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契約の内容
しおりを挟む「大丈夫ですか? ここまで完全試合ですよ。秩序的に問題ありませんか?」
ベンチに戻ったあと、水を飲んでいるトウシに、ツカムが小さな声で尋ねた。
「ワシ、一球でも魔球つかったか?」
「……いえ」
「170キロ以上の球投げたか?」
「いえ」
「ほな、問題ないやろ」
「ひとつ、聞いていいですか?」
「なんや?」
「なんで、抑えられているんですか? あんなクソ遅い球で……西教って、高校野球で一番強いチームなんでしょう? おかしくないですか?」
「たとえば、清崎。あいつは左でスタンスが広い。低めの対処が非常に得意な、スタンダードでオーソドックスなプルヒッター。アウトステップでインの球を狙い撃ちしてくる典型的なスラッガー。せやから、外の球は、カットできるよう、若干ドアスイングで、腕を伸ばしてくる。カットの打球を内野に入れてやれば、簡単に打ち取れる。外をカットするとなれば、スイングを遅らせんのが普通。なら、ブレーキのかかる0シーム、それも若干カット気味にムーブさせれば、内野に転がる」
「……なるほど。っていう設定ですか」
「いや、ホンマの話や」
「……え?」
「ていうか、初戦も二回戦も、そうやって勝ってきたんやで。デビルの力なんか、今大会では、ほとんど使ってへん。もちろん、お前が速い球投げられたり、ワシの球を余裕でとれたりするんはデビルの力やから、まったく使ってないわけやないけどな」
「え、だって、初戦は僕も投げましたけど、次の三国戦では、三分くんしか……え、じゃあ、あの試合は、普通に勝ったってことですか?」
「気づいてなかったんか?」
「……」
「秩序守る一番の方法は、デビルの力を極力使わんことや。そのくらいは分かるやろ?」
「わかり……ますけど……いや、はは……なんというか、すごいですね。さすがに感嘆しますよ。まさか、デビルの力を限界までセーブして、ここまでのことができるとは。御見それしました」
「セーブ……ねぇ」
「は?」
「いや、なんでもない」
★
「田中ちゃんの表情に若干の疲れが見えるところをみると、どうやら、彼の願いを聞いてあげたみたいだね、ミーちゃん」
アカコー側のアルプスで試合を観戦している男が、隣に腰掛けている日焼けした男にそう声をかけた。
「ちなみに、ここまでの試合、ミーちゃんはどう思う?」
「あんなクソ遅い球にカラぶるとは、へたくそな連中だ」
「ははは」
投神は、ころころと笑み、
「まあ、いいけどねーん」
「……何が言いたい」
「三分類と田中東志、どちらが優れた投手だと思う?」
「三分だ」
「ははは」
「なんだよ」
「田中ちゃんは、今、君との取引で、『この試合の間だけ人間に戻っている』。今の三分ちゃんが西教に投げたら、いったい、何点取られるかな?」
「知らん」
「僕ちんの見立てだと……まあ、ここまでで二点は取られているかな」
「俺の予想とは違うな」
「へー、そー」
「……本当に、なにがいいたいんだよ」
「約束通り、三分ちゃんは、君のチームにあげるよ。けど、田中ちゃんは、ウチがもらう」
「……」
「別にいいよね? みーちゃーん」
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