異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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末永くよろしく

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「最初から説明した方がいいかしら。ウチの家系は、父方も母方も、全員が野球の関係者なのよ。スカウト・球団の広報・バッティングピッチャー・実況アナ・野球賭博のハンデ師に胴元」

(……最後の二人は聞かんかったことにしよう……)

「私は、そんな家で育ち、生まれた時から、メジャーの代理人になるため、決死の覚悟で自分を磨いてきた女。必ずあなたの役に立てるわ」

(古宮……ああ、なんか聞いたことある名前やと思ったら、プロ野球関係の資料で複数回目にした名前や。この女の家……若干ワシの家に似とるな。まあ、こっちは、親父と爺さんが、試合の分析を唯一の趣味にしとったぁいうだけの話やけど)

「あなたの右腕に、必ず最高の値段をつけてみせる。私に、任せてくれるわよね?」

「話を勝手に進めるん、やめてくれへん? とりあえず、ちょっと話し合おうや。まず、ワシについてなんやけど……えっと……えーっと、なんというか……」

 相手を納得させる答えを求めて頭を必死に回転させると、三分類の顔が浮かんだ。
 即座に頭の中でシナリオを構成し、

「そ、そう! ワシは、まあ、薄々気づいとると思うけど、肩・肘の浪費を防ぐために高校を捨てた投手なわけで――」

「ええ、わかっているわ。知り合いに、似たようなことをやっている男がいるから。まあ、あなたと比べれば、あっちはカスみたいなものだけれど」

(こいつ、もしかして三分の知り合いか? ……てか、カスて。あいつ、結構な原石なんやけど……)

「あっちは、無謀で愚かな選択をしているとしか思わないけれど、あなたに関しては、その行動、間違いなく正解ね。その、ありえざる右腕という至宝を、高校野球なんかで消費する意味はまったくないわ。かといって、実績ゼロではスカウトの目にはとまらない。ふふふ。安心して。あなたのメジャーへのルートは、私が全力で、完璧なモノを用意するわ」

(あかん……こいつ、人の話を聞かんタイプや……)



 トウシは、ため息をついて、

「あー、えっと……あんた、古宮さんやったっけ?」

「ええ。そうよ。古宮麗華。あなたの代理人よ」

「……一つだけ確認したいんやけど、ワシが投げとるところ、映像で撮ったりした?」

「いえ。けど、もちろん。いつかは広報用に撮らせてもらうつもりよ。焦らなくてもその辺、抜かりはないわ」

「……あ……そ」

 トウシはホっと息をつきながら、心の中で、

(せやったら問題ない……あとは160キロを人前では二度と投げんかったらええだけの話。簡単なお仕事や)

「あなたのすべてを、私に任せなさい。必ず、あなたの腕に、最高額をつけてみせる」

「あ……うん(ここはテキトーに流しておけばええ)……あんがと。じゃ、よろしく」

「ええ、末永くよろしく!」

(スピードガンの故障・不調、あるいは見間違い、思いこみ……対処の仕方はいくらでもある。ひとりに見られただけでは大した問題にはならん。こいつも、すぐに、自分を疑い始めるやろ。人間の記憶なんて日に日にあいまいになるもんやからな)

 それが、甘い考えだったという事に、彼はこの後、すぐに気付かされる。そして、長期にわたって、彼女に悩まされることになる。
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