異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

もち

文字の大きさ
上 下
6 / 65

閉じこもるな、田中。青春はまぶしいぞ! (……死ねばいいのに)

しおりを挟む
「殻に閉じこもるな、田中」

「……は?」

 二十九歳の男性教師『高橋』に急遽呼び出され、
 開口一番、わけのわからんことを言われて、田中東志は非常に困惑する。

「おまえのつらさはよくわかる。孤独は人間の天敵だ。決して、お前が悪いわけじゃない。だが、お前にまったく非がないわけでもない」

(……マジで訳わからへん。このオッサン、なにいうてんねん)

「心を開け。教師も親も、そして本当はクラスの連中も、お前の味方なんだ。本当は、この世に敵なんていないんだ」

(敵なんておらん……ええ言葉やけど、あんた、さっき、孤独は天敵とかいうてなかったっけ?)

「入学式からこっち、お前がだれとも会話していないのはわかっている」

(ほんま、この教師、何がしたいんや? ……あ、待てよ……そう言えば、去年、この学校から、落ちこぼれたあげくシカトイジメくらって行方不明になったアホが出たんやったな。そんで、確か、そいつ、ウチの親戚とか何とか言うとったんよなぁ……田中性の親戚なんか死ぬほどおるから、同じ高校とはいえ、そんな会ったこともない親戚なんかには、逆に多少の親近感すらないけど……)

 そんなに近くもない親戚が、かつて同じ学校に通っていて、失踪事件を起こした。
 知ったことか、そんな事。
 興味もない。

(その繋がりから、同じことするんちゃうかという警戒……それに、ちょっと前、文部省が、『イジメを認識し未然に防いだ方が、教師の評価を高くする』とか発表しとったし………………うぉぉ、ダルぅ。点数稼ぎの教師ごっこに付き合わされるんはたまらんな)

「もし、他のすべてが敵にまわったとしても、僕だけは、絶対に君の味方として――」

「わかりました。心を開くよう、前向きに善処していく方向で検討する可能性に賭けてみるかどうか悩んでみます。ほな」

「待て待て!」

「……なんすか。もう十分、満足な答えは引き出せたでしょ」

「おまえなぁ……」

 高橋は、困ったように頭をかきながら、

「どうだ、田中。部活とかやってみないか? 友達をつくるにはやっぱり部活だろう。友達はいいぞ。つらいことも悲しいことも半分になるんだぞ」

(どんだけ、うすっぺらいねん。逆に尊敬できるクソっぷり……だいたい、他人との友好的な関係の維持にかかる金銭・時間の負担、肉体的・精神的疲労の度合いを考えれば、『マイナス感情50%カット』程度の効果は、まったく割に合ってへんやろ)

「本が好きみたいだから、文芸部とか――」

「素晴らしいアドバイス、ありがとうございます。感動しました。というわけで、野球部に入ります。ほな」

「待て待て!」

「なんすか」

「ウチの部に入るって、本気か?」

(ウチ? ……ああ、そうやったな。初日の自己紹介で言うとった)

『はじめまして。担任の高橋幸一です。数学と野球部の担当です。みんな、よろしく』

(……あの頃は、野球部入る気ゼロやったから、記憶から消えとった……)

「ウチに入るのは……あまりお勧めしないぞ。ジム感覚ならともかく、人間形成の場としては意味がない」

「どういうことすか」

「今年の新入部員は二人。二年は一人、三年は二人。合わせて五人。練習も、月・金だけ。基本的に、全員やる気ないから、まともな活動にはならない。そういう部活では友達はできないものだ。事実、二・三年は、顔を合わせてもあいさつ一つしない」

(すごいな。なんでつぶれへんねん)

「その点、文芸部はいいぞぉ。部員二十六人もいるからな。活動もマジメだし、活動内容もかなり高度だ。ウチの高校は、運動部は大概酷いけど、文化部はほとんどが全国レベル。二年前には、ウチの文芸部卒から芥川賞が一人――」

「先生、野球どんくらい知ってんすか?」

「は? え……いや、私は何にも知らんよ。ウチは、伝統的に、一番若い男性教諭が野球部の担当を押しつけられるってだけだから」

「……なるほど。よくわかりました。安心してください。今後は、公式戦の日に、ベンチへ寝にくるだけで結構です。てか、他、何にもせんといてください」

「……田中、お前本気で野球部に入るつもりか? 意味ないぞ。今年もたぶん、公式戦には出場できないし」

「あと二人なんで、ちょっと頑張れば余裕で出場はできます」

「二人?」

「ワシ以外に、あと一人入るの確定しとるんで」

「じゃあ、残りは三人だな」



「は?」



「野球部とサッカー部の三年は今月中に引退するのが伝統なんだよ。強制ではないけど、三年の工藤はすでにやめたような状態。武藤の方は、人数がそろったら大会に出てやらないでもないってスタンスだから、数が集まれば参加するとは思うが――」





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...