異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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1000球勝負

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「……」

「ツカム、引き続きキャッチャー頼むわ。ホウマは……そうやな、左中間の奥底におってくれ。今、球一球しかないからな。いちいち球拾いに行かせるん、めんどい」

「ぴよぴよ(千球ともそこに打つつもり? それ……普通の人間にできる?)」

「客おるわけやない。こいつ一人に見られるだけやったら、秩序なんか乱れようあらへん。問題ない」

「ぴよぴよ(わかったわ。お好きにどうぞ)」

 言われた場所についたホウマを見ると、トウシはバットを握り、打席に立って、

「もう一個ハンデやるわ。ボールもカウントしたる」

「なん……だと……」

「ここ狙ってきてもええで」

 言いながら、自分の頭を指し、

「もちろん、お前の球なんか一切こわないから、ヘルメはいらん。さあ、はじめよか」

 バットを構えるトウシを睨みつけながら、

「……一球だ……」

「あーん?」

「バットに当たればお前の勝ち、空振りなら負け……一球勝負だ……いいな、田中ぁ」

(ええ感じに茹だってきた。これなら問題ない)

 トウシはそう言うと、ツカムに、

(ツカム、今からワシの言うとおりにしてくれ)

(は? ……ああ、はい。いいですよ、お好きに)

 返事をした直後、ツカムはスっと立ち上がり、

「この勝負、トウシくんがホウマくんのところに打って終わりですね。捕手は必要なさそうなので、僕は下がらせてもらいます。正直、あなた程度の投手の壁をやるのは、プライドが許さないんですよ。では失礼」

「……お前ら全員……なんなんだ……人をさんざんコケにしやがって……」

 ギリギリと奥歯をかみしめる三分に、トウシは、

「最後に確認や」

「あぁ?!」

「ヘソの下に力いれて、リリースの時に叫べ。ステップ位置はいつもより前。ええな」

「……言われたとおりに投げてやるよ。すべて。これが最後だからな。お前の言うことを聞くのも」

「はい、OK。ほな、いこか」

 トウシが構えたのを見て、三分は、大きく振りかぶる。

(おまえが言ったんだ……頭を狙えと……)

 三分は、荒い息を吐きながら、

(責任はお前にしかない)

 大きく足をあげ、

「うらぁあああああ!」

 言われたとおりというか、ほとんど反射的に、叫び声をあげながら渾身の一球を投げる。

 軌道は、まっすぐ、トウシの頭に向かっている。

 完璧な危険球。
 一発退場のビーンボール。


 それを、


「おっそいわぁ、ほんま。超魔遅球より遅いとか、逆にしんどいわ」

 溜息交じりにあっさりとはじき返す。
 軽快な金属音を残して、ボールは奇麗なライナーで飛んで行き、
 バシっとホウマのグラブに収まった。

「……な……」

「はい、終了。一球でええんやろ? それとも、あと999球投げるか?」

 問いかけるが、三分は答えない。膝から崩れ落ちて下唇をかみしめている。

「聞いてんねん、答えろや」

「……ぁぁ……」

「はい、敗北宣言いただきました。ほな、今日からワシの指示通りに動いてもらうで。まずは、これまでの酷い態度の罰として、右で投げてもらおか」

「……ぁ?」

「あそこにネットあるやろ。あれを、キャッチャーの位置において、マウンドから右腕で投げんねん。そうやな……今日は、五百球でええわ。明日以降は二百。毎日な」

「……逆の腕で……なんで、そんな……無意味な……」

「ごちゃごちゃ言うな。お前は言われたことだけやったらええねん。それとも、あと999回、ツーベース打たれたいか?」

「……」

「はい、ということで、頑張って。じゃ、ワシ、帰るから」



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