異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
15 / 65

1000球勝負

しおりを挟む
「……」

「ツカム、引き続きキャッチャー頼むわ。ホウマは……そうやな、左中間の奥底におってくれ。今、球一球しかないからな。いちいち球拾いに行かせるん、めんどい」

「ぴよぴよ(千球ともそこに打つつもり? それ……普通の人間にできる?)」

「客おるわけやない。こいつ一人に見られるだけやったら、秩序なんか乱れようあらへん。問題ない」

「ぴよぴよ(わかったわ。お好きにどうぞ)」

 言われた場所についたホウマを見ると、トウシはバットを握り、打席に立って、

「もう一個ハンデやるわ。ボールもカウントしたる」

「なん……だと……」

「ここ狙ってきてもええで」

 言いながら、自分の頭を指し、

「もちろん、お前の球なんか一切こわないから、ヘルメはいらん。さあ、はじめよか」

 バットを構えるトウシを睨みつけながら、

「……一球だ……」

「あーん?」

「バットに当たればお前の勝ち、空振りなら負け……一球勝負だ……いいな、田中ぁ」

(ええ感じに茹だってきた。これなら問題ない)

 トウシはそう言うと、ツカムに、

(ツカム、今からワシの言うとおりにしてくれ)

(は? ……ああ、はい。いいですよ、お好きに)

 返事をした直後、ツカムはスっと立ち上がり、

「この勝負、トウシくんがホウマくんのところに打って終わりですね。捕手は必要なさそうなので、僕は下がらせてもらいます。正直、あなた程度の投手の壁をやるのは、プライドが許さないんですよ。では失礼」

「……お前ら全員……なんなんだ……人をさんざんコケにしやがって……」

 ギリギリと奥歯をかみしめる三分に、トウシは、

「最後に確認や」

「あぁ?!」

「ヘソの下に力いれて、リリースの時に叫べ。ステップ位置はいつもより前。ええな」

「……言われたとおりに投げてやるよ。すべて。これが最後だからな。お前の言うことを聞くのも」

「はい、OK。ほな、いこか」

 トウシが構えたのを見て、三分は、大きく振りかぶる。

(おまえが言ったんだ……頭を狙えと……)

 三分は、荒い息を吐きながら、

(責任はお前にしかない)

 大きく足をあげ、

「うらぁあああああ!」

 言われたとおりというか、ほとんど反射的に、叫び声をあげながら渾身の一球を投げる。

 軌道は、まっすぐ、トウシの頭に向かっている。

 完璧な危険球。
 一発退場のビーンボール。


 それを、


「おっそいわぁ、ほんま。超魔遅球より遅いとか、逆にしんどいわ」

 溜息交じりにあっさりとはじき返す。
 軽快な金属音を残して、ボールは奇麗なライナーで飛んで行き、
 バシっとホウマのグラブに収まった。

「……な……」

「はい、終了。一球でええんやろ? それとも、あと999球投げるか?」

 問いかけるが、三分は答えない。膝から崩れ落ちて下唇をかみしめている。

「聞いてんねん、答えろや」

「……ぁぁ……」

「はい、敗北宣言いただきました。ほな、今日からワシの指示通りに動いてもらうで。まずは、これまでの酷い態度の罰として、右で投げてもらおか」

「……ぁ?」

「あそこにネットあるやろ。あれを、キャッチャーの位置において、マウンドから右腕で投げんねん。そうやな……今日は、五百球でええわ。明日以降は二百。毎日な」

「……逆の腕で……なんで、そんな……無意味な……」

「ごちゃごちゃ言うな。お前は言われたことだけやったらええねん。それとも、あと999回、ツーベース打たれたいか?」

「……」

「はい、ということで、頑張って。じゃ、ワシ、帰るから」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢はバッドエンド回避で自由になり平穏に生きるはずだったのに、なぜこんなに求婚が!?

花草青依
恋愛
タイトル通りのギャグ短編小説/画像はChatGPT

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...