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さっそくサインがバレました
しおりを挟む「うわ……ちゃんと落ちたよ。すご……ゆれているかどうかは、ここからじゃ分からないけど、少なくともチェンジアップとしての効果は十分にある。面白い投手だ。おまけにコントロールがいい。投げ方を見る限り、肩の稼働域がそうとう広いね。関節も非常にしなやかで柔らかい。いいなぁ……ボク、あの二つの資質、欲しかったんだよなぁ……」
「……単なる球が遅い投手じゃないって言いたいのか? まさか、俺たちが打てない投手だなんて言うつもりじゃねぇだろうな?」
「まさか。変わった投手だと言っているだけ。変則フォームの投手を見て面白がる気持ちと同じかな。あの速度じゃ、コントロールの良さは、逆に的を絞りやすくするだけだし、複数種類のまっすぐも、所詮は、最高速度が120そこそこだから、まったく驚異にはならない。多少の目くらましにはなるけど、ウチの打者には通じない。結局のところ、やっぱり、三分の方がはるかにいい投手だ。彼の代わりに投げるほどの投手じゃない」
と、そこで、
「あ、わかった!」
八番レフトの西田が、ふいに声をあげた。
「なんだ、西田、どうした?」
「サインの法則。偶然だけど、あれ、昔、俺が考えたことがあるヤツに似ているんだ」
「へぇ、ちなみに?」
「普通はサインっていうと、キーの次とかって思うだろ? でも、あいつのは違う。触った個所と、触った指を足した数が球種だ」
「……全然、わからん」
「わかんなくていいよ。ちなみに、これ、暗算力が求められるから、バレても大丈夫っていう、投手が出す分には最高のサインなんだ。……ま、ここにソロバン検定三級取得者がいるから、丸裸だけどな」
「……ふーん」
「なんで、さめてんだよ。俺は、すごい事に気づいたんだぞ! そろばん検定三級も、とろうと思うと、そこそこ大変なんだぞ!」
「ソロバンは知らんけど……そもそも、あいつの球を打つのに、球種が分かる必要あるか?」
「……」
「ま、わからないより分かった方がいいのはもちろんだから、サインは出してやったらいいんじゃね? ストレートの時は『絞っていけ』、変化球の時は『かっとばせ』、その二つを大声で叫んでやれば、バレていることを相手に悟らせずに、一瞬でサインを送れんだろ。ま、ぶっちゃけ、どうでもいいけど」
「……なんか、釈然としないんだけど」
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