異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔

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「ぉえ」
「こ・れ、な。おえって言ったら、なんか吐いてるみたいだろ」

 一カ月後、セシリアは岩塩を持って来てくれた。
 ビー玉ぐらいの塩の塊は三つ。

「ぉえ、おえぇー」
「……お前、わざとだろ」

 おえおえと、セシリアはトゲトゲの付いたヘラのようなものを取り出した。
 それで岩塩を撫でると、粒が削り取れるようだ。

「おぉ。さっそく肉を焼いてみるか」
「あっ、あっ」

 彼女が慌てて鞄から、何かを包んだ大きな葉っぱを取り出した。
 包まれていたのは魚!

「んっ」
「いいのか!?」
「にひぃ」

 魚なんて何年ぶり──じゃなくって、転生して初めて見た!
 ここは地下街なので、当たり前だが川も海もない。この上にある町にはそれがあるのだろうが、地下まで魚を売りに来る奴なんていなかった。

「くぅー、塩焼きだぜぇ。ちゃーんと内臓も出してきてんだな」
「にひぃ」

 子供らしくニカァっと笑うセシリアの頭を撫でてやると、体をビクりと震わせて固まってしまった。

「お、悪い。つい小さいガキどもと同じように扱っちまったな」
「ぅ……ん、んん」

 頬を赤らめ、それから頭を差し出してくる。
 撫でてもいいってことか?
 いや、別に撫でたくて撫でてる訳じゃないんだけど。
 偉いぞ──っていう意味だが、まぁいいか。

 わしわしと頭を撫でてやってから、粒になった塩を魚に振った。

「よし、あとは串代わりになる枝を……」

 この辺りは空気穴から落ちてくる枝があるので、それを探すのに苦労はしない。
 それを魚にぶっ刺し、落ちている石で簡単な囲いを作った。真ん中にはモンスターから出た赤い魔石を置く。その上に魚を載せるのだが、先に石をハンマーで軽く叩いた。

 ボッと火が出て、その上に魚を乗せれば段々と香ばしい匂いが漂い始める。

「この辺りは人が来ないからいいが、街中で魚なんか焼いてたらヤバかったろうなぁ。あぁ、美味そうな匂いだ」
「ぅあ、んー?」
「なんでヤバいかって? そりゃな、地下街では腹を空かせた連中がわんさかいるからさ」

 その日の飯にありつけない住民は、決して少なくはない。
 餓死者だってしょっちゅうだ。
 誰だって死にたくない。だから他人の食い物を奪ってでも生き延びようとする。

 地下街でも家持ちはいい。鍵を掛けて盗まれないようにできるから。
 奪われるのは家を持たず、路上生活しているような、本当に困窮している者たちだ。
 奪う側も同じだけどな。

「ここには太陽の光が届かない。人ってのは太陽の光を浴びないと、体が弱っていくんだ。知ってたか?」
「うぅー……」

 首を左右に振る彼女は、なんとなく俺を心配そうに見ていた。

「不幸中の幸いって言えるのかな。とにかくここで生まれ育った連中は、体力がないし筋力もない。だから同じような浮浪者からしか、物は盗めないんだ。あ、俺は体力も筋力もそれなりにあるから大丈夫だけどな」

 とはいえ、こんな美味そうな匂いをたれ流していたら、浮浪者が大量にやってくるだろう。
 さすがに数で責められたら勝ち目はない。

「ここなら煙や匂いも外に出るだろうし、一安心っと──そろそろ焼けたかな?」
「ふんふん……あいっ」

 第二の人生初の焼き魚だぜ!

 イワナか何かだろう。そんな感じの川魚だ。
 セシリアが差し出してくれた、魚を包んでいた葉っぱをお皿にして──かぶりつく!

「んっっま! 塩最高!!」
「んま、んま。ん~っ」

 特に何もしていない、塩を振っただけの焼き魚。
 こんなにも美味いなんて……うまい……

「んっ。ぅあ、うぅぅ」

 セシリアが驚いた顔をして、それから──急に俺の頬を袖で拭い始めた。

「は? なんだよ……おい、どうした──」

 俺……泣いてる?
 ちょ、待って。こんな子の前で泣くとか、恥ずかしいんだけど。
 てかなんで泣くんだよクソっ。
 た、たかが魚じゃねーか。

 そうだと、たかが魚だよ。
 そのたかが魚でさえ、俺は手に入れられない。
 こんな地下で暮らしていたら、前世の俺にとってのたかがな暮らしすら出来ないんだ。

「クソッ。絶対上ってやる」
「う?」

 首を傾げるセシリアを見て、俺は天井を指差した。

「俺は絶対地上に出る! 出て、そして自由を掴むんだっ」

 そう宣言した。
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