2 / 31
2:テントは鈍器
しおりを挟む
真っ直ぐ北へ──
そう言われても、ほとんど空すら見えないこの森の中じゃ、東西南北なんて分からない。
たとえ空が見えたとして、太陽の動きが分からなきゃな。
それに、この世界の太陽が東から昇って西に沈むとも限らないし。
「考えても仕方ない。ホットサンド食べたら片付けて出発しよう」
──いくら使っても、使った分だけ補充されますからね。
豊穣の女神はそう言った。
補充って、まさか。
常温保存出来る食材は、スーパーの買い物袋に入れてカートの中へ。要冷蔵食品はクーラーボックスだ。
食パンをスーパーの袋から取り出す。六枚切りのうち、一枚取り出して残りは元に戻した。
カートを覗くと、食パンは六枚。
「本当に補充されてる!? じ、じゃあ飲み物はっ」
クーラーボックスから炭酸コーラを取り出す。
何も起きない。飲んで戻せばいいのか?
キャップを開けるとき、肘でクーラーボックスの蓋を閉めてしまった。
開けるとそこに、炭酸コーラがあった。
蓋閉めると復活するのか!?
試しにそれを取り出して蓋を閉め、開ける。
うん、炭酸コーラが三本になった。
「そ、そうだ! ガス缶っ。結構使ったけど、ガスも補充されるのか?」
カートから取り出して振ってみると、満タンのような感触だ。
マジか。
食材含めた消耗品が、無限に補充されるってこと!?
「よし、出発するか」
荷物をカートに乗せ、テントだけは収納袋に入れて背負う。
タイヤのロックを外した時だ──
「ひいぃっ。小さくなった!?」
カートが小さくなった。玩具のミニカーサイズにまでだ。
こ、これも加護なんだろうか。
これだけ小さくなったらマウンテンパーカーのポケットに入るな。
テントを背負い直し、とにかく歩き始めた。
歩いて歩いて──そして、
「ゴギャアアァァァッ」
「ああああぁあぁぁぁぁぁっ!?」
第一モンスター、発見。
いや遭遇。
猿みたいな見た目だが、顔はワニのようだ。
しかもデカい。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃっ。
「シャアアァァァァッ」
「うわあぁぁーっ!」
飛び掛かって来た。
咄嗟だった。咄嗟に俺は、背負ったテントを振り回した。
「ゴギャッ」
ワニ猿は……吹っ飛んだ。
──アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ。
結界? 武器の間違いじゃないですかね。
「はっ、はっ……森……出た……」
ここまで三日掛った。
森の中では何度もモンスターに襲われたが、テントのおかげで一発KO。
しかもテント内は完全な安全地帯。モンスターが突進して来ても、余裕で跳ね返してくれる。
テント最強。テント無敵!
おかげでモンスターだらけの森で、三日間無事に移動する事も出来たよ。
森を抜ければ人里に出ると思った。
思ったのに……砂漠じゃん!
前は砂漠、後ろは森。
空には太陽……とりあえず地球と同じと仮定して……テントを張って暫く太陽の動きを観察した。
その結果、砂漠の方角が北ってことになる。
はぁ、これを越えなきゃならないのか。
ポケットからカートを出し、地面に置いてから小さなロックを解除する。
するとあっという間にカートは元のサイズに戻った。
クーラーボックスから2Lの水を取り出し、リュックに詰めて背負う。
飲みたくなったらいつでも飲めるようにだ。
歩き出して暫くすると、上空からひゅー……んっと音がして巨大な何かが降って来た。
土煙が舞って、何が落ちて来たのか分からない。
ぶわっと土煙が割れた。
「糧となれ」
野太い男の声が聞こえたかと思うと、煙から飛び出してきたのは巨大な蜥蜴だった。
いや、これってまさか──
「ドラゴン!?」
次の瞬間、俺はドラゴンに……喰われた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
でも痛くなーい。
え、マジでドラゴンの牙も通さない体になってんの!?
「ぐぬ……牙が……我の牙が通らぬ!?」
「やっぱり喋ってる!?」
ドラゴンともなると、人間の言葉を話せるのか。
喋るのなら──
「お、おい。俺を喰おうとしたって無駄だぞ。なんせ俺は」
俺は神様の加護があるからと言おうとしたが、その前にドラゴンが口を離した。
そしてそのまま、ドォーンっと音を立てて倒れる。
え、俺なんかした?
「ぐ、ぐぅ……むね、ん。孵化したばかりで、なければ……くそ。喉が渇いたし、腹も減って力が出ぬ。そうでなければ、奴になど負けは、しない、のに」
孵化したばかり?
生まれたてのドラゴンってことなのか。いや、とてもそうは見えない。
パっと見、二〇メートルはありそうだ。
「み、水……せめて最後に水を……水……」
くすんだ鉄色の鱗には、輝きが全くない。
最後に水をと呟くその声にも、生気が感じられなかった。
俺を喰おうとした相手なのに、何故かかわいそうに見える。
水、水か。
「なぁ、ちょっと提案があるんだけどさ」
リュックから取り出したペットボトルを奴に見せ、そのキャップを外した。
そう言われても、ほとんど空すら見えないこの森の中じゃ、東西南北なんて分からない。
たとえ空が見えたとして、太陽の動きが分からなきゃな。
それに、この世界の太陽が東から昇って西に沈むとも限らないし。
「考えても仕方ない。ホットサンド食べたら片付けて出発しよう」
──いくら使っても、使った分だけ補充されますからね。
豊穣の女神はそう言った。
補充って、まさか。
常温保存出来る食材は、スーパーの買い物袋に入れてカートの中へ。要冷蔵食品はクーラーボックスだ。
食パンをスーパーの袋から取り出す。六枚切りのうち、一枚取り出して残りは元に戻した。
カートを覗くと、食パンは六枚。
「本当に補充されてる!? じ、じゃあ飲み物はっ」
クーラーボックスから炭酸コーラを取り出す。
何も起きない。飲んで戻せばいいのか?
キャップを開けるとき、肘でクーラーボックスの蓋を閉めてしまった。
開けるとそこに、炭酸コーラがあった。
蓋閉めると復活するのか!?
試しにそれを取り出して蓋を閉め、開ける。
うん、炭酸コーラが三本になった。
「そ、そうだ! ガス缶っ。結構使ったけど、ガスも補充されるのか?」
カートから取り出して振ってみると、満タンのような感触だ。
マジか。
食材含めた消耗品が、無限に補充されるってこと!?
「よし、出発するか」
荷物をカートに乗せ、テントだけは収納袋に入れて背負う。
タイヤのロックを外した時だ──
「ひいぃっ。小さくなった!?」
カートが小さくなった。玩具のミニカーサイズにまでだ。
こ、これも加護なんだろうか。
これだけ小さくなったらマウンテンパーカーのポケットに入るな。
テントを背負い直し、とにかく歩き始めた。
歩いて歩いて──そして、
「ゴギャアアァァァッ」
「ああああぁあぁぁぁぁぁっ!?」
第一モンスター、発見。
いや遭遇。
猿みたいな見た目だが、顔はワニのようだ。
しかもデカい。
逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃっ。
「シャアアァァァァッ」
「うわあぁぁーっ!」
飛び掛かって来た。
咄嗟だった。咄嗟に俺は、背負ったテントを振り回した。
「ゴギャッ」
ワニ猿は……吹っ飛んだ。
──アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ。
結界? 武器の間違いじゃないですかね。
「はっ、はっ……森……出た……」
ここまで三日掛った。
森の中では何度もモンスターに襲われたが、テントのおかげで一発KO。
しかもテント内は完全な安全地帯。モンスターが突進して来ても、余裕で跳ね返してくれる。
テント最強。テント無敵!
おかげでモンスターだらけの森で、三日間無事に移動する事も出来たよ。
森を抜ければ人里に出ると思った。
思ったのに……砂漠じゃん!
前は砂漠、後ろは森。
空には太陽……とりあえず地球と同じと仮定して……テントを張って暫く太陽の動きを観察した。
その結果、砂漠の方角が北ってことになる。
はぁ、これを越えなきゃならないのか。
ポケットからカートを出し、地面に置いてから小さなロックを解除する。
するとあっという間にカートは元のサイズに戻った。
クーラーボックスから2Lの水を取り出し、リュックに詰めて背負う。
飲みたくなったらいつでも飲めるようにだ。
歩き出して暫くすると、上空からひゅー……んっと音がして巨大な何かが降って来た。
土煙が舞って、何が落ちて来たのか分からない。
ぶわっと土煙が割れた。
「糧となれ」
野太い男の声が聞こえたかと思うと、煙から飛び出してきたのは巨大な蜥蜴だった。
いや、これってまさか──
「ドラゴン!?」
次の瞬間、俺はドラゴンに……喰われた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
でも痛くなーい。
え、マジでドラゴンの牙も通さない体になってんの!?
「ぐぬ……牙が……我の牙が通らぬ!?」
「やっぱり喋ってる!?」
ドラゴンともなると、人間の言葉を話せるのか。
喋るのなら──
「お、おい。俺を喰おうとしたって無駄だぞ。なんせ俺は」
俺は神様の加護があるからと言おうとしたが、その前にドラゴンが口を離した。
そしてそのまま、ドォーンっと音を立てて倒れる。
え、俺なんかした?
「ぐ、ぐぅ……むね、ん。孵化したばかりで、なければ……くそ。喉が渇いたし、腹も減って力が出ぬ。そうでなければ、奴になど負けは、しない、のに」
孵化したばかり?
生まれたてのドラゴンってことなのか。いや、とてもそうは見えない。
パっと見、二〇メートルはありそうだ。
「み、水……せめて最後に水を……水……」
くすんだ鉄色の鱗には、輝きが全くない。
最後に水をと呟くその声にも、生気が感じられなかった。
俺を喰おうとした相手なのに、何故かかわいそうに見える。
水、水か。
「なぁ、ちょっと提案があるんだけどさ」
リュックから取り出したペットボトルを奴に見せ、そのキャップを外した。
159
お気に入りに追加
1,041
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる