57 / 110
30-1
しおりを挟む
「──て訳でしばらくここには来れそうにない」
「はぁー。えらくすぐ戻って来たと思ったら、そういう事か。まぁよかったじゃねーか。暫く上を満喫できるぞ」
依頼を受けた後、食料、衣類、寝具と買い込んで地下の教会へ。買ったのは子供たち用のものだ。
それと大きな桶を二つと石鹸、洗髪剤も買い込んだ。樽が二つなのはそれをマリアンの店で買った時にアドバイスされたからだ。
「一つにはお湯をたぁーっぷり用意するの。もう一つはすこーしでいいのよ。すこーしの方に入って髪、体を洗ったら、たっぷり溜めた方からお湯を汲んで洗い流す。風呂場がない家庭はこうやって使うこともあるのよん。まぁ水の魔石を使わなきゃ、水汲みで力尽きちゃうけどねぇん」
そう教えて貰った。
水を沸かす方法は、火の魔石で可能──というのも聞いた。
水も火も、魔石は十分にある。
「無茶すんじゃねーぞ。上は下と違って、イレギュラーなことだらけだからな」
「分かってる──といいたいけど、実際行ってみなきゃなんも分からねえよ」
「そりゃそうだ。セシリアちゃんの言う事ちゃーんと聞いて、良い子にしてりゃいいのさ」
俺はガキかよ。
「セシリアちゃん、このガキ頼むわ」
「はい!」
元気よく返事するセシリアが小憎たらしい。
「お、そうだそうだ。ちょっと待ってろ。遠出するならいいもん貸してやろう」
そういって神父は自分の部屋に行き、なにやらごそごそと音がした後戻って来た。
手には指輪が二つと、ビー玉を三つ持っていた。
「こっちは『帰還の指輪』だ。俺が使う『帰還』魔法と同じで、指輪を使うとこの教会に瞬間移動できる」
「へぇ。じゃあ帰りはそれを使えば、あっという間だな」
「あぁ。で、こっちの指輪は『転移の指輪』だ。魔術師の使う転移魔法と同じ原理なんだが、使い方がちょーっと違うからよく聞け」
転移魔法というのは、術者が自分の魔力をマーキングさせた場所に瞬間移動するという魔法だ。
魔術師でもない者にはそれが出来ない。代わりにこのビー玉だ。
「この玉一つに一カ所、位置を記憶させることが出来る。上書きも可能だから、うまく使えば狩場の移動も楽になるぞ」
「やったぜ。サンキュー、ありがたく貰っとくぜ」
「はっはっは。このクソガキ、やるとは言ってないだろ、やるとは」
いやいや、これはもう貰うっきゃないでしょう。
「せっかく地上に出れるようになったから、本当はのんびり景色でも楽しんだろうがいいのかもしれねえが……」
「それは居住権を手に入れてからでいい。時間の節約が出来るなら、今はそっち優先だ」
「まぁお前ぇならそう言うと思ったよ。ただし、あんま遠くには行くんじゃねえぞ」
子供のお出かけじゃねえんだ。遠くまで行くなと言われてもそうはいかないだろ。
「と、特に北東の国々では、国境線の小競り合いがいまだにあるからな。いちゃもん付けられると、面倒なことになるぞ」
「ふぅーん。セシリア、その辺まで行くのか?」
「ん、行かない。北の山の向こうは、私も知らないもの」
「そうか! ならよかった」
随分と安心した様子だが、神父がそこまで警戒するってのは珍しいな。
まさかそっち方面で戦争でも始まるってのか?
夜を待ってから、セシリアは空気穴から飛び立った。彼女には帰還の指輪も手渡し、位置を玉に記憶させたらそれを使って戻ってくるよう言ってある。
依頼を開始するときには、二人揃って地上のギルドに寄る必要があったからだ。
ギルドに寄ってからが、依頼開始期間のスタートになる。
セシリアは四日で戻って来ると言うので、その間にダンジョンで魔石狩りだ。
外に出れば野宿で水や火の魔石が必要になるからな。その分を狩っておく。
そして四日目の朝、教会の祈りの間で眠っていた俺の耳元に声が聞こえた。
「リヴァ、おはよう」
「んあ……セシリア。帰って来たのか?」
「うんっ、はい。山の上、ひゅーんって飛べうよ」
そう言ってセシリアが微笑んだ。
「はぁー。えらくすぐ戻って来たと思ったら、そういう事か。まぁよかったじゃねーか。暫く上を満喫できるぞ」
依頼を受けた後、食料、衣類、寝具と買い込んで地下の教会へ。買ったのは子供たち用のものだ。
それと大きな桶を二つと石鹸、洗髪剤も買い込んだ。樽が二つなのはそれをマリアンの店で買った時にアドバイスされたからだ。
「一つにはお湯をたぁーっぷり用意するの。もう一つはすこーしでいいのよ。すこーしの方に入って髪、体を洗ったら、たっぷり溜めた方からお湯を汲んで洗い流す。風呂場がない家庭はこうやって使うこともあるのよん。まぁ水の魔石を使わなきゃ、水汲みで力尽きちゃうけどねぇん」
そう教えて貰った。
水を沸かす方法は、火の魔石で可能──というのも聞いた。
水も火も、魔石は十分にある。
「無茶すんじゃねーぞ。上は下と違って、イレギュラーなことだらけだからな」
「分かってる──といいたいけど、実際行ってみなきゃなんも分からねえよ」
「そりゃそうだ。セシリアちゃんの言う事ちゃーんと聞いて、良い子にしてりゃいいのさ」
俺はガキかよ。
「セシリアちゃん、このガキ頼むわ」
「はい!」
元気よく返事するセシリアが小憎たらしい。
「お、そうだそうだ。ちょっと待ってろ。遠出するならいいもん貸してやろう」
そういって神父は自分の部屋に行き、なにやらごそごそと音がした後戻って来た。
手には指輪が二つと、ビー玉を三つ持っていた。
「こっちは『帰還の指輪』だ。俺が使う『帰還』魔法と同じで、指輪を使うとこの教会に瞬間移動できる」
「へぇ。じゃあ帰りはそれを使えば、あっという間だな」
「あぁ。で、こっちの指輪は『転移の指輪』だ。魔術師の使う転移魔法と同じ原理なんだが、使い方がちょーっと違うからよく聞け」
転移魔法というのは、術者が自分の魔力をマーキングさせた場所に瞬間移動するという魔法だ。
魔術師でもない者にはそれが出来ない。代わりにこのビー玉だ。
「この玉一つに一カ所、位置を記憶させることが出来る。上書きも可能だから、うまく使えば狩場の移動も楽になるぞ」
「やったぜ。サンキュー、ありがたく貰っとくぜ」
「はっはっは。このクソガキ、やるとは言ってないだろ、やるとは」
いやいや、これはもう貰うっきゃないでしょう。
「せっかく地上に出れるようになったから、本当はのんびり景色でも楽しんだろうがいいのかもしれねえが……」
「それは居住権を手に入れてからでいい。時間の節約が出来るなら、今はそっち優先だ」
「まぁお前ぇならそう言うと思ったよ。ただし、あんま遠くには行くんじゃねえぞ」
子供のお出かけじゃねえんだ。遠くまで行くなと言われてもそうはいかないだろ。
「と、特に北東の国々では、国境線の小競り合いがいまだにあるからな。いちゃもん付けられると、面倒なことになるぞ」
「ふぅーん。セシリア、その辺まで行くのか?」
「ん、行かない。北の山の向こうは、私も知らないもの」
「そうか! ならよかった」
随分と安心した様子だが、神父がそこまで警戒するってのは珍しいな。
まさかそっち方面で戦争でも始まるってのか?
夜を待ってから、セシリアは空気穴から飛び立った。彼女には帰還の指輪も手渡し、位置を玉に記憶させたらそれを使って戻ってくるよう言ってある。
依頼を開始するときには、二人揃って地上のギルドに寄る必要があったからだ。
ギルドに寄ってからが、依頼開始期間のスタートになる。
セシリアは四日で戻って来ると言うので、その間にダンジョンで魔石狩りだ。
外に出れば野宿で水や火の魔石が必要になるからな。その分を狩っておく。
そして四日目の朝、教会の祈りの間で眠っていた俺の耳元に声が聞こえた。
「リヴァ、おはよう」
「んあ……セシリア。帰って来たのか?」
「うんっ、はい。山の上、ひゅーんって飛べうよ」
そう言ってセシリアが微笑んだ。
27
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
ファンタジー
15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。
どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。
そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。
しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。
「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」
だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。
受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。
アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。
2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる