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ウイング・ケルベロスゼロ(EW)

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(……強ぇ)

 勇者は強い。
 総合力なら、間違いなく、この星の一等賞。

 だが、

(どうやら、魔王と同じで、魔法は使えないようだが……戦士としての格……『殺し合い』という純粋な一点に置いて、俺は、こいつより、わずかに……しかし、確かに劣っている)


 適宜、最善の距離をとり、2本のエクスカリバーで、カースソルジャーを削っていくが、

「ぐぁああ!!」

 損を覚悟で詰められて、強引に、一撃を叩き込まれれば、
 それまでに稼いだ優位は即座に覆される。


「くそが、くそが、くそがぁああああ!」


 血を吐きながら、歯をむき出しにして、

「調子に乗んなぁああ!」

 勇者はアイテムボックス(亜空間魔法のランク2。生命体以外で、重量5キロまでなら、どんなものでも収納できる亜空間倉庫)に手を伸ばす。

 取りだしたのは、1枚の誓紙。
 B5サイズの、日に焼けてボロボロの紙。

 勇者は、荒々しく、親指を噛み千切ると、

「ウイング・ケルベロス!! デザートの時間だぁ!!」

 勇者の血を受け止めた血判状は、青い焔に包まれて火の玉になる。
 玉になった青い焔は、ツラツラと長く伸びて、火の輪をつくる。

 その輪の向こうから、



「グルルルゥ」



 翼を生やしている三つの頭を持つ犬が現れた。

 ウイング・ケルベロスは、この場に出現すると同時に、
 ギチギチ、ブルブルと震えだし、体を、コンパクトに変形させていく。

 前屈し、腕と足がくっつき、翼が硬化する。

 バックパックの形状になったのを確認してから、勇者は、バチンと大きく指を鳴らす。
 グワっと、ウイング・ケルベロスは勇者の背中に食いついた。


 浮遊する2本の聖剣を従えし、ケルベロスの翼を生やす勇者が、そこにはいた。


「さぁ、本番と行こうか……ここからの俺は、もっと高く飛ぶ。文字通りなぁ!!」


 ヒュンヒュンと、黒毛の翼が風を切る。
 軽快に空を舞いながら、
 勇者は、浮遊するエクスカリバーで、カースソルジャーに猛攻を加えていく。


「どうした?! 得意の剣が届いてねぇぜ! まさか、飛び道具は無しか?! おやおやぁ! カースソルジャーさんともあろう者が情けねぇ! 呆れてモノも言えないとは、まさしく、この事ぉ!! ――って、なぁっ!?」

 カースソルジャーが、魔剣の柄を、タタンと指ではじいた瞬間、
 死色の魔剣は、一瞬で、死色の魔双銃に変わる。


「ちぃ!」


 カースソルジャーは、二本の剣をアクロバティックに回避しながら、両手に握りしめた魔銃を乱射する。
 歪な形状をしているサブマシンガンタイプの魔双銃は、
 引き金を引き続けている間、延々に、高速で気弾を放ち続ける。

 連発してくるエネルギー弾の雨。
 それを、リロードもなしで、無尽蔵に撃ち続けられるという凶悪ぶり。

(クソがぁ! 厄介な事を! ――ぃや、だが、あの銃の威力は、剣より劣る!)

 銃タイプの武器は、この世界に太古から存在している。

 ただ、あんな複雑な形状の武器を、
 いったい、いつ誰が発明したのか、それは知られていない。

 ――というか、誰も知らない。

(弾の方が圧倒的にダメージは低い。よほど近づかれねぇ限り、弾は適度にバラけっから、まともには当たらねぇ。しゃぁねぇ……こうなりゃ、根比べだ……)

 気弾の雨を、必死にかわしながら、

(ナメんなよ、カスが。その火力じゃあ、俺は殺せねぇ。てめぇが俺を殺しきる前に、確定で、俺がお前を削りきる)

 勇者は、長期戦を覚悟した。

 だから、叫ぶ。
 覚悟を入れ直すために。


「上等だ、ごらぁああ! どっちが先に尽きるか、命でガマン比べしようじゃねぇか!」





 そんな、必死に闘っている勇者を遠くから眺めつつ、ラムドは、

(ウイケロかぁ。なつかしいなぁ。カッコいいっていう理由で、俺も使ってたんだよなぁ……魔改造して、ウイング・ケルベロスゼロ(EW)とか言って遊んでいたなぁ。どんだけ改造したところで、飛行オプションで使うなら、レーザーファルコンかドラゴンホークの方が上だから、結局、まったく使わなくなったけど)
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