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三カ月ほど遺跡とその周辺での狩りを続け、俺の魔力が340を超えた。
『ふむ。二人の魔力の合計が800を超えたな。ではセシリアよ、我を召喚するがよい』
「召喚って、デンはここにいるじゃないか」
『ここにいるのは我の一部にすぎん。こんな可愛い子猫ちゃんが最強の大精霊な訳あるまい』
こいつ、自分で可愛い子猫ちゃんとか言ったぞ。
きもぃ奴。
「じゃあデンくん召喚するね」
俺には分からない言葉で、セシリアは何かを唱え始める。
すると子猫ちゃんだったデンの体がむくむくと大きくなり始めた。
バチバチと放電し、その姿は愛らしい猫から肉食獣のそれに代わる。
虎──よりは雪豹とかそんな感じか。
大きさは俺たちをゆうに超えて、鼻先からケツまで三、四メートルはありそうだ。
体は大きくなっても半透明で向こう側が空けて見えるのは同じか。
「ふぅ、ふぅ……」
「大丈夫か、セシリア?」
「う、うん。大丈夫。でもデンくんの本体、全部は召喚できなかったの」
「全部じゃない?」
デンを見上げると、ふんっと鼻を鳴らすのが見えた。
『これ以上はまだ娘には荷が重かろう。この姿とて、十分だが』
「そんなに魔力を消費するのか?」
「う、うん……だけど無理にでも召喚して、私に負担を掛けた方がいいの」
「は? なんで」
自分に負担懸けるって、どういうことなんだ。
『限界状態を保つことで、能力を引き延ばしやすくなる。娘の場合は魔力だ。今は魔力が少ないせいでどんどん消費するだけだが、適正魔力まで上がれば、消費する魔力も減るというもの』
「それにね、今は、デンくんを召喚している間もずっと魔力を消費しているの。だけどこれもね、私の魔力が高くなれば召喚した時だけで済むようになるから」
肩で息をしながら、セシリアはそう話す。
それからまた呪文を唱え、雷の下位精霊ヴァルトって奴を呼び出した。
黄色く光る小さな球体を操って、右に左と動かしている。
ただそれだけなのに、彼女の額には大粒の汗が浮かんでいた。
デンはただじっとセシリアを見下ろしているだけで何もしない。
そして十分後、デンの体はしぼんでセシリアが倒れた。
「おい!?」
『心配いらん。魔力が尽きただけだ』
魔力が枯渇すると気絶する。だから戦闘中であれば、絶対こんな状況にはさせられない。
それにしても、デンがデカくなり始めた時に少しだけ何かが吸い取られるような感じがしたが、その後は特に何もない。
俺の魔力で補うとか言ってたけど、その時だけなのか?
「なぁデン。俺の魔力ってどこで活用されているんだ?」
『ぬ? 我を召喚するときに足りない魔力を主で補っておるだけだ』
「やっぱりその時だけか。だったら──」
『妻を労わりたい気持ちは分かるがやめておけ』
つ、妻!?
『訂正』
「お、おう。訂正しろ」
『結婚だのなんだのの概念を持たぬので、やはり気持ちは分からぬ』
「訂正箇所はそこかよ!」
『とにかく、この方法が一番魔力を成長させるのだ。安全な場所にいるときは、これを続けねばならん。でなければ、いつまでも我を召喚するだけで魔力を使い果たしてしまうからな』
セシリアのため……か。
「魔力の成長か……仕方ないか」
しかし安全な場所……か。
町中じゃあ当然無理だし、ダンジョン内だって──いや、格下モンスターしか出ないような階層ならいけるか。
「よし、いったん教会に戻るか」
地下六階。ここなら俺にとってもセシリアにとっても、出てくる敵はみんな雑魚だ。
袋小路になっている通路にテントを張り、彼女が気絶をすればそこで寝かせる。
その間、俺は適当にテントを守っていればいい。
野宿で重宝する魔石も貯まるし、悪くはない。
まぁそれ以外の稼ぎがないから、たまにはまともな狩場に行かなきゃな。
一日に数回セシリアは気絶した。
十日ほど繰り返すと──
「えへへ。魔力、もうちょっとで650になるよ」
「は? 上がるの早くないか!?」
『元々の潜在能力だ。有翼人は魔力に秀でておる。1000を超える者もそう珍しくはない』
「以前は……リヴァとずっと一緒にいるようになる前は、ひとりだったからこういう無茶な方法で魔力を鍛えることが出来なかったの」
あぁ、そうか。この方法じゃ気絶がつきものだ。
ひとりの時にこれはヤバいだろう。
「それにデンくんと契約するまでは、そこまで必要性を感じなかったから」
『我に感謝するといい』
「なんでそうなるんだよ。ま、久々に上に出ようぜ。食料の補給もしなきゃならないし」
「うん、はい! 私、お風呂入りたい。良い匂いの石鹸でごしごししたい!」
「よし、それじゃあ上に出るぞ」
石鹸か。そろそろ手持ちの石鹸も小さくなってきたし、新しいものを買うか。
地上に出てみるとギルドではちょっとした人だかりが出来ていた。
「なんだろう?」
「んー……あ、前に森で見つけた新しいダンジョンのことみたい」
「へぇ」
セシリアの聴覚は優れていて、雑多な音の中からでも内容を聞き分けられることが出来る。
言語の習得が早かったのも、音の識別能力が高いから──らしい。
「何か進展でもあったのか?」
「んー? 調査隊? 募集してるみたい」
調査隊って、今さらかよ。
発見して三カ月以上経ってんのにな。
けど、自分たちで発見したダンジョンだし、興味がなくもない。
「セシリア、ちょっと覗いてみようぜ」
「うんっ、はい」
『ふむ。二人の魔力の合計が800を超えたな。ではセシリアよ、我を召喚するがよい』
「召喚って、デンはここにいるじゃないか」
『ここにいるのは我の一部にすぎん。こんな可愛い子猫ちゃんが最強の大精霊な訳あるまい』
こいつ、自分で可愛い子猫ちゃんとか言ったぞ。
きもぃ奴。
「じゃあデンくん召喚するね」
俺には分からない言葉で、セシリアは何かを唱え始める。
すると子猫ちゃんだったデンの体がむくむくと大きくなり始めた。
バチバチと放電し、その姿は愛らしい猫から肉食獣のそれに代わる。
虎──よりは雪豹とかそんな感じか。
大きさは俺たちをゆうに超えて、鼻先からケツまで三、四メートルはありそうだ。
体は大きくなっても半透明で向こう側が空けて見えるのは同じか。
「ふぅ、ふぅ……」
「大丈夫か、セシリア?」
「う、うん。大丈夫。でもデンくんの本体、全部は召喚できなかったの」
「全部じゃない?」
デンを見上げると、ふんっと鼻を鳴らすのが見えた。
『これ以上はまだ娘には荷が重かろう。この姿とて、十分だが』
「そんなに魔力を消費するのか?」
「う、うん……だけど無理にでも召喚して、私に負担を掛けた方がいいの」
「は? なんで」
自分に負担懸けるって、どういうことなんだ。
『限界状態を保つことで、能力を引き延ばしやすくなる。娘の場合は魔力だ。今は魔力が少ないせいでどんどん消費するだけだが、適正魔力まで上がれば、消費する魔力も減るというもの』
「それにね、今は、デンくんを召喚している間もずっと魔力を消費しているの。だけどこれもね、私の魔力が高くなれば召喚した時だけで済むようになるから」
肩で息をしながら、セシリアはそう話す。
それからまた呪文を唱え、雷の下位精霊ヴァルトって奴を呼び出した。
黄色く光る小さな球体を操って、右に左と動かしている。
ただそれだけなのに、彼女の額には大粒の汗が浮かんでいた。
デンはただじっとセシリアを見下ろしているだけで何もしない。
そして十分後、デンの体はしぼんでセシリアが倒れた。
「おい!?」
『心配いらん。魔力が尽きただけだ』
魔力が枯渇すると気絶する。だから戦闘中であれば、絶対こんな状況にはさせられない。
それにしても、デンがデカくなり始めた時に少しだけ何かが吸い取られるような感じがしたが、その後は特に何もない。
俺の魔力で補うとか言ってたけど、その時だけなのか?
「なぁデン。俺の魔力ってどこで活用されているんだ?」
『ぬ? 我を召喚するときに足りない魔力を主で補っておるだけだ』
「やっぱりその時だけか。だったら──」
『妻を労わりたい気持ちは分かるがやめておけ』
つ、妻!?
『訂正』
「お、おう。訂正しろ」
『結婚だのなんだのの概念を持たぬので、やはり気持ちは分からぬ』
「訂正箇所はそこかよ!」
『とにかく、この方法が一番魔力を成長させるのだ。安全な場所にいるときは、これを続けねばならん。でなければ、いつまでも我を召喚するだけで魔力を使い果たしてしまうからな』
セシリアのため……か。
「魔力の成長か……仕方ないか」
しかし安全な場所……か。
町中じゃあ当然無理だし、ダンジョン内だって──いや、格下モンスターしか出ないような階層ならいけるか。
「よし、いったん教会に戻るか」
地下六階。ここなら俺にとってもセシリアにとっても、出てくる敵はみんな雑魚だ。
袋小路になっている通路にテントを張り、彼女が気絶をすればそこで寝かせる。
その間、俺は適当にテントを守っていればいい。
野宿で重宝する魔石も貯まるし、悪くはない。
まぁそれ以外の稼ぎがないから、たまにはまともな狩場に行かなきゃな。
一日に数回セシリアは気絶した。
十日ほど繰り返すと──
「えへへ。魔力、もうちょっとで650になるよ」
「は? 上がるの早くないか!?」
『元々の潜在能力だ。有翼人は魔力に秀でておる。1000を超える者もそう珍しくはない』
「以前は……リヴァとずっと一緒にいるようになる前は、ひとりだったからこういう無茶な方法で魔力を鍛えることが出来なかったの」
あぁ、そうか。この方法じゃ気絶がつきものだ。
ひとりの時にこれはヤバいだろう。
「それにデンくんと契約するまでは、そこまで必要性を感じなかったから」
『我に感謝するといい』
「なんでそうなるんだよ。ま、久々に上に出ようぜ。食料の補給もしなきゃならないし」
「うん、はい! 私、お風呂入りたい。良い匂いの石鹸でごしごししたい!」
「よし、それじゃあ上に出るぞ」
石鹸か。そろそろ手持ちの石鹸も小さくなってきたし、新しいものを買うか。
地上に出てみるとギルドではちょっとした人だかりが出来ていた。
「なんだろう?」
「んー……あ、前に森で見つけた新しいダンジョンのことみたい」
「へぇ」
セシリアの聴覚は優れていて、雑多な音の中からでも内容を聞き分けられることが出来る。
言語の習得が早かったのも、音の識別能力が高いから──らしい。
「何か進展でもあったのか?」
「んー? 調査隊? 募集してるみたい」
調査隊って、今さらかよ。
発見して三カ月以上経ってんのにな。
けど、自分たちで発見したダンジョンだし、興味がなくもない。
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「うんっ、はい」
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