31 / 65
希少フリーパス券
しおりを挟む数日後、古宮・ジュリアの二人は、西教高校のグラウンドに来ていた。
「偵察は、私一人で出来るのだけれど」
「あたしもマネージャーだ。同行して何が悪い?」
「もし、本当に力を貸してくれるのであれば、できれば、字石か三国に行って欲しいのだけれど。その二つも、同じく練習試合をしているみたいだから」
「あっ、もう始まっているようだな」
「……まあいいけど」
「トウシたちと違って、あいつら全員デカいな。比べれば、大人と子供ほどの違いがある」
「……あなた、たしか、田中くんに殺意を抱いているのよね?」
「それが?」
「なのに、なぜ、下の名前で呼んでいるの?」
「田中は、あいつの家の名前。あいつ自身の名前じゃない。あたしが恨んでいるのは、あいつ個人だ。だから、あいつそのものを現す名前で呼ぶ。当然のことだろう」
(当然かしら? ……この人、ほんとよくわからないわ。殺したい殺したいって息巻いているけれど、ここ数日、彼女がやっていることは、彼のサポート以外のナニモノでもないのよね)
「そんなことより、さっさと西教の偵察をはじめよう。時間は有限だ」
言いながら、ジュリアは、双眼鏡とスコアブックとノートを取り出して、いそいそと情報分析を始めた。
(濡れタオルに水筒に着替え……うーん……『あんたを監視するため、あくまでもマネージャーの真似事をするだけ』なんて言っていたけど……なんで、こんなにマネージャーとして、行動のすべてが完璧なのかしら? 彼のマネージャーとして働きたくて仕方がなかったというのなら納得できるのだけれど……いろいろと分からない人だわ)
★
試合後、ジュリアはため息をついて、
「どいつもこいつも、高校生とは思えないほどの実力だった。特に、二年の桑宮と清崎はとんでもない。一年生で二連覇したのも納得」
「そうね。この打線が相手となると、三分くんでは、ちょっと、お話にならないわ」
「あの三分なんとかって男、別に悪くはないけど、所詮は『中の上』。上の上しかいないチーム相手だと…うーん」
「三分くんに先発させるというハンデは、さすがにキツすぎると思うのよね。でも、田中くんは、言いだしたらきかない人だからねぇ……」
(ハンデ? なんのことだ? ウチのエースは実力的に間違いなく三分……あのヘタレ臭い男が先発するのはただの必然……)
「田中くんが頭から投げてくれれば、どんなハンデを背負っていようと、何の心配もいらないのだけれど……まったく、意識が高すぎるというのもどうかと思うわ。六割以下の球限定かつ先発三分くんという、異常なハンデを背負ったうえで五連覇を達成するのが目標だなんて……彼の実力を知らない人間が聞いたら、狂っているとしか思わないわね」
(トウシ? あいつは、男としてはともかく、野球選手としては、下の上が精々。あいつに投げさせたら、試合が壊れるだけ。なに言ってんだ、この女)
「まあ、でも、神を相手に投げ勝つという快挙を為すためには、この程度のハンデ、余裕で乗り越えないと話にならないのかもしれないわね」
(……神? おいおい、この女、本当に大丈夫? まさか、本当にラリってんじゃ――)
「本気を出さない理由は理解できるのよ? 田中くんほどの男が高校生相手にマジで投げるなんて、みっともなさすぎるもの。メジャーリーガーがバットの振り方も知らない園児相手に全力を出すよりダサい行為ね。かっこ悪いったらありゃしないわ」
(この女、ほんとに何言ってんの? まるで、トウシが圧倒的強者のような言い草……トウシは、確かに頭脳の方はズバ抜けて優れているけれど、高校球児としては二流以下のカス。投手としてだけなら、三分の方がはるかに上)
「さて、そろそろ帰ろうかしら……あ、そうそう、あなたに、一つ聞いておきたいことがあったのよ」
「……なに?」
「あなたが、田中くんを恨んでいるって話、あれ、本当に本当なの?」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる