異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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 そこで、田中は、

「っ!!」

 三分の左手を慎重にひねり上げ、手のひらと腕の筋肉、そして太ももとふくらはぎを触りながら、

「ほむほむ。球種はカーブとスライダー。スタンダードなやっちゃなぁ。で……速度は……ほう、130オーバーか。一年でその速度が出せるか。左の一年でその速度はなかなか出せん。全国見渡しても、十人おるかおらんか。なかなかの原石や」

「……なっ……どういう……」

「ワシくらい一流の目があれば、指タコの位置で持ち球くらい分かる。出せる速度は、身長と筋線維の密度を計算すれば容易にはじき出せる」

「……」

「チェンジップは指タコでけへんけど、手首回りの筋肉に独特のクセが出る。お前は投げられへん。少なくとも練習はしてへん」

「なんなんだ……お前……」

「さて、問題は、なんで、そのレベルの投手が、こんな高校におるか……弱い高校で強い高校に勝ちたい願望……は、ここまでの言動から鑑みるに、勝ち負け以前の問題に奔走するタイプやないから、人数問題があるウチでは考えられん。それに、この肩肘の状態からヒシヒシ伝わる過保護感……なるほど……ケガに敏感な親の命令で小中を捨てる奴はたまにおるけど、お前の場合は、自分で高校まで捨てたってことか」

「!」

「六大学からのプロ狙い……違うな。この尋常じゃない過保護っぷり、すべてをプロに捧げる覚悟がうかがえる。となると、高卒プロ入り狙い……どうやって? ……親……は違うか。知人……知人の知り合い……その辺にスカウトがおるな。左の一年で130投げられれば、二年後のMAXは150もありうる。左の速球派が足りんチーム……今やと……タイガース……カープ……スワローズ……スワローズか。お前、表情に出すぎ」

「……」

「後半部分は推理やない。ただの心理学や。メンタリズムともいうけどな」

「で、だからなんだ。というか、いい加減、本当に離せ。殴るぞ」

「合格や。ワシと勝負せぇ」

「……は?」

「まったく否定せぇへんところを見ると、お前、マジで高校捨てとんのやろ。というか、まあ、この高校に入っとる時点で確定やけど」

「ああ、そうだ。俺は高校野球なんかで肩肘を消費するつもりはない。俺はプロで二十年投げると決めている。最初にハッキリ言っておく。それを邪魔するヤツは許さない」
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