異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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なんで、どうして

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(中途半端に配球のセオリーを知っとるアホは、絶好のカモ。意識の枠外に何球がズラしてやれば、動体視力と神経回路が鈍る。ノーツーというカウントも、状況しだいでは、投手有利になる。『この投手は自分にビビっている』。『次は入れてくるはず』。『ノースリーを期待するのは、むしろ危険』。『こここそが打つべきタイミング』……考えるよな。アホみたいに、自分にとって都合のええことを。考察できた気になる。推察できた気になる。それがお前の限界や)

 キィン!
 鈍い音が響く。

 インハイの2シームジャイロに対応しきれず、打球は捕手の頭上に高くあがった。
 なんなくキャッチしてワンアウト。

 トウシは、アクビをしながら、マウンドをならした。

(なんつーか……こいつら、思ったより弱いわ……)



 ★



 所詮は、クソ遅い三流投手。
 いつでも打てる。楽勝、楽勝。

 そう楽観的でいられたのも、五回を終えるまでだった。
 現在、点差は1対0。

 負けているのは西教。

 初回の裏、田中にコツンと当てられ、盗塁からの佐藤のポテンで、あれよあれよと、一点を取られた。

 大したことない。一点くらい。田中とかいうクソから二点とればいいんだろ? 楽勝、楽勝!

 だが、一向に点を取れる気配はない。





「……なんで……打てねぇんだ? おかしいだろ……どうなってんだ!!」

 わめく清崎の横で、桑宮が、絶句した表情で固まっていた。

「お、おい、どうした、桑宮」

「……完璧……」

「あ?」

「僕の……理想とする……ピッチング……」

「なにいってんだ、おい。なにトリップしてんだ? おーい」

「ずっと、計算していた……初回から……彼の球種で、僕だったらどう投げるかって。ウチの打者相手に、あの速度で完全試合をするには、こうすればいいっていうプランは頭の中にすぐ浮かんだ。でも、それを実行するためには、九分割以上のコントロールと、全球種を一キロ単位でアジャストする力がいる。そんなもん、もちろん、人間には無理だ。だから、僕は、すぐに、ミスを含めたうえで考え直した……」

「……で?」

「必要なかった」

「あ?」

「あいつ……田中東志は……人間には不可能だと思ったピッチングを……そのままやっている……」

「ちょっと待て。は? おまえ、さっき、九分割以上のコントロールとか言ってたよな? おいおい、まず、それは絶対に無理だろ。お前でも、調子良くて六分割が限度。それだって、異常なレベルで、とにかくすげぇんだ。九分割以上なんて、人間にできるわけねぇだろ」

「……彼はやっている……」

「つーか、そもそも、相手投手が何分割で投げているかなんて、そんなもん、わかるわけ――」

「わかるよ……ぼくは、一流の投手だから」

「理由になってねぇ。つーか、落ち着け。冷静に現状を見ろ。あいつは、球がクソ遅くて、変化球のキレが微妙な、しかし、運だけは異常に良い投手だ。それ以上でも以下でもねぇ。どんな相手も侮らないって精神は御立派だが、ゴミをダイヤモンドと見間違えるのは、ただのバカだ」

「……」
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