から水がぽこぽこ浮かびだす。五〇本開ける続けるのって、何気に大変だな。
 人差し指が少し傷み始めるころ、ようやく五〇本達成!

「た、足りたか?」
「まずまずだの。さて、空腹はどうやって満たしてくれる?」
「あぁ、それなら──」

 ドラゴンって、生肉食べるかな?
 とりあえずジップロックに入れたステーキを取り出す。
 ジップロックの口を開け、

「これも浮かして自分で食べてくれないか? あ、食べるのは肉だけな」
「小さいのぉ。まぁ大量にあるのなら腹も膨れるか」

 クーラーボックスの蓋をぱかぱかするお仕事が増えたな。





「げふっ。満足だわい」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。そ、そりゃあ良かった」

 ステーキ肉はドラゴンにとって小さすぎた。
 おかげで百回以上、クーラーボックスをパカパカしたんだぜ。
 これ冷蔵庫だったら内部温度が絶対下がっただろ。
 幸いというか、蓋を開け閉めすることでボックス内の氷も元通りになってるんだけどさ。
 途中からステーキだけじゃ足りないと思って、スモークハムのブロックも出したよね。
 でも袋から出したり紐を切ったり、余計に手間が掛かった。

「しかし、いったいどういう仕組みなのだ、その荷車」
「だから企業秘密だって」

 くすんだような鉄色の鱗は、空腹を満たしたせいか艶が出始めた。
 元々は銀色のドラゴンなのかもしれない。

「それよりさっき、孵化したばかりだって言っていたけど……赤ちゃんドラゴンなのか? それにしてはおっさんクサイんだけど」
「お、おっさん!?」

 だって普通に胡坐をかいて腹撫でてる姿は、おっさんそのものだろ。

「我、ちょっとショックだ」
「我、とかいう赤ちゃんもいないぞ」
「赤ん坊ではない! まぁ人間には分からぬこと故、赤ちゃん呼ばわりは許してやろう」

 いや、赤ちゃんだとは全然思ってないから。

「我の種は千年おきに、永い眠りにつく。その際、寝込みを襲われぬよう、卵に閉じ籠るのだ」

 いったいどこの誰がドラゴンに夜ばいするのだろうか。

「孵化とは目覚めの意味だ。起きたばかりの状態だと、上手く魔力をコントロール出来ぬし、何より餓鬼状態でな」
「それと脱水状態」
「うむ。そこを奴に襲われてな」
「奴?」

 ドラゴンは南の空──つまり森の方角を見つめた。

「我と同じ種のドラゴンだ」

 ドラゴンがドラゴンを襲う。
 縄張り争いとか、そういうやつだろうか。

「主《ぬし》よ、今度は我の提案を聞いてくれぬか?」
「て、提案? 言っとくけど、俺を喰うっていうのはなしだぞ」
「喰わぬ喰わぬ。そもそも我は食人主義ではない。先ほどは止むにやまれぬ状況だったのだ」

 空腹の絶頂にあった場合、普段食べないようなものでも口にするしかない。
 まぁそれは分かる。
 ドラゴンにとって人間は、そういった非常用の肉だってのもまぁ、うん、分かるよ。

「お、それで、提案っていうのは?」
「うむ、よくぞ聞いた。主よ、暫くの間我を養え」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

「は?」
「だから養え、我を」

 俺がドラゴンを、養う?
 ステーキとハムか!?

「しょ、食料の提供か」
「それもある。だがな、主の体からは妙な気配を感じるのだ。それに荷車と、あの筒のようなものからも」
「妙ね気配? あー、か──」

 ドラゴンに話して平気か?
 内緒にしておいたほうがいいんだろうか。
 考えていると、ドラゴンが顔を近づけ鼻をすんすんと鳴らす。

「神の加護であろう。我ほどの存在になれば、それぐらい分かるわい」
「分かってて噛みついたのか?」
「ギクッ」

 あ、今ギクって言った。
 実際に口で言う奴いるんだ。へぇー。
 ってことはまぁ、最初は気づかず噛みついたってことだな。
 
「ごほんっ。ぬ、主、もしかして迷い人か?」
「ふえ!? な、なんでそれを──」
「ぐわはははははは。やはりか。うむうむ、我には分かっておったぞ、初めからなぁ」

 嘘つけ。今気づいたんだろうが。

 まぁそういうことならいいか。
 これまでの経緯をドラゴンに説明すると、奴はにんまり笑ってこう言った。

「やはり、主よ。我を養え」

 ──と。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...