258 / 380
優越感
しおりを挟む
顔を真っ赤にして、なんの思惑もなく、だだっこのように、
「憎い! 憎い! 憎い!」
「どうしたんでちゅか、急に。落ちついてくだちゃいよ、ディアフレンド。ほらほら、オイちゃんたちはお友達でちゅよね? お友達は仲良くするもんでちゅよ」
「黙れ、うるさい! そんなくだらない事は忘れろ! どうでもいい!」
「おやおや、ひどいでちゅねぇ」
などと、軽口を言いながら、しかし、実際のところ、シューリは動揺していた。
もちろん、当然、アダムのフレンドリクエストを信じていたわけではない。
友好を結ぶフリをして懐に入り込み、キバを磨きながらスキを窺う。
非常に分かりやすい一手。
正直、シューリは、その一点に関してだけは、ガチで感心していた。
友達申請してきた時のアダムは、そりゃあもう、感情のコントロールがドヘタクソで『そんなんじゃあ、あたしは騙せねぇよ、バァカ』と呆れたもの。
しかし『迷いなくその一手を打ってきた潔さは感嘆に値する』とシューリはアダムを評価した。
――なるほど、本気のようだな、いいだろう。
こっちも本気で相手になってやろうじゃないか――
だが、今のアダムは、本気で打ってきたはずの一手をペーンと放棄している。
なんの思惑もなく、ただ感情に任せて喚いているだけ。
お粗末だったとはいえ、アダムは、ついちょっと前、盤面に、
『先の先まで読んだ上での切り込む一手』を打ちこんだ。
あの瞬間、シューリは覚悟した。
これは、長期戦上等のタイトル戦。
アダムは、シューリに宣戦布告をしたのだ。
――トコトンやるぞ、覚悟しやがれ。
それを、シューリは受けた。
――いいだろう、やってやる。
シューリが、アダムの覚悟を受け止めて、気合いを入れて、
次の一手を真剣に考えていた、その時に、
アダムは、突如、盤面をひっくりかえして、ワーワーと喚きだした。
――つまり、今のシューリは、『理解ができない』という意味で困惑している。
「私の知らない主上様を知っている貴様が憎い! 主上様に命がけで守られた事がある貴様が憎い! 主上様に……愛されている貴様が……憎いぃ……」
「……」
「私よりも先に出会えた貴様が憎い……それだけなのに、これだけの差があるという事実が憎い……貴様の存在すべてが憎くて憎くて、たまらない……」
「……」
「私では、手に入らない……貴様が持っているものは……私が、この先、何をしても手に入らないものだ……たとえ、貴様を吸収しても、私を構成している一部に、貴様が組み込まれるというだけで……私の欲しい者が手に入った事にはならない!」
「……」
「なんでだ……なんで私ではない……私が、シューリ・スピリット・アースであれば、それですべてが完璧だったのに……ただ、愛する御方と……幸福なだけの日々を……過ごして……包まれて……満たされて……それが世界の全てになったのに……」
ギリギリと奥歯をかみしめながら、今にも血の涙を流さんばかりの勢いで、洪水のように溢れ出る想いを吐きだすだけのアダムを見て、
シューリ・スピリット・アースは、
(……バカなガキ……)
心の中でそうつぶやいた。
つい、失笑がこぼれた。
『呆れ』の二つほど向こう側にある感情に包まれるシューリ。
ドン引きに近いのだけれど、少し違っていて、
(これは本音だ。このガキの本音……よくもまあ、他人に、それほど醜い本音をつらつらと……)
自分には出来ない事だと思った。
が、だからこそ、
(本音か……)
動揺が薄れ、理解が煮詰まった時、ドクンと、魂魄が沸いた。
ゾクゾクと、
脳の奥がくすぐられる。
この感情の正体は極めて単純なモノ。
――暴力的なほどの優越感――
アダムの本音、
『憎い』というその言葉は、言いかえれば、
――うらやましくてたまらない――
シューリは、今、
アダムほどの女から、
『あなたが死ぬほどうらやましい』
と大声で叫ばれているのだ。
コレが『カスみたいな女の喚き』なら何とも思わない、
――アダムがカスなら、『うるさい、黙れ』としか思わないだろう。
しかし、今、シューリの目の前で、シューリを心底からうらやんでいるこの女は、
おそらく、
……というか間違いなく、
シューリを除けば、この世で比肩する者がいない究極の美少女。
その美しさ、
その強さ、
その可能性、
すべてが完璧な女。
そんな女が、
『うらやましい』
『うらやましい』
と、血走った目で、自分を見ている。
――ゾクゾクした。
ジュクジュクと募って、気付けば腐りかけていた憎悪と殺意にメスが入る。
背負うだけで各種の器官系が濁って崩壊していくような重たい化膿、
ヒドく醜い『魂の膿うみ』が、切開されて、ドロっと流れていく。
だから、当然のように、ゾクゾクしたんだ。
脳がビリビリと痺れている。
シューリは、
それゆえ、
ついには、
アダムという女に対して、
(……かわいい……)
などという感情すら抱いてしまった
「憎い! 憎い! 憎い!」
「どうしたんでちゅか、急に。落ちついてくだちゃいよ、ディアフレンド。ほらほら、オイちゃんたちはお友達でちゅよね? お友達は仲良くするもんでちゅよ」
「黙れ、うるさい! そんなくだらない事は忘れろ! どうでもいい!」
「おやおや、ひどいでちゅねぇ」
などと、軽口を言いながら、しかし、実際のところ、シューリは動揺していた。
もちろん、当然、アダムのフレンドリクエストを信じていたわけではない。
友好を結ぶフリをして懐に入り込み、キバを磨きながらスキを窺う。
非常に分かりやすい一手。
正直、シューリは、その一点に関してだけは、ガチで感心していた。
友達申請してきた時のアダムは、そりゃあもう、感情のコントロールがドヘタクソで『そんなんじゃあ、あたしは騙せねぇよ、バァカ』と呆れたもの。
しかし『迷いなくその一手を打ってきた潔さは感嘆に値する』とシューリはアダムを評価した。
――なるほど、本気のようだな、いいだろう。
こっちも本気で相手になってやろうじゃないか――
だが、今のアダムは、本気で打ってきたはずの一手をペーンと放棄している。
なんの思惑もなく、ただ感情に任せて喚いているだけ。
お粗末だったとはいえ、アダムは、ついちょっと前、盤面に、
『先の先まで読んだ上での切り込む一手』を打ちこんだ。
あの瞬間、シューリは覚悟した。
これは、長期戦上等のタイトル戦。
アダムは、シューリに宣戦布告をしたのだ。
――トコトンやるぞ、覚悟しやがれ。
それを、シューリは受けた。
――いいだろう、やってやる。
シューリが、アダムの覚悟を受け止めて、気合いを入れて、
次の一手を真剣に考えていた、その時に、
アダムは、突如、盤面をひっくりかえして、ワーワーと喚きだした。
――つまり、今のシューリは、『理解ができない』という意味で困惑している。
「私の知らない主上様を知っている貴様が憎い! 主上様に命がけで守られた事がある貴様が憎い! 主上様に……愛されている貴様が……憎いぃ……」
「……」
「私よりも先に出会えた貴様が憎い……それだけなのに、これだけの差があるという事実が憎い……貴様の存在すべてが憎くて憎くて、たまらない……」
「……」
「私では、手に入らない……貴様が持っているものは……私が、この先、何をしても手に入らないものだ……たとえ、貴様を吸収しても、私を構成している一部に、貴様が組み込まれるというだけで……私の欲しい者が手に入った事にはならない!」
「……」
「なんでだ……なんで私ではない……私が、シューリ・スピリット・アースであれば、それですべてが完璧だったのに……ただ、愛する御方と……幸福なだけの日々を……過ごして……包まれて……満たされて……それが世界の全てになったのに……」
ギリギリと奥歯をかみしめながら、今にも血の涙を流さんばかりの勢いで、洪水のように溢れ出る想いを吐きだすだけのアダムを見て、
シューリ・スピリット・アースは、
(……バカなガキ……)
心の中でそうつぶやいた。
つい、失笑がこぼれた。
『呆れ』の二つほど向こう側にある感情に包まれるシューリ。
ドン引きに近いのだけれど、少し違っていて、
(これは本音だ。このガキの本音……よくもまあ、他人に、それほど醜い本音をつらつらと……)
自分には出来ない事だと思った。
が、だからこそ、
(本音か……)
動揺が薄れ、理解が煮詰まった時、ドクンと、魂魄が沸いた。
ゾクゾクと、
脳の奥がくすぐられる。
この感情の正体は極めて単純なモノ。
――暴力的なほどの優越感――
アダムの本音、
『憎い』というその言葉は、言いかえれば、
――うらやましくてたまらない――
シューリは、今、
アダムほどの女から、
『あなたが死ぬほどうらやましい』
と大声で叫ばれているのだ。
コレが『カスみたいな女の喚き』なら何とも思わない、
――アダムがカスなら、『うるさい、黙れ』としか思わないだろう。
しかし、今、シューリの目の前で、シューリを心底からうらやんでいるこの女は、
おそらく、
……というか間違いなく、
シューリを除けば、この世で比肩する者がいない究極の美少女。
その美しさ、
その強さ、
その可能性、
すべてが完璧な女。
そんな女が、
『うらやましい』
『うらやましい』
と、血走った目で、自分を見ている。
――ゾクゾクした。
ジュクジュクと募って、気付けば腐りかけていた憎悪と殺意にメスが入る。
背負うだけで各種の器官系が濁って崩壊していくような重たい化膿、
ヒドく醜い『魂の膿うみ』が、切開されて、ドロっと流れていく。
だから、当然のように、ゾクゾクしたんだ。
脳がビリビリと痺れている。
シューリは、
それゆえ、
ついには、
アダムという女に対して、
(……かわいい……)
などという感情すら抱いてしまった
0
お気に入りに追加
1,559
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
なぜハーレム勇者の俺がえっちな目に遭わされるんだ
たけきのこの山里
ファンタジー
女3 男1 のハーレムパーティのリーダー勇者。パラダイスな冒険の旅が始まるかと思いきや、なぜかえっちな目に遭うのは自分ばかり?CFNMや羞恥要素高めの一話完結、ちょいエロコメディです。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました
初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。
ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。
冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。
のんびり書いていきたいと思います。
よければ感想等お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる