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97.勝手に動かないで! 運命

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 むし暑い。
 不快だ。
 雨のあとは熱帯夜になってしまった。

 でも、希望はあるよ。
 買い物袋のなかには夕ご飯が入ってる。
 買い物袋はサバイバルキットに入れてるの。
 はーちゃんは留守番になってもらって。
 ボランティアの炊きだしでもらってきたんだ。
 私のは箱づめになったハンバーガーやカラアゲ、サラダのセット。
 監視が長引きそうだから、夜食に笹寿司をもらってきた。
 おにぎりサイズが、6つで1パック。
 爽やかな気持ちにさせてくれる香りの笹をめくると。
 まず桜エビ、黒胡麻、ふのりが顔をのぞかせる。
 裏には鱒としょうが。
 これだけでも十分そうだけど、安菜は追加でテンプラ丼を持ってる。
 おいしそうな薫りが鼻をくすぐる。
「知らなかった。
 あんたたちって、こんなおいしそうなのもらえるんだね」
 皆さんの、好意だよ。
 空の満月がきれいなのも、救いだよ。


 華やかな百万山比咩神社と、そこからつづくメインストリート。
 九尾 クオさんに直されて良かった。
 いまは、戻ってきた人たちがボランティアをしてくれてる。
 今は道路1つ通ったすぐ近くで炊きだししてくれてる。
 ありがたいよ。
 そしてその通りは、疲れきったハンターキラーが、休んだり補給したりしてる。

 気は晴れない。
 ふたりは、あまり楽しくないおそろい。
 灰色の、ぶ厚く重いパイロットスーツ。
 同じ色のキャップをかぶって。
 イラついてブーツ越しに水たまりをけとばした。

 そうなんだ。
 自分で言うのもなんだけど、私は単純なんだ。
 どんなに激しいバトルのあとでも、ごはんを見てるあいだに元気になってくる。
 それが今日は、気が重いままだよ。 
 大体、安菜のせいで。
 
 はーちゃんから安菜を引き離すと爆発する。みたいなワナはなかった。
 ゲコンツ星で取り調べてくれたから。
 そもそも、こん棒エンジェルスは外部に協力を求めたりしなかったらしい。
 軍や警察にファンが多いと言ってたのに。

 だけど、まだ安菜を帰すことはできない。
 この辺りは、石川県で最大の都市圏に通じる。
 広大な森にも接してる。
 こん棒エンジェルスが隠れる場所は、いくらでもありそう。
 今も遠くで、重いモータ音やロボットの足音が聞こえる。
 ヘリコプターの飛行音も。
 捜索が続いてるんだ。
 その間はすべての装備を使わなくちゃいけない。
 つまり、帰りの手段が、ない。
 それでも、なるべく早く、優しく帰さなきゃ。

 川の近くまで戻ってきた。
 空には九尾 九尾さんの霧のスクリーン。
 異能の力で拡大された、今日の戦闘を映したスマホ画面。
「そう言えば、九尾 クオさんの放送。
 音、なくなっちゃったね」 
 安菜の当然の質問。 
 その答えは知らないけど。
「ああ、音も流すと戦いが再開したと勘違いしてしまう人がいるかも」
「なるぼど」
 
 ボルタへの車列は、まだ動いてないよ。
 まだ、ゲコンツ星での確保がすんでないのかな。
「遅いっての! 」
 安菜がキレた。

 車列は、黒い魔法炎の塊、エニシング・キュア・キャプチャーを運ぶ。
 あれ。中が見えるキャプチャーがある。 
 破滅の鎧も脱がされ、黒いスーツだけになった女性が浮かんでいた。
 全身は、手足をだらんと下ろした姿で固定されてる。
 でも顔だけは自由みたい。
 怨みを込めた表情のまま、私たちをにらみつづけてる。
 キャプチャーの色が薄いのは、使いすぎたのかな?
 そして運んでるのは、軽トラック。
 緑色と茶色のツヤのない迷彩柄の。
 ロープで縛られた、その姿。
 粗大ゴミと変わらないね。
 と思ったら、安菜はドカドカと近づいていった。
 そして、「イー!! 」
 噛みしめた歯を見せつけた。
 やれやれ。
 早く道わたろう。
 
 ウイークエンダーはポルタから離されて止めている。
 河川敷で、食事をする順番に後ろに下がって。
 堤防を上ろう。
 その時、スマホがなった。
 相手は、九尾 朱墨?

『もしもし。いま大丈夫ですか? 』
 大丈夫だよ。
 何かあったの?
『うちの宇潮 心晴さん、アナライズ担当に、あなたから要求が来たんです』
 ああ、キャバレーハテノのときだ。
 デモの様子を笑いながらタブレットで撮ってた女性だね。
 ということは、これはハンターキラー同士の情報安全のための規約どおりだ。

 でも。
「え?
 どんな要望? 」
『ゲコンツ星から、閻魔 文華が逃げた可能性のある行き先を、可能な限り調べてほしいって』
 そう話すあいだに、朱墨ちゃんが青ざめてくのがわかる。
「そんな要望、してないよ!
 そっちは、何かしたの? 」
『いいえ。
 宇潮さんが言うには、ゲコンツ星と言うのがどこにあるのか分からないから、予想はできないそうです』
 そう。
 それなら良かった・・・・・・と思いかけてやめた。
『だけど、計算そのものは、簡単だそうです。
 そしてその事は、ニセうさぎ? さんに聴かれてると思います』
 ・・・・・・マズイ気がしてきた。

「ねえ。うさぎ」
 安菜がふりむいた。
 私の不安が伝わったのかな。
「ウイークエンダーが何か狙ってる! 」
 ちがった。
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