異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔

文字の大きさ
上 下
80 / 110

44

しおりを挟む
「お、おいおい電気くん?」
『グルルルルルルル』

 甘えている……訳ではない。
 だらぁっと零れ落ちる涎が頬を掠め、目の前には電気くんの口があった。
 この牙でこれまで何人もの冒険者を、噛み殺してきたんだろうか。
 そんなことが脳裏を過ぎる。

「電気くんダメ! リヴァは敵じゃないのっ」
「セシリア、来るな! 俺は大丈夫、帰還や転移の指輪があるから心配するなっ」

 ポケットに入れた空間収納袋を取り出そうと手を突っ込むと、次の瞬間、激痛が襲う。

「ぐあああぁぁぁ!?」

 電気くんの前足の爪が、ポケットをまさぐろうとした手に突き刺さった。
 逃がさないってことなのかよ!

「くそっ。今まで美味い飯を食わせてやった恩を忘れたのかよ!?」

 相手はモンスターだ。正直、そんなこと言ったって無駄だって分かってる。
 だけど心のどこかで願っているんだ。

 電気くんは知能が高く、話し合いが可能な相手だって。

 俺の腕から爪を引き抜く電気くん。すると今度はその爪で服を切り裂いた。
 いや、空間収納袋を奪い取りやがった!

「どうあっても逃がさない気だな……クソッ。分かったよ! やってやる。紅の旅団の連中にやられるぐらいなら、俺がやってやるよ!!」

 他の奴らに倒されるぐらいなら、俺が……俺が電気くんをここから解放してやる!
 死を持って、電気くんを自由にしてやるさ!!

「セシリア! やるぞっ」
「ぅ……はいっ!」

 彼女にも躊躇いはあるのだろう。最初こそ怯えていたものの、喉を鳴らして焼いた肉を食う電気くんを愛おしく思えていたはずだ。
 実際、デッカい猫みたいなものだった。
 可愛いヤツだったんだよ。

 だけど電気くんはモンスターだ。
 決して俺たちとは相いれぬ存在。

『ルガアァァァッ』

 奴の牙が俺を捉えるより先に瞬き一回。
 その瞬間に抜け出し、ハンマーの刃で奴の目を突き刺す。
 セシリアの風の魔法が肉を裂き、鮮血がほとばしる。

「距離を取れ!」

 一時停止が切れる直前で距離を取って、再び電気くんが動き出したらすかさず一時停止。
 一気に距離を詰め、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
 それが一番安全且つ、確実な戦い方だ。

 奴に挑んだ冒険者は、みなそれなりに腕に自信のある連中ばかりだろう。
 今回の紅の旅団を除けば、誰ひとりとして帰ってきてはいない。それだけ電気くんの強さは突出していたってことだ。
 紅の旅団の奴らが逃げおおせたのは、俺のステータス強奪で体力と筋力が下がっていたからだろう。

 体力は俺と同じでも、筋力はまだまだ電気くんが上だ。
 俺はいいとしても、セシリアが攻撃を喰らえば一撃であの世行きになるかもしれない。

 絶対……絶対に一時停止を切らせる訳にはいかない!





 どのくらい経った?
 ここに到着したのは午前中だ。けど辺りはもう暗くなっている。
 電気くんの体から出ている放電のおかげで薄明るくはあるけど、もう完全に夜だ。

 魔力が100超えていて良かった。
 それでも時々眩暈がする。
 眩暈がすれば効果時間内は目を閉じる。気休めになるかもとゴミポーションを飲んでも見た。
 これがなかなか効果があるようで、目を閉じているだけで回復していくのを感じた。
 その間はセシリアが全力で攻撃。

 だが彼女の魔力だって限界がある。
 俺のほうが回復したら、セシリアは範囲外に出て貰って暫く座って休んで貰った。

 俺の攻撃自体は物理攻撃だからなんとかなる。
 攻撃して、目を休めるのに集中して、また攻撃して。

 いったいどのくらい続くんだ。
 体力967って、こんなに倒れないのかよ。

 まぁその辺りは、俺の筋力に対して体力967のほうがデカいからだろう。

「いっそ封印石の外に出て休憩するか?」
「それをするとたぶんだけど、電気くんが自然治癒しちゃうと思うの」
「は?」
「リヴァが最初に潰した電気くんの目──回復してるもの」

 あぁ、もうくたびれてて気づかなかった。
 確かに潰したはずの目、回復してんじゃん。

 一時停止を掛け直すといっても、ほんの一瞬だけ間が開く。
 その一瞬の積み重ねで、電気くんは貫いた眼球を治してしまっていた。

 俺とセシリアが封印石の外に出て休んでいる間に、奴は完全回復してるんだろうな。

「あぁクソ! だったら倒れるまで付き合ってやらぁ!! セシリア、腹が減った。なんか食い物用意しててくれっ」
「わ、分かった。待っててね」

 暫くして肉が焼ける匂いが漂ってくると、セシリアが細かく切った肉を持って来てくれた。
 一時停止しながら口を開き、彼女に放り込んで貰う。

「ん、んま」

 残った肉を鷲掴みにし、それを電気くんの口に突っ込む。

「なぁ、これが最後の晩餐だ。よぉく味わって食うんだぜ」

 距離を取る。
 電気くんの一時停止が解けた。

 動かない。
 いや、口だけを動かしていた。

「電気くん、食べてる」
「あぁ。ったく、とんだ食い意地の張った奴だぜ」

 電気くんがごくりと飲み込んだ直後、一時停止からセシリアの最大火力がぶっぱなされる。
 無数の風の刃が舞うたびに、真っ赤な血が周囲を染めていく。

『ガフッ』

 眉間に深い傷が生じる。
 
「勝負だぜ、おい電気!!」

 電気くんの双眸が俺を睨む。
 俺が地を蹴れば、同時に電気くんも飛び出した。

 敢えて一時停止は使わない。
 俺だけのパワーでは足りないから、電気くんのパワーも借りる。

 セシリアが付けた深い傷めがけ、渾身の力でハンマーを叩きつけた。
 電気くんはまるで自らハンマーに殴られに来るかのように、頭を突き出し突進してきた。

 そして──

『ギャオッ』

 短い断末魔が、白み始めた空に響いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...