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異常な覚醒
しおりを挟む「ぴよぴよ(狙ってそうしたの?)」
「当たり前やろ。意味のないことはせぇへん。ま、あそこまでハマるとは思わんかったし、その結果、ここまで覚醒するとは思わんかった。良質な緊張感と集中力が、あいつの神経回路を完璧に覚醒させ、急速に研ぎ澄ましていった。この先、あいつは、試合で投げるたびに磨かれていく。どんどん投げることが好きになり、加速度的に成長していく」
「ぴよぴよ(いいことじゃない。彼の力はチートじゃない。どれだけ上手くなろうと、秩序は乱れない)」
「ま、そういうこと。ただ、あそこまでハマられると、ちょっと、制御するんが面倒くさいねんなぁ。脳が焼けつくほど投手の魅力にハマったやつは、ほんまに、へし折れるまで投げ続けるからな。せっかくの優秀な飛雷針に壊れられたらたまらん。こっから先は、あいつの行動に目を光らせなあかん。ぶっちゃけ、それが鬱陶しい……ほんま、ワシの人生、色々と、随所でうまくいかんわぁ……なんやねん、これ……はぁ」
★
端的に言うと、トウシの予想ははずれていた。
五回の守備が終わった段階で、トウシは天を仰いだ。
(信じられへん。なんや、あいつ……)
ここまでの三分の投球を思い出し、トウシは奥歯をかみしめる。
(天才やとは思っとった……けど、ここまでの超天才とは思ってへんかった……)
投手に魅了された三分の投球は、トウシの予想を超えて上達していった。
小学校時代から続けている走り込みや筋トレなどで下地だけは十分にできていた。
そのうえで、この数か月、トウシ指導のもと、投球に必要な体の動かし方を完璧に学んだことで、三分の土台は盤石なものになった。
そして、華、開く。
(あのアホは、数日前まで、『この程度できていれば十分』という感覚で野球をやっとった。偏差値60のやつが、偏差値50の高校を目指しとるような状況。現状維持が最上と判断するやつは、決して向上心を抱かん)
三分はバカじゃない。自分の才能は理解していた。
左で、一年で、MAX140を超える球を投げる投手。
プロになるには十分な資質。
だから、抜いていた。すべてで。
練習でも、なんでも。
だが、
(……本物の資質、本物の才能……)
トウシは、天を仰いだまま、ため息をついて、ボソっとつぶやいた。
「ウゼェ」
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