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20年

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「ほう、二十年ねぇ。プロ投手の二十年は、エリートサラリーマンの九十年分に匹敵する。えらい長いこと働く気やねんなぁ。見事な社畜精神。御立派、御立派。全国のニートに聞かせてやりたいわ。……さて、話を戻すけど、その、お前のポリシーを賭けて勝負や。ワシが勝ったら、今後、一試合につき百球、ワシの言う通りに投げてもらう。もしワシが負けたら、お前の練習道具になったるわ。ブルペン捕手、球出し、荷物運び、なんでもしたる。三年間、お前に尽くしたるわ。ええ条件やろ。ワシが勝った場合でもデメリットはほとんどない。どんな試合展開になろうと、必ず百球で降りてええ。年に数回、ちょっと多めに投球練習するだけや」

「……負けたら、本当に、俺の奴隷になるんだな?」

「神と悪魔に誓って。ついでに投球指導もしたろか?」

「……いらん。ブルペン捕手だけやってもらう」

「はい、決まり」

「で、勝負の内容は? 言っておくが、お前に有利な条件の場合、勝負は受けないからな」

「簡単や。今からお前に二球投げてもらう。一球目はお前の自由に、二球目はワシの言うことを聞いてから投げてもらう。二球目の球速が一球目より五キロ以上速かったらワシの勝ち。プラス五キロ以下やったらワシの負け」

「……」

「一球目に本気出して、二球目で抜けば楽勝で勝てる。そう言いたげな顔やな。別にええで、そうしても」

「……何を考えている」

「ひとつだけ、ハッキリ言うといたる。今のままやったら、お前はプロにはなられへん」

「あ?」

「おそらく、お前は、スカウトにはこう言われとるんやろ?」

『君は非常にすばらしい。今後の経過次第で結果は変わるが、しかし、今のチーム情勢から考えるに、君の力は必要だ。二年後、期待通りの成長を遂げていたその時は、上位は無理だが、私が、必ず指名させる』


「ニュアンスは多少違うかしらんけど、まあ、そんなとこやろ」

(こいつ……超能力者か……)

「アホか、ボケ。一年で130投げる左を見れば、どんなスカウトでも唾つけるわ。けど、実績なしの高卒なんざ、仮にそのスカウトがほんまに認めとっても、首脳陣を納得はさせられへん。二年後のお前のMAXが150を超えとったら話は別やけど、ワシが見る限り、お前は、あと身長が十センチ伸びても、まあ、ええとこ145。左とはいえ、140そこそこが限界で実績がない高卒……取らへんわ、ぼけ」

「……」

「野球にちょっとでも詳しい人間なら、誰でも、投手にとって一番大事な要素が何か知っとる。それは『投手としてのメンタル』や。登板ゼロやと、それがわからへん。ブルペンで調子よくても、試合になったらストライクが全く入らんようになる完全欠陥品はこの世に仰山おる。未知数に賭けるほど、球団いうもんは楽観的でもロマンチストでもない。つまり、お前は無価値や」

「……」

「けど、二年間、ワシの言う通りに練習すれば、150どころか、160も目指せる。その可能性、つまりはワシがどれほどの男か、それをお前に見せるんが、今回の勝負のキモや。ワシが勝ったら、試合では投げてもらうけど、その代わり、本気で投球指導したる。この勝負は、お前がプロになれるかどうかの分水嶺。本気でプロを目指しとんなら、この勝負で、お前は必ず、二球とも本気で投げる。もし二球目抜いたら、お前は口だけのふぬけ。さて、どっちかな。楽しみやわぁ」

「……」

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