異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
65 / 65

最終話 新しいはじまり

しおりを挟む

(あー……おもろい)

 脳内物質の分泌速度が増していく。
 快楽で頭が満たされる。

(すでに目付の終わった脳みそを即座に修正し対応する錬度。カットすんのも難しいはずの球をキチンと合わせた上、途中で軌道修正し、絶対にとれんポイントに落としてファールにしてみせた。これや……これがやりたかったんや)

 ハァっと吐息を洩らす。
 満たされていく。死の恐怖など、頭の隅をよぎることさえない。

(次で決まる……)

 トウシは振りかぶる。

(ワシとおまえ……どっちが上か……)

 トウシのすべてが沸騰する。
 脳みそがバチバチにはじけて、肉体を、この上なく心地いい電流が包み込む。





「うらぁあああああああああああ!!!!!」




 もう、小細工はいらない。
 全力の真っ向勝負。咆哮によって、球速が増加する。回転速度も上がっている。
 ギチギチ、ミチミチと唸りをあげる白球。悪魔を狩る、獰猛な弾丸。


 バシィイイイイイ!


 ミットの乾いた音を耳にして、

「……あり……えん……」

 ミシャンドラは膝をついた。汗がポタっと垂れた。滲んで変わる地面の色。
 マウンド上では、トウシが、

「っっっしゃあああああああああああああ!!!」


 それまでの人生で一度も見せたことのないガッツポーズを決めていた。のどが千切れるほどの雄叫びが、球場に響き渡っていた。





 ★





 試合後、球場を後にしたトウシの前に、

「図に乗るな」

 ズカズカと、距離感を無視した速度でミシャンドラが詰め寄ってきて、
「デビルの力をフルに使えば、お前などゴミに等しい。いずれ必ず叩きこんでやるよ。本当の俺の力を」

「はっ、悪魔風情が、誰に口きいてんねん」

「……ああ?」

「おお?」

 睨みあいは一分ほど続いたが、ミシャンドラの、

「取引を忘れるな。三分も鍛えろ。いいな」

 その発言で、二人の間で散っていた火花は一旦消化された。
 去っていくミシャンドラの背中から目線を切った、その時、

「……ぁ」「……ぁ」
「……ぉ」

 トウシは、二人のマネージャーと対面した。
 二人ともウズウズとしていた。切り出し方を迷っている。

 最初に口火を切ったのは古宮。

「非常に素晴らしかったわ。投手というロジックの極限を見た思いね。私は――」

「トウシ」

 長くなりそうな古宮の話を一刀両断したジュリアが、

「なんとなくわかった。あんたがどんな投手か」

「……あ、そう」

「より一層思った。絶対に、あんたを殺す。あんただけ光り輝くなんて、絶対に許さない」

「好きにせぇ」

「で、その……殺すなら、一番輝いている時がベストだと思う。その方が絶望は大きい。あたしは、あんたを苦しめるためなら、どんな努力でも払う。だから……」

「なんや」

「あんたが、最高の栄冠をその手にするまでは、まあ、その……実行は保留にする。首を洗って待っていろ」

 そこで、トウシは、ズイっとジュリアに近づき、

「ワシが栄冠をつかむ時、隣でそれを見るんは樹理亜、お前や。必ず、絶対、死んでも、お前に、ワシが栄冠をつかむその姿を見せたる」

「は……は?! な、なにを言って……どういう――」

 真っ赤になってモジモジするジュリア。
 言葉を構成する機能を見失う。全身が熱く、心が破裂しそうだった。 

「……ん?」

 そこで、トウシは、視線を感じて振り返る。
 三分が立っていた。

 自分に向けている視線の強度で、なにを言いたいのか察したトウシは、

「樹理亜、古宮。おまえらは、他の試合の偵察に行ってくれ。データは可能な限り集めたい。頼んだで」

 二人に指示を出してから、三分のもとへと歩いていく。

「なんか用か?」

「おまえの投球を見ていると心がザワついた。今まで一度も思ったことがない、負けたくないという気持ちが芽生えた。だから、まあ……なんだろうな……自分でも、何が言いたいのかよくわからんのだが……」

「おまえとワシで甲子園五連覇する」

「は?」

「登板回数は半々や。覚悟せぇ。諸々」




「………………分かった」





 数秒考えてから、三分は首を縦に振った。
 本日は快晴。

 新しい始まりには、ふさわしい天気。


「あつぅ」


 夏の日差しを受けて、トウシはため息をつきながら、そうつぶやいた。


                               END












【後書き】
これにて完結です。

楽しんでいただけたでしょうか。


 田中トウシのライバル?が主役で、田中トウシの親戚が準主役の『異世界転生はもう飽きた』という長編も書いています。
 トウシもちょっと出てきます。

 下にリンクを張っています。
 そちらも、読んでもらえたら、うれしいです。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

huck
2019.02.03 huck

すごくよかったです。しっかりまとまってて感動しました。

ただ一点だけ、ホウマちゃんが魔人化に失敗したというのを表現する為に女の子なのに肌がまだらで白目を剥いていてぴよぴよとしかしゃべれない、というのはキャラ過剰でそこまで必要だったかと思いました。

次の作品も期待しています!

2019.02.03 もち

最後までよんでくださって、ありがとうございます!

ホウマは、頭がよくて、美人で、もともと性格的にイっちゃっているという設定です。簡単に言えば、ゴリゴリの厨二属性です。異能力者(魔人)になれたことをよろこんでいますし、みんなの手前、おおっぴらには喜んでいませんが、実は、ああいう状態になっていることを喜んでいます。いかれていますねw



次の作品を期待しているというお言葉は、とても力になります!

一応、今、トウシのライバルが主役の話を書いていて、そっちは現在300話くらいで、最終的には1000話ほど書くつもりでいますw
私もホウマなみにいかれていますねw

もしよければ、そちらもぜひw

本当に読んでいただけて、感想をいただけて、とてもうれしかったです!
ありがとうございます!!!

解除
huck
2019.02.02 huck

達成課題としてあからさまなジレンマを押し付けられて封印されたチートという設定は新しいかも。
今後の更新も楽しみにしてます。

2019.02.02 もち

感想ありがとうございます!
達成課題があからさまに不可能なのに歯を食いしばって、裏で泣きながらがんばる主人公。
最後まで読んでもらえると、うれしいです!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢はバッドエンド回避で自由になり平穏に生きるはずだったのに、なぜこんなに求婚が!?

花草青依
恋愛
タイトル通りのギャグ短編小説/画像はChatGPT

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。