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メリット

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その『かわいい』には、女性特有の、様々な意味がこめられていた。

 みっともなくてかわいい。

 無様すぎてかわいい。

 ダサくてかわいい。

 キモかわいい。

 ブサかわいい。

 純粋に、かわいらしい。




 プラスもマイナスもないまぜになった、かわいいという感情がフツフツと湧き上がってくる。




 すると、不思議なもので、

 それまでとはまったく違う思考形態に切り替わったように、




(アダムを殺す事に……メリットがない……)




 心の底からそう思うようになる。

 そして、それは事実で、




(どうにか苦労して、アダムを殺せたとして……何が変わる? アダムが現れる前と何か変化が生じるか? アダムの無限蘇生を削り切れるほどの力を得る労力と引き換えに、あたしは何を得る? 何も得ない。何も変わらない。むしろ、ただのマイナスにもなりえる)




 実際そうだ。




 このままいけば、いつか、焦って、『アダムを殺すためだけ』のアリア・ギアスを積んでしまう可能性だってある。

 アダムが死んだあとは、ただのマイナスにしかならない借金を背負う可能性。

 地獄。




 そして、それだけの負債や時間を積んで、

 どうにかこうにかアダムを殺せても、

 特にメリットなどない。




 アダムが死んだからといって、センがシューリにプロポーズをするわけではない。




 確かに、センの周囲から、鬱陶しいハエが一匹消える。

 だが、それだけだ。

 自分とセンの関係には何の変化も生じない。

 プラマイゼロ。

 『センのバカさ加減』と『自分の面倒臭さ』に対してイライラするだけの、まったくもって無意味かつ非生産的な停滞が延長されるだけ。

 正直なところ、もうウンザリしていた『あの低空飛行』が、その先も続く。

 それだけ。




(だが……)




 シューリは考える。

 優秀な頭脳などなくとも簡単に導き出せる答え。

 この状況、見方を変えれば、チャンスとも捉とらえられる。




(殺す事を考えれば、デメリットばかり……しかし、利用する事を考えれば……)




 アダムを利用すれば、メリットばかり。

 まず、センの盾が増える。

 この先、センは、原初の深層に挑む。

 あのバカの性格は熟知している。

 やると言ったら絶対にやる。

 そして、それは、そこにどんな危険があろうと関係ない。

 ならば、センを守る盾はいくらあっても足りない。

 その点で言うとアダムは満点合格。

 なんせ、シューリがその気になっても殺しきれないほどの存在値と、ほぼ完全不死身のウルトラプラチナスペシャルを持つのだ。




 とにかく有能で、そして、何より、センに惚れているから絶対に裏切らない。




 アダムは確実にセンに惚れている。

 これが、他の何よりも大きい。

 どんなピンチを前にしても、アダムは決して逃げないだろう。

 忠誠の中で最も信頼できるのは愛。

 絶対に裏切らない、約束の鎖。

 その辺に転がっている『安い愛』ならば、『それ』が『憎悪』に変わる可能性を考慮しなければいけないが、『その愛が向かう対象(あるいは矛先)』がセンである場合に限り、その心配は不要。

 『センに対する愛情』だけは、各所で頻繁に起こっているような『愛情が憎悪にひっくり返る凄惨な感情の逆転劇』は絶対にないと、シューリは確信している。




 『センほどの男に対する感情が冷める事などありえない』

 『センという究極の男を知っていながら、他の男に目移りするなどありえない』

 ――という、シューリからすれば極めて常識的な認知。




 つまりは、

 シューリはシューリで、だいぶセンにイカれているってこと。

 それがゆえに起こる、論理を欠いた謎判断。

 感性に頼りまくって導き出した結論でありながら、

 これは認知だと言って憚はばからない。

 恋は盲目。







(何より)







 そう、実際、シューリが何より注視している点は、ここ。

 何よりも、




 アダムは、『権利』を持っている。

 『センになんでも命令できる』という至高の権利。




 それを有しているのが『自分ではない』という点がミソだ。

 その権利を『アダムが有している』というのが大事なのだ。

 仮に、シューリがその権利を持っていたとしても、使い道がない。

 シューリがセンに『何かおねだりをする』など、ありえないから。




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