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前哨戦
しおりを挟む追い込まれた桑宮はタイムをとり、打席から出て、複数回深呼吸をする。
(ダメだ……打てる気がしない……いやだ……こんなところで負けたくない。打ちたい、甲子園六連覇もかかっているんだ。こんなところで負けちゃだめなんだ。どうにかしないと、でも、どうすれば……ああ、もう、くそぉ……打ちたい。勝ちたい。負けたくない。そのためなら、なんだってできる。神様、仏様、お願いします。なんだったら、悪魔でもいい。勝たせてくれるなら、魂でもなんでもあげるから、どうか、僕に力を――)
『言ったな』
「え?」
『悪魔に魂をささげてもいい。心の底から明言したな』
「え、なに? 誰? 幻聴? いや、確かに聞こえ――」
『OK、取引だ。打ってやるから、その体……よこせ!!』
★
ついにアクビがこぼれてしまう。
トウシは主審に背を向け、グラブで口を隠す。
気の抜けた顔で、
(あと一球、さっさと終わらせよ)
前を向くと、そこで、
(……ん?)
ゾクリと、背筋が震えた。脳みそが警戒アラームを全開で鳴らしている。
(なんだ? 雰囲気が、おかしい。いったい、何が……あぁ?!)
気づく。桑宮のバッティングフォームが変わっている。目力も違う。
(お、おいおい、ちょっと待て……それ、ミシャンドラの構え………………ちっ、マリオネットゲイザーか!)
「た、タイム!」
トウシは、即座にツカムを呼び出し、
「ミシャンドラに、ふざけんなって言ってくれ」
「は?」
「ワシ、今、テレパシー使えへんねん。通訳してくれ」
「なんで、使えないんですか?」
「ええから、はよ」
「……は、はぁ………………はい、つながりました。『なんのことかサッパリ分からない。そんなことより、取引内容を忘れるな』だそうです。どういう意味ですか?」
「ふざけやがって……くそがぁ……」
「おーい、どうしたんですかー?」
「戻ってええ。ちょっと集中させてくれ」
「はぁ? ……はぁ。まあ、いいですけど」
そう言って戻ろうとする背中に、
「本気のキャッチングしてくれ」
「……は?」
「ここからは、デビルの力全開で捕手をやってくれ……頼む」
「……ま、いいですけど」
「助かる」
「じゃあ、戻り――」
「ツカム」
「はい?」
「ワシは自分の性格知っとる。こんなヤツとは誰もまともには付き合えん。お前ら二人がめっちゃ我慢しとるんは分かっとる。ようついてきてくれた。本気で感謝する。すまん」
「僕、トウシくんのこと嫌いじゃないですよ。……ホウマさんもそうみたいですね」
「あ?」
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