異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
19 / 65

160キロ??!!!

しおりを挟む
『条件を満たしました。これより、文字変換の使用文字数がリセットされます』


視界に表示された画面を見てレイナは危うく声を出そうになったが、どうにか抑える。文字数が元に戻ったという事は日付が変更されたらしく、知らない間にレイナは大迷宮内で1日近くを過ごした事らしい。

文字数がリセットされた事で文字変換の能力も扱えるようになり、ここでレナは3人の様子を伺う。まだイヤンに仕掛けられた罠の影響が残っているのかリルは目元を抑え、チイやネコミンも眠たそうに目を擦る。その様子を見てレイナは脱出の前に安全な場所で休息が必要だと判断して文字変換を使って3人が休める場所を作り出す事にした。


(銃を生み出したとき、俺の思い通りの物が出てきた……なら、あれも作り出せるかもしれない)


レイナは立ち上がるとカバンの中から文字変換に使えそうな道具を探し出し、万が一の場合に想定してカバンのポケットの中に文字変換の材料として入れていた金貨を取り出す。


『金貨――世界中で発行されている金貨』


金貨を見つめてレイナは特に勿体ない気がしたが、今回作り出す物を考えると一文字よりも二文字の文字の方が「想像」しやすく、文字変換の能力を発動させて作り上げる事にした。


「すいません、ちょっと待っててください」
「ん、何処へ行く気だ?」
「大丈夫です、何処へも行きませんから」


立ち上がって移動を始めたレイナにリルが声を掛けるが、言葉通りに数歩ほど離れた場所でレイナは立ち止まり、そして解析と文字変換の能力を発動して「金貨」の名前を変更させる。


「……頼む、成功して」


祈るようにレイナは金貨の詳細画面の名前の部分を書き換えた瞬間、金貨が光り輝き、それを見たレイナは咄嗟に放り投げる。そして地面に落ちた瞬間に金貨は形状を大きく変化させ、やがてレイナの前に「一軒家」が誕生した。



――第四階層の安全地帯の中央にてレイナが生まれた時から住み続けていた『自宅』が誕生し、その光景を見てレイナは無意識に瞳を潤ませる。何しろ異世界で自分の家を目にするなど考えてもおらず、扉を開けば家族が出迎えてくれるのではないかと考えてしまう。



一方で金貨から建築物を誕生させたレイナにリル達は唖然とした表情を浮かべ、まさか建物まで作り出せるとは思わず、リルが珍しく焦った声を上げる。


「こ、こ、これはいったい……何なんだ!?」
「あ、すいません……説明するのを忘れてました。これが俺の家です」
「いや、家ですって……」
「……わおっ」


リル達は目の前に誕生した建物を前にして唖然とした表情を浮かべ、恐る恐る近付いて本物である事を確認する。レイナの方も扉に手を伸ばし、鍵が開いている事を確認すると中に入り込む。

外見だけではなく、建物の中身の方も完璧に再現されており、リル達を中に通すとレイナは部屋の間取りや家具も存在する事を確認し、これで気兼ねなく休むことが出来ると判断した。その一方で家の中に案内されたリル達は興奮した様子でレイナに話しかける。


「お、おい!!この天井付近に張り付いているのは何なんだ!?」
「あ、それはクーラーです。部屋の中を温かくしたり、逆に冷たくする事も出来ます」
「なら、こっちの箱のような物は?」
「電子レンジです。中に冷たい食べ物とかを入れると温めることが出来ます」
「なら、この変なの?」
「テレビです。今は使えないと思いますけど……」


リル達は初めて見る電子機器に戸惑い、部屋の中の物をあちこちと調べまわる。彼女達にとっては初めて見る未知の道具がいくつも存在し、その間にレイナは建物の様子を確認する。


(俺がこっちの世界に召喚される前の状態の家だ……やっぱり、文字変換を発動させるとき、作り出す物は俺の想像が反映されるんだ)


レイナの予想通り、文字変換の能力を使用するときは欲しい物を想像すればその願いが反映されて望み通りの物が現れるらしく、だからこそレイナは想像力を高めるために「家」ではなく「自宅」という文字を使用した。結果としてはそれが功を奏し、見事にレイナは異世界で自分の家を作り出す事に成功した。

しかし、何でもかんでも思い通りにはいかず、残念ながら照明を付けるためにレイナはスイッチを押すが反応はなく、冷蔵庫の方も確認すると中身が空で機能していない事が判明する。


(あ、そうか……家を作り出した所で電気やガスや水道が使えるはずがないじゃん。失敗した……)


家だけを生み出したところで電気等が都合よく通っているはずがない事に気付いたレイナは頭を抑え、これでは身体を休める事は出来ても住む場所としては不適合だと判断する。物置部屋に行けばカセットコンロの類があるので火はどうにかできるが、水道と電気に関してはどうする事も出来ない。


(参ったな、折角作り出したのにこれじゃあ心行くまで休むことが出来ないよ……ん?待てよ、それならあれを作り出せば電気やガスや水道どころか、移動も楽になるんじゃないのか?)


ソファに座り込みながらレイナは自分の叔父が所持していたとある車の存在を思い出し、今度身体を休める場所を作る時はあの車を出してみるのも悪い手ではないかと考え、一先ずはリル達に声を掛ける。


「今日はここで休みましょう。アリシアさんもベッドで寝かせたいし、必要な道具があるなら全部持ってき行きましょう」
「ん……そ、そうだな」
「これが異界の勇者の家だというのか……何とも不思議な物だな」
「今度、ゆっくり見学したい」
「それはまた別の機会という事で……両親の部屋にベッドがありますから、そこで休ませましょう」


外で寝かせているアリシアを運び込み、レイナの両親の部屋へ運び込む。柔らかいベッドの上で寝かせたお陰か心なしかアリシアの表情も和らぎ、そんな彼女を見てリルが看病を申し出る。


「アリシアの事は私が見ておこう。君たちは先に休んでいてくれ」
「リル様、それなら私が……」
「いや、いいから休むんだ。アリシアとしても私の方が相手をしやすいだろう」
「そ、そうですか……分かりました」
「じゃあ、客室もあるのでそっちへ案内します」


アリシアの事はリルに任せるとレイナはチイとネコミンのために客室へ案内すると、自分は二階の自室へ向かう。入って早々にレイナは見慣れた部屋の光景にため息を吐き出し、ここが異世界である事を忘れてしまいそうになった。

読みかけの漫画や朝起きる際に床に落としてしまった毛布を見て本当に自分の部屋に戻って来た感覚に襲われるが、レイナは自分の胸元に手を伸ばし、乳房に触れる。別に邪な気持ちで触れたわけではなく、現在の自分の姿の変化を自覚してここが地球ではない事を再確認した。


「……見慣れた天井だな」


ベッドに横たわり、懐かしく感じる自分の部屋の天井を眺めながらもレイナは瞼を閉じる。無意識に涙が流れてしまい、本当の元の世界へ戻りたいという気持ちが強まっていく。


「帰りたい……」


地球の家族や友人の顔を思い出しながらもレイナは睡魔に襲われ、意識が薄れかけた時、部屋の扉が開いて誰かが中に入り込む。その人物はレイナがベッドの上で涙を流しながら眠っている事に気付くと、黙ってレイナの方へ近づき、手を握り締めた。


「よしよし……大丈夫、ゆっくり休んで」
「んっ……」


手を握り締めた人物はレイナが立ち去る際に彼から「不安」の臭いを嗅ぎ取ったネコミンであり、心配した彼女はレイナの様子を確認するために部屋まで訪れる。そして子供の様に泣いているレイナの姿を見た彼女は落ち着かせるようにレイナの頭を撫でながら安心させた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...