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1:神様とキャンプ飯

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「落ち着こう。まずは昼飯でも作るか」

 キャンプに来た──はずだった。
 芝生の上にテントを張り終え、一休みしようと椅子に座るのと同時に景色は一変。

 ここは森だ。
 張ったテントもカートも、椅子やテーブルもそのままある。
 だけど景色が違うし、さっきまで見えていた他のキャンパーの姿もない。
 どうなっているんだ、いったい。

「ふぅ。えぇっと、昼は……ホットサンドにするんだったな」

 カートから調理器具と食材を取り出す。
 スモークハムのブロックを、ちょっと厚めに切って塩と胡椒をすこーしだけ振る。
 ホットサンドメーカーを開いて、片面にパン、レタス、ハム、チーズ、パンの順に乗せて蓋を閉じて焼く。
 いい具合に焼き色が付けば完成!
 クーラーボックスから炭酸コーラを取り出し、ホットサンドと一緒にテーブルへと置いた。

「いただきま──」

 口を開けて構えていると、奥の茂みがガサガサと音を立てて揺れた。
 人か!?

「おぉ、おおぉぉ。いい香りがするのぉ」
「おやまぁ、ほんとですねぇ」
「こんな森の中でお食事かね、お若いの」
「なかなか勇敢な青年じゃのぉ」

 茂みから出てきたのは、汚れたワンピースを着た四人のお年寄り。
 男性三人、女性ひとりのお年寄りは、じぃーっとこちらを見ていた。
 明らかにホットサンドを見てるよな。
 よっぽどお腹が空いているんだろう。ま、これも何かの縁だ。ご馳走しよう。

「新しいの焼くんで、ちょっと待っててくれますか」

 食パンは六枚切りだから、ホットサンドは三つしか作れない。
 一つ作ったら最初のと合わせて半分に切り、それを四人に渡していく。

「飲み物は……クッカー、これしかないもんなぁ」
「マイコップがあるぞ」
「え……あ、あぁ。じゃあ、緑茶がいいですかね?」
「りょくちゃ? どんなものかしらねぇ」

 え、緑茶を知らない?
 あの汚れたワンピース、病院服に見えなくもない。
 まさか認知症患者とかっていうオチなんだろうか。
 だとすると病院か老人ホームに連れて行かないとなぁ。

 四人のコップを受け取って、クッカーで沸かしたお湯を注ごうと思ったけれど──

「あの、汚れているんで少し洗いますね」
「おぉ、そうか。そりゃすまんのぉ」

 リュックからおしりふきを取り出した。
 姉がめちゃめちゃ便利だからって勧めてくるから使ったら、これがほんとマジで便利なんだよな。
 水を含んでいるからいろんなものを拭くのに使える。アルコール不使用だから、顔だって平気だ。
 
 おしりふきで四人のコップの汚れを拭き取り、それからお湯を注いで緑茶パックを落す。
 何度か振ってお茶が出たら、四人の前にコップを出す。
 座高の低いテーブルも用意しておいてよかったな。
 
 緑茶を出したところで、彼らはホットサンドを完食していた。
 その顔は物足りなさそうにみえる。

「や、焼きおにぎりも食べますか? ちょうど四つありますし」

 焼きおにぎりも完食。だがまだ空腹のようだ。
 
 ポトフを作り、焼き鳥缶を開け、メスティンでご飯を炊き、フライパンでステーキを焼いた。
 持って来た食材をほとんど使い切ったところで──

「ふはは。久しぶりにこんなお人好しな人間を見た」
「そうですわねぇ」
「人間よ、馳走になったな」
「炭酸コーラは最高だったぜ!」

 四人の老人が若返った。





「そなたは別の世界から迷って来てしまった『迷い人』だ」
「ここはお主から見て異世界にあたる」

 それどこのライトノベル?
 突然そんなことを言われて──納得した。

 一瞬にしてキャンプ場とは別の場所にワープし、目の前の老人が若返ったんだ。信じるだろ。

「ここが異世界……とすると──」

 振り返ってカートを見る。
 食材はほとんど残っていない。

「私たちがほとんど食べてしまったわねぇ。でも大丈夫。この豊穣の女神マリーティアが加護を授けましょう」

 女性がそう言うと、俺の背後がピカーっと光った。

「あの小さな荷車に入っていたものは、全て元通りです。いくら使っても、使った分だけ補充されますからね」
「え!?」

 振り返ると、小さな荷車──カートの中には、使ったはずの食材が元通り!?

「ふむ。では私からも……そうだな。そなたがこれから、あの三角の天幕で暮らすことになるだろう。ならば超強力防御結界を張ってやろうではないか」

 長身の男がそう言うと、テントが光った。

「聖なる光の神フォレスの加護が付与された天幕だ。アークデーモンでさえ触れられぬような、超強力な結界だぞ」

 え、アークデーモン? 悪魔? それってモンスターってこと?

「知識の神オルロエタスからも加護を授けよう。お主に鑑定魔法を与える」

 はい、鑑定魔法キター!

「うわははははは。では俺様、勇敢なる神デュアンからも加護をやろう! 異世界から来たお前は、ちとひ弱そうだからな! ドラゴンの牙すら通さない、強靭な肉体にしてやろう!」

 俺が光った。
 待って。ドラゴンに噛みつかれること前提なのか!?

「迷い人さん、ご飯美味しかったわ」
「うむ。あれはなんという料理だ?」
「えっと、キャンプ飯、です」
「そうかそうか。うわはははははは、キャンプ飯、サイコーだったぞ!」

 四人の姿がすぅーっと消えていく。

 え……本当にこの人たち、神様!?

「真っ直ぐ北へ進めば、人の暮らす場所へ出られるだろう」

 それを最後に、四人の神様は消えてしまった。 
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