4 / 65
これは彼にしかできない不可能
しおりを挟む千増県立赤松学園高等学校は、近畿地方の東部では最上位に位置する超進学校で、
地元では、そこの卒業生というだけで、高卒でも、どこの企業であろうと楽勝で就職できるほど、
全国に名が轟いている超名門。
だが、野球に関しては、ハナクソ以下で通っている弱小高校である。
千増県は、皆さんご存じ、ほぼ毎回甲子園優勝校を排出する高校野球のために存在するような県。
上位三校(西教高校・字石高校・三国高校)はどこが出場してもほぼ優勝確実、
地方大会の決勝戦が事実上の決勝戦などと謳われ、
事実、この百年間で、春夏合わせ、七十九回の優勝経験を誇っている。
「まあ、でも、強いんは、上位三校だけや。ほかは目クソ鼻くそ。才能あるヤツが、その三校に全部持っていかれるから当たり前の話やけど」
「つまり、その三校を相手にどういう試合をするか、という問題になるわけですね」
「そんな簡単な話やないんが、赤高の実情や。例の三つの高校以外は目クソ鼻クソいうたが、ウチの高校だけは別。今年で創立五十六年目を迎える歴史ある高校やけど、初戦突破回数は二回だけ。大会出場率は二十三パーセント。……改めてデータ見直すとすごいな。こんな高校、他にないで」
「勉強ではぶっちぎりなんですけどねぇ」
「東大・京大に年何人ブチ込めるかぁしか考えてへん高校やからな。そんな高校が五連覇せなあかんねん。無茶ぶりにもほどがあるやろ。甲子園最多優勝の記録を持つ西教でも五連覇はやってへんねんで」
「ぴよぴよ(ただ、今の西教は五連覇どころか、六連覇を達成するかもしれないといわれているわ。それも大きな問題)」
「どういうことですか?」
「なんで知らへんねん。夏と春、アホみたいにニュースになってたやろ。西教の、桑宮と清崎。去年、一年生でエースと四番になって、夏と春に優勝。そいつらが入る前の春にも優勝しとるから、現在、三連覇中。五連覇どころか六連覇も夢やない……ツカム、おまえ、ほんまに聞いたことないんか? ほんの一か月前の話やで。テレビでも新聞でも、バンバン、六連覇、六連覇いうてたやないか」
「野球には、本当に、一切興味がなかったので」
「甲子園すらマジで知らんかったくらいやからな。おまえ、生まれてから最近まで地下室にでも閉じ込められてたんか?」
「まあ、そうですね」
「はぁ?」
「似たような環境ではありました。親の方針で、中学までの僕は、家だと勉強以外、したことがありませんでしたし、友達も、一流しか選んではいけませんでした。まあ、おかげで豊かな人生ではありましたけれど」
「一流の友達ってなんやねん」
「俗に勉強系一軍と呼ばれる人種ですね」
「ああ……てか、ニュース見るんも禁止やったとは、またごっつい話やなぁ、おい。時事ネタは無視するスタイルか。まあ、高校受験一本に絞っとるんなら、有りな選択肢の一つではあるけれども」
「アカコーに入れたあとは好きに生きていいと言われているので、これからは何もかもがフリーダムです。といっても、さほど変わりはありませんけどね。一流の友人とともに、一流の人生を生きていくのです」
「スキにせぇ。話を戻すで。とにかく、つまりは、出場率が三割切っとるワシらの高校が、そんな、ノリに乗っ取る高校も含めた全国の野球名門高校を全部倒して、歴史的快挙の五連覇達成せなあかんいうわけや。頭おかしいやろ」
「お二人の話を聞いていて、だんだん、本当に状況が呑み込めてきました。……ヤバいですね、僕ら消されちゃいますよ」
「ぴよぴよ(トウシくん、本当にできるの? 一般常識レベルでしか野球を知らない私には不可能としか思えないのだけれど)」
「やり方はいろいろある。ワシなら不可能やない」
「ぴよぴよ(悪魔に拉致られてからの三日間、小さな部屋に押し込まれて寝食を共にし、いろいろと話をしたから、あなたの野球に関する知識が尋常でない事は、それなりに把握できているわ。そして、あなたは頭がいい。私は、今までの人生で自分より賢い人間を見たことがなかったけれど、あなたは間違いなく私より上。あなたの頭の中で、どんな計算が行われているか、私には見当もつかない。おそらく、凄まじい速さで、精密な計算結果がはじき出されているのだろうとは思う……けれど、しかし……)」
「不可能は不可能、か? はん。常識の枠の中にワシを押し込めんなや。ワシは、悪魔に選ばれ、神と戦ったほどの男やぞ」
「それは僕らもそうですよ。それに、僕らが選ばれたのは偶然でしかないそうですし、神との試合はフルボッコにされただけですが」
「士気下げんなや。ワシかて、ほんまは、結構ビビってんねん。達成できるかどうか不安でしゃーない。けど、脅迫してきた相手は悪魔と神やで。逃げられへん。やらなしゃーない」
「ぴよぴよ(結構ビビっているのね……)」
「当たり前やろ、アホか。このふざけた状況で威風堂々としとったら、ワシ、何者やねんいう話やろ。けどなぁ、実際、達成できる算段はついてんねん。かなり厳しいけどなぁ」
「どうするんですか?」
「全部の説明はできへん。こまかい話の積み重ねになるからな」
「ぴよぴよ(不可能ではないのね?)」
「ああ。百パーやないけど、0パーでもない。ワシに任せとけ。これは、他の奴にはできんけど、ワシにならできる不可能や」
「ぴよぴよ(わかったわ。あなたについていく。どんな命令にも黙って従うと誓うわ)」
「……仕方ないですね。他人に従える性格ではないのですが、この案件は、僕にはどうしようもないですから、今回に関してはトウシくんに全権をゆだねます。指示をください」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/
ダラダラ異世界学校に行く
ゆぃ♫
ファンタジー
「ダラダラ異世界転生」を前編とした
平和な主婦が異世界生活から学校に行き始める中編です。
ダラダラ楽しく生活をする話です。
続きものですが、途中からでも大丈夫です。
「学校へ行く」完結まで書いてますので誤字脱字修正しながら週1投稿予定です。
拙い文章ですが前編から読んでいただけると嬉しいです。エールもあると嬉しいですよろしくお願いします。
~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~
クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・
それに 町ごとってあり?
みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。
夢の中 白猫?の人物も出てきます。
。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる