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閉じこもるな、田中。青春はまぶしいぞ! (……死ねばいいのに)
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「殻に閉じこもるな、田中」
「……は?」
二十九歳の男性教師『高橋』に急遽呼び出され、
開口一番、わけのわからんことを言われて、田中東志は非常に困惑する。
「おまえのつらさはよくわかる。孤独は人間の天敵だ。決して、お前が悪いわけじゃない。だが、お前にまったく非がないわけでもない」
(……マジで訳わからへん。このオッサン、なにいうてんねん)
「心を開け。教師も親も、そして本当はクラスの連中も、お前の味方なんだ。本当は、この世に敵なんていないんだ」
(敵なんておらん……ええ言葉やけど、あんた、さっき、孤独は天敵とかいうてなかったっけ?)
「入学式からこっち、お前がだれとも会話していないのはわかっている」
(ほんま、この教師、何がしたいんや? ……あ、待てよ……そう言えば、去年、この学校から、落ちこぼれたあげくシカトイジメくらって行方不明になったアホが出たんやったな。そんで、確か、そいつ、ウチの親戚とか何とか言うとったんよなぁ……田中性の親戚なんか死ぬほどおるから、同じ高校とはいえ、そんな会ったこともない親戚なんかには、逆に多少の親近感すらないけど……)
そんなに近くもない親戚が、かつて同じ学校に通っていて、失踪事件を起こした。
知ったことか、そんな事。
興味もない。
(その繋がりから、同じことするんちゃうかという警戒……それに、ちょっと前、文部省が、『イジメを認識し未然に防いだ方が、教師の評価を高くする』とか発表しとったし………………うぉぉ、ダルぅ。点数稼ぎの教師ごっこに付き合わされるんはたまらんな)
「もし、他のすべてが敵にまわったとしても、僕だけは、絶対に君の味方として――」
「わかりました。心を開くよう、前向きに善処していく方向で検討する可能性に賭けてみるかどうか悩んでみます。ほな」
「待て待て!」
「……なんすか。もう十分、満足な答えは引き出せたでしょ」
「おまえなぁ……」
高橋は、困ったように頭をかきながら、
「どうだ、田中。部活とかやってみないか? 友達をつくるにはやっぱり部活だろう。友達はいいぞ。つらいことも悲しいことも半分になるんだぞ」
(どんだけ、うすっぺらいねん。逆に尊敬できるクソっぷり……だいたい、他人との友好的な関係の維持にかかる金銭・時間の負担、肉体的・精神的疲労の度合いを考えれば、『マイナス感情50%カット』程度の効果は、まったく割に合ってへんやろ)
「本が好きみたいだから、文芸部とか――」
「素晴らしいアドバイス、ありがとうございます。感動しました。というわけで、野球部に入ります。ほな」
「待て待て!」
「なんすか」
「ウチの部に入るって、本気か?」
(ウチ? ……ああ、そうやったな。初日の自己紹介で言うとった)
『はじめまして。担任の高橋幸一です。数学と野球部の担当です。みんな、よろしく』
(……あの頃は、野球部入る気ゼロやったから、記憶から消えとった……)
「ウチに入るのは……あまりお勧めしないぞ。ジム感覚ならともかく、人間形成の場としては意味がない」
「どういうことすか」
「今年の新入部員は二人。二年は一人、三年は二人。合わせて五人。練習も、月・金だけ。基本的に、全員やる気ないから、まともな活動にはならない。そういう部活では友達はできないものだ。事実、二・三年は、顔を合わせてもあいさつ一つしない」
(すごいな。なんでつぶれへんねん)
「その点、文芸部はいいぞぉ。部員二十六人もいるからな。活動もマジメだし、活動内容もかなり高度だ。ウチの高校は、運動部は大概酷いけど、文化部はほとんどが全国レベル。二年前には、ウチの文芸部卒から芥川賞が一人――」
「先生、野球どんくらい知ってんすか?」
「は? え……いや、私は何にも知らんよ。ウチは、伝統的に、一番若い男性教諭が野球部の担当を押しつけられるってだけだから」
「……なるほど。よくわかりました。安心してください。今後は、公式戦の日に、ベンチへ寝にくるだけで結構です。てか、他、何にもせんといてください」
「……田中、お前本気で野球部に入るつもりか? 意味ないぞ。今年もたぶん、公式戦には出場できないし」
「あと二人なんで、ちょっと頑張れば余裕で出場はできます」
「二人?」
「ワシ以外に、あと一人入るの確定しとるんで」
「じゃあ、残りは三人だな」
「は?」
「野球部とサッカー部の三年は今月中に引退するのが伝統なんだよ。強制ではないけど、三年の工藤はすでにやめたような状態。武藤の方は、人数がそろったら大会に出てやらないでもないってスタンスだから、数が集まれば参加するとは思うが――」
「……は?」
二十九歳の男性教師『高橋』に急遽呼び出され、
開口一番、わけのわからんことを言われて、田中東志は非常に困惑する。
「おまえのつらさはよくわかる。孤独は人間の天敵だ。決して、お前が悪いわけじゃない。だが、お前にまったく非がないわけでもない」
(……マジで訳わからへん。このオッサン、なにいうてんねん)
「心を開け。教師も親も、そして本当はクラスの連中も、お前の味方なんだ。本当は、この世に敵なんていないんだ」
(敵なんておらん……ええ言葉やけど、あんた、さっき、孤独は天敵とかいうてなかったっけ?)
「入学式からこっち、お前がだれとも会話していないのはわかっている」
(ほんま、この教師、何がしたいんや? ……あ、待てよ……そう言えば、去年、この学校から、落ちこぼれたあげくシカトイジメくらって行方不明になったアホが出たんやったな。そんで、確か、そいつ、ウチの親戚とか何とか言うとったんよなぁ……田中性の親戚なんか死ぬほどおるから、同じ高校とはいえ、そんな会ったこともない親戚なんかには、逆に多少の親近感すらないけど……)
そんなに近くもない親戚が、かつて同じ学校に通っていて、失踪事件を起こした。
知ったことか、そんな事。
興味もない。
(その繋がりから、同じことするんちゃうかという警戒……それに、ちょっと前、文部省が、『イジメを認識し未然に防いだ方が、教師の評価を高くする』とか発表しとったし………………うぉぉ、ダルぅ。点数稼ぎの教師ごっこに付き合わされるんはたまらんな)
「もし、他のすべてが敵にまわったとしても、僕だけは、絶対に君の味方として――」
「わかりました。心を開くよう、前向きに善処していく方向で検討する可能性に賭けてみるかどうか悩んでみます。ほな」
「待て待て!」
「……なんすか。もう十分、満足な答えは引き出せたでしょ」
「おまえなぁ……」
高橋は、困ったように頭をかきながら、
「どうだ、田中。部活とかやってみないか? 友達をつくるにはやっぱり部活だろう。友達はいいぞ。つらいことも悲しいことも半分になるんだぞ」
(どんだけ、うすっぺらいねん。逆に尊敬できるクソっぷり……だいたい、他人との友好的な関係の維持にかかる金銭・時間の負担、肉体的・精神的疲労の度合いを考えれば、『マイナス感情50%カット』程度の効果は、まったく割に合ってへんやろ)
「本が好きみたいだから、文芸部とか――」
「素晴らしいアドバイス、ありがとうございます。感動しました。というわけで、野球部に入ります。ほな」
「待て待て!」
「なんすか」
「ウチの部に入るって、本気か?」
(ウチ? ……ああ、そうやったな。初日の自己紹介で言うとった)
『はじめまして。担任の高橋幸一です。数学と野球部の担当です。みんな、よろしく』
(……あの頃は、野球部入る気ゼロやったから、記憶から消えとった……)
「ウチに入るのは……あまりお勧めしないぞ。ジム感覚ならともかく、人間形成の場としては意味がない」
「どういうことすか」
「今年の新入部員は二人。二年は一人、三年は二人。合わせて五人。練習も、月・金だけ。基本的に、全員やる気ないから、まともな活動にはならない。そういう部活では友達はできないものだ。事実、二・三年は、顔を合わせてもあいさつ一つしない」
(すごいな。なんでつぶれへんねん)
「その点、文芸部はいいぞぉ。部員二十六人もいるからな。活動もマジメだし、活動内容もかなり高度だ。ウチの高校は、運動部は大概酷いけど、文化部はほとんどが全国レベル。二年前には、ウチの文芸部卒から芥川賞が一人――」
「先生、野球どんくらい知ってんすか?」
「は? え……いや、私は何にも知らんよ。ウチは、伝統的に、一番若い男性教諭が野球部の担当を押しつけられるってだけだから」
「……なるほど。よくわかりました。安心してください。今後は、公式戦の日に、ベンチへ寝にくるだけで結構です。てか、他、何にもせんといてください」
「……田中、お前本気で野球部に入るつもりか? 意味ないぞ。今年もたぶん、公式戦には出場できないし」
「あと二人なんで、ちょっと頑張れば余裕で出場はできます」
「二人?」
「ワシ以外に、あと一人入るの確定しとるんで」
「じゃあ、残りは三人だな」
「は?」
「野球部とサッカー部の三年は今月中に引退するのが伝統なんだよ。強制ではないけど、三年の工藤はすでにやめたような状態。武藤の方は、人数がそろったら大会に出てやらないでもないってスタンスだから、数が集まれば参加するとは思うが――」
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