異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔

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2:テントは鈍器

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 真っ直ぐ北へ──
 そう言われても、ほとんど空すら見えないこの森の中じゃ、東西南北なんて分からない。
 たとえ空が見えたとして、太陽の動きが分からなきゃな。
 それに、この世界の太陽が東から昇って西に沈むとも限らないし。

「考えても仕方ない。ホットサンド食べたら片付けて出発しよう」

 ──いくら使っても、使った分だけ補充されますからね。

 豊穣の女神はそう言った。
 補充って、まさか。

 常温保存出来る食材は、スーパーの買い物袋に入れてカートの中へ。要冷蔵食品はクーラーボックスだ。
 食パンをスーパーの袋から取り出す。六枚切りのうち、一枚取り出して残りは元に戻した。
 カートを覗くと、食パンは六枚。

「本当に補充されてる!? じ、じゃあ飲み物はっ」

 クーラーボックスから炭酸コーラを取り出す。
 何も起きない。飲んで戻せばいいのか?
 キャップを開けるとき、肘でクーラーボックスの蓋を閉めてしまった。
 開けるとそこに、炭酸コーラがあった。

 蓋閉めると復活するのか!?
 試しにそれを取り出して蓋を閉め、開ける。
 うん、炭酸コーラが三本になった。

「そ、そうだ! ガス缶っ。結構使ったけど、ガスも補充されるのか?」

 カートから取り出して振ってみると、満タンのような感触だ。
 マジか。
 食材含めた消耗品が、無限に補充されるってこと!?





「よし、出発するか」

 荷物をカートに乗せ、テントだけは収納袋に入れて背負う。
 タイヤのロックを外した時だ──

「ひいぃっ。小さくなった!?」

 カートが小さくなった。玩具のミニカーサイズにまでだ。
 こ、これも加護なんだろうか。
 これだけ小さくなったらマウンテンパーカーのポケットに入るな。

 テントを背負い直し、とにかく歩き始めた。
 歩いて歩いて──そして、

「ゴギャアアァァァッ」
「ああああぁあぁぁぁぁぁっ!?」

 第一モンスター、発見。
 いや遭遇。

 猿みたいな見た目だが、顔はワニのようだ。
 しかもデカい。
 
 逃げなきゃ。逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃっ。

「シャアアァァァァッ」
「うわあぁぁーっ!」

 飛び掛かって来た。
 咄嗟だった。咄嗟に俺は、背負ったテントを振り回した。

「ゴギャッ」

 ワニ猿は……吹っ飛んだ。

 ──アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ。

 結界? 武器の間違いじゃないですかね。





「はっ、はっ……森……出た……」

 ここまで三日掛った。
 森の中では何度もモンスターに襲われたが、テントのおかげで一発KO。
 しかもテント内は完全な安全地帯。モンスターが突進して来ても、余裕で跳ね返してくれる。
 テント最強。テント無敵!
 おかげでモンスターだらけの森で、三日間無事に移動する事も出来たよ。

 森を抜ければ人里に出ると思った。
 思ったのに……砂漠じゃん!

 前は砂漠、後ろは森。
 空には太陽……とりあえず地球と同じと仮定して……テントを張って暫く太陽の動きを観察した。
 その結果、砂漠の方角が北ってことになる。

 はぁ、これを越えなきゃならないのか。

 ポケットからカートを出し、地面に置いてから小さなロックを解除する。
 するとあっという間にカートは元のサイズに戻った。

 クーラーボックスから2Lの水を取り出し、リュックに詰めて背負う。
 飲みたくなったらいつでも飲めるようにだ。

 歩き出して暫くすると、上空からひゅー……んっと音がして巨大な何かが降って来た。
 土煙が舞って、何が落ちて来たのか分からない。

 ぶわっと土煙が割れた。

「糧となれ」

 野太い男の声が聞こえたかと思うと、煙から飛び出してきたのは巨大な蜥蜴だった。
 いや、これってまさか──

「ドラゴン!?」

 次の瞬間、俺はドラゴンに……喰われた。
 
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

 でも痛くなーい。
 え、マジでドラゴンの牙も通さない体になってんの!?

「ぐぬ……牙が……我の牙が通らぬ!?」
「やっぱり喋ってる!?」

 ドラゴンともなると、人間の言葉を話せるのか。
 喋るのなら──

「お、おい。俺を喰おうとしたって無駄だぞ。なんせ俺は」

 俺は神様の加護があるからと言おうとしたが、その前にドラゴンが口を離した。
 そしてそのまま、ドォーンっと音を立てて倒れる。

 え、俺なんかした?

「ぐ、ぐぅ……むね、ん。孵化したばかりで、なければ……くそ。喉が渇いたし、腹も減って力が出ぬ。そうでなければ、奴になど負けは、しない、のに」

 孵化したばかり?
 生まれたてのドラゴンってことなのか。いや、とてもそうは見えない。
 パっと見、二〇メートルはありそうだ。

「み、水……せめて最後に水を……水……」

 くすんだ鉄色の鱗には、輝きが全くない。
 最後に水をと呟くその声にも、生気が感じられなかった。

 俺を喰おうとした相手なのに、何故かかわいそうに見える。

 水、水か。

「なぁ、ちょっと提案があるんだけどさ」

 リュックから取り出したペットボトルを奴に見せ、そのキャップを外した。
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