異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
60 / 65

ライズとスプリット。もはや、それすら……

しおりを挟む

(打者の目が、最も苦手とする球は、ちゃんとした縦の変化。本物が投げられるなら、スプリットとライズが一番打ちにくい。それは、投手・打者の位置と、人間の目の構造的に確定されとる事実。なんで、フォーク系がたまに打たれるかといえば、ゴリゴリのマグレと、あとは、大半のフォークが、ちゃんとまっすぐ落ちとらんから)

 フォークは、超スローで見れば、基本的にブレており、つまりは、左右のどちらかにズレて落ちる。

 本来、完全にまっすぐ落ちれば、人の目は、遠近感がなくなり、どこを振ればいいのかわからなくなる。

 だが、シームが人の手で縫われており、かつ、完全な球体ではないという事実と、マウンドからキャッチャーまでの間が真空ではないという地球上における当然の物理が、投じられた球に当たり前の変化を与える。

 まっすぐ落ちなければ、遠近感が働く。だから打てる。ならば、すべてを計算して、まっすぐ落とせばいい。きわめて複雑な流体力学の知識を要する計算も、彼の頭ならコンマの単位で正解を導き出すことができる。

 結論は単純。田中東志のライズとスプリットは、マグレ以外では打てない。

「ストライッ、バッターアウゥ!」

 審判が叫ぶ。十二個目の三振。
 120台しか投げられなくとも、高校生程度が相手なら、三振を量産できる。




 ★




「わけわかんねぇ」

 0が続くスコアを見て、清崎は眉をひそめた。

 すでに七回。一点負けたまま、試合は、ズルズルと終盤に向かって、のんびりと進んでいる。

「なんで打てない? いや、コントロールがすげぇのはわかった。速度を微妙に調整しているのも、もうさすがに分かった。だが、それだけだろ? 120台だぞ。一番打ちやすい速度だろ。なんで、ここまで打てない?」

「裏の裏は表じゃないってことだよ」

「あ? 桑宮、お前、なにいってんだ?」

「誘導されているんだ、すべて……すべて。つけいる隙もあるはずだと思って食らいついてはみたけれど、無意味だった。無理だよ。勝てない。絶対に。……やっている野球の次元が違う」

「……マジでなにいってんだ?」

「駒の動かし方ぐらいしか知らない素人が名人と互戦で戦っているようなもの。いや……サインで球種を教えてくれているから、飛車角落ちなのかな。それでも、当然のように、ぶっちぎりで負けている。それが現状なんだよ」

「……いいかげんにしろ。横綱はこっちだ。相手はアカコーだぞ。俺らからすれば、クソ以下のチームだ。強いのはおれたちだ。勝つのは俺たちだ。そうだろ!」

「パーフェクトで負けているんだよ……現実問題」

「……」

「勝てる気がしない。気づかないのか? 回を増すごとに、田中の凄みがどんどん増していることに」

「……」

「最初は明らかにチャレンジャーの顔をしていたのに、今はマウンドに君臨している。理解したんだよ。僕らのレベルを。――話にならない、と」

「なにいってんだ、お前。だいじょうぶか?」

「ど真ん中のまっすぐしか投げていないよ」

「あ?」

「目をそらしたところで、現実は変わらない。三回以降、あいつ、田中東志は、どまんなかのまっすぐしか投げていない。それが僕らと彼の差なんだよ」

「……」

「勝てるわけないだろ。球種をさらし、変化球とコースへの投げ分けを縛ったうえで、楽にパーフェクトできるのが、彼と僕らの実力差だ」

「……開き直ってやけくそになっているだけだろ。失うモノがないやつはこれだからタチが悪い。打者は良くても三割しか打てないんだから、こんなマグレもある。マグレを実力だと勘違いするほど愚かなことはねぇぞ、気をつけろ」

(清崎くんは打撃の天才だが頭が悪い。とても理解できないか……)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...