異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
34 / 65

リアリティを重視した設定

しおりを挟む

「――ああ……おう……分かった。今、忙しいから、そのくらいでええ。詳細は、明日、部室で聞かせてもらうわ。ほな」

 トウシは、電話を切りながら、

(古宮麗華の知識と眼力はホンマもんや。それをふまえて、選抜での試合と、今日の試合の感想を鑑みるに……西教の仕上がりは万事順調みたいやな。清崎と桑宮のどっちか二人に不調の影でも見られれば、三分だけでもなんとかなるかと思ったんやけど……現実は甘ないな。セットアッパーにツカムをつかわざるをえん……問題はどういう設定の投手にするか……)

 そこで、

「はぁ……はぁ……」

 三分が、二十キロのロードを終えて帰ってきた。

 トウシは、一時思考を止めて、ゆっくりと彼に近づき、

「はい、ほな、シャドーすんで」

「はぁ……はぁ……」

「疲れとるから無理、みたいな顔しとるな。アホぉ。その状態やないと意味ないねん。疲れ切って体に余計な力が入らん時が、もっとも型を整えるにふさわしい状態なんや。ほら、立て」

「はぁ……はぁ……」

 三分は、歯をくいしばって立ち上がり、首に巻いたタオルを左手につかみ、

「……ふぅ……はっ」

「はい、上体突っ込んだ。リリースの手首かたーい。てか、肩開くな、何回言わすねん」

「……はぁ……はぁ」

「はい、次、次!」

「くっ」

 それから二百回ほど矯正シャドーをしてから、

「ほな、あとは、鏡の前でのバスケシャドー百回、サッカースローイン百回。平均台シャドー百回。片足シャドー二百回。そのあと、いつものダンベル体操やって、今日は終わり。お疲れ。ワシは、あの二人とブルペンにおるから」

「おまえは……」

「あ?」

「はぁ……はぁ……練習……しなくて……いいのか? いつも……俺の練習を見ているか……あの二人と……遊んでいるだけだが」

「別に遊んどるわけやない。調整してんねん」

「調……整……?」

「おまえと違って、ワシはすでに完璧やから、適度に調整するだけでええんや」

「……」

「ほな、頑張れや。言うとくけど、ワシのメニューをサボったらプロにはなられへんで」

 ★


 三分は、部室の横にある等身大の鏡面の前で、自分の投げ方を確認しながらバスケットボールを担いでのシャドーを繰り返す。

 なんの意味があるか全く分からない行動を繰り返していると、後ろから、

「田中くん、どこ?」

「……」

「ん? なに?」

「おまえ、本当に、もう、あいつにしか興味がないんだな」

「あら、構ってもらえなくなって、寂しいの?」

「鬱陶しい状況確認がなくなって楽になった。田中には非常に感謝している」

「ふふ、やせ我慢しちゃって」

「いや、本音なんだが……それにしても、お前のあいつに対する執着心は、ちょっと異常なレベルだな」

「そりゃそうでしょ。あなた、自分と彼の差がどれだけあるか、これだけ近くにいて分からないわけないわよね? あなただって、無能なわけじゃない。どころか、天才と言って相違ないレベル。そんなあなたがクソに思えるほど、田中東志の才能は桁が違う。彼だけに集中するのは当然」

「……まあ、確かに知識は並々ならないものがあるが」

 言いながらも、確認を続ける。
 そんな彼の練習を見て、

「腕の使い方、ずいぶんときれいになったわね。そのバスケットボールを担いでシャドーするやつ、肩甲骨の動かし方を覚える練習でしょ?」

 古宮の言葉を聞いて、三分は、

(肩甲骨? なるほど……そういう練習なのか)


「田中くんの指導は本当に的確ね。おそれいるわ。矯正が成功した今なら、あなた、140キロくらい出せるんじゃない?」

「140なら、田中と勝負した時、すでに出している」

「は? 勝負? なにそれ?」

「あいつの命令通りに毎試合百球投げるか、あいつが俺の専用コーチになるかを賭けた勝負だ」

「どういう勝負?! 内容は?!」

「食いつきがハンパじゃないな」

「いいから、さっさと答えて!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...