異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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「たかが高校の大会で全勝するくらい――」

「ぴよぴよ(その認識がズレているの。いい? 高校スポーツのなかで、甲子園は特別なの。レベルの次元が他とはまるで違う)」

「なんせ、アンダー十八で野球やっとる連中の中で、レベルの高さが世界一やからな。それもぶっちぎりで」

「ぶっちぎりの世界一ときましたか。へー、へー」

「ぴよぴよ(注目度も高校スポーツの中ではダントツ。なによりも、それが厄介。公式戦でデビルの力など使おうものなら、地方大会の初戦であろうと、一発で世界中に大混乱が起きるでしょうね)」

「特に、今は、誰もが持っとるスマホで優秀な動画が取れる時代やからな。注目度の低い初戦でも、デビルの力を一回でも使ってもうたら、そくおしまいや」

「なるほど。大変だというのは理解しました。しかし、だからどうだというんですか? 僕らはオリンピック記録が目じゃないスーパーな力を持っているのしょう? 170が限界だというのなら、170を投げればいいだけの話では? デビルの力を使わなくとも、最高値を連発すれば、さすがに勝てるのでは?」

「いや、それはそれで秩序が乱れんねん。170どころか、160でも……150もおかしいな。ワシらまだ一年やから」

「?」

「説明、ムズいな。ええと……というか、そもそもの話として、ワシらの高校と、他の高校のレベルの話もせな、理解できんか」

「どういう意味でしょう?」

「ぴよぴよ(高校野球は、金をかけて選手集めた高校が強いの。野球の才能があるエリートを全国からかき集めて、そんな連中の中からさらにふるいにかけて――)」

「高校でそんなことをしていいのですか?」

「ぴよぴよ(いいも悪いも、それが普通。金かけて人を集めたところが強くて、それをやってないところは弱い。選手集めた高校とそうでない高校が戦えば、九割九分、前者が勝つ。それが高校野球)」

「……なるほど。つまり、ウチの高校は人を集めていないと。まあ、ウチは、最上位級の超進学校ですから、野球選手など集めているわけが――」

「そんなレベルやない。ウチは、野球に関しては、稀少フリーパス券と呼ばれとるほどのカス高校や」

「……どういう意味ですか?」

「大概人数がそろわんで、二・三年に一回くらいしか大会に出場できん上、なんとか人を集めて出場しても、ほぼ百パーセントの確率で一回戦負け」

「ああ、なるほど。だから、稀少なフリーパス券」

「ぴよぴよ(そんな高校が、全国から天才を集めて朝から晩まで練習している高校相手に全勝……おかしいでしょう?)」

「た、たしかに、不自然ですね。不自然というか、ありえない。……しかし、では、どうするのですか? 全勝しないと、僕ら、消されてしまうんですよ」

「せやから、大変やぁ、言うてんねん」

「ぴよぴよ(相手は悪魔。無理難題で私たちをいたぶっているだけなのかもしれないわね。デビルの実力を発揮して勝てば秩序を乱したとして神に睨まれ、負ければ、魔人のくせに何をやっているんだと悪魔に睨まれる。八方塞がりだわ)」

「なんとか、僕らがギリギリ勝ってるようにみせるとか、できないものなのですか?」

「ぴよぴよ(非常に難しい。ウチの高校は、とにかくクソすぎるもの。初戦の勝利すら不自然という状況で、甲子園五連覇なんて――)」

「でも、トウシくん。君なら、なんとかできるんじゃないですか?」

「あ?」



「だって、君は天才じゃないですか」



「……」

「天才ねぇ……」

 田中東志は、

「ギリギリ勝っているように魅せる……か。できるか? 可能か? ありえるか? 道は残っとるか?」


 高速で頭を回転させる。
 不可能を可能にするための算段。


「ウチの高校で、高校野球界の秩序を乱さずに、三年間公式戦全勝。そんなもん、普通のヤツには絶対できへん。けど、ワシなら……」



 深く、深く、思考の底へと沈んでいく。



「……考えろ……この状況で……三年間……全勝……秩序……魅せ方……秩序を乱さずに五連覇……」

 その長考は、






「……あった」



 実る。



「可能性。ゼロやない。ワシならできる。というか、ワシにしかできん。みとけよ、あほんだら。高校球界の秩序を乱さず甲子園五連覇……やったろやないけ」


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