ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

リューガ

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95.九尾さんと天力さんの大舞台

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 私は九尾さんの要望を通した。
 その後は、良かった。
 あまり待たせずにすんだよ。

 ゲコンツ星の部隊が堤防を上がっていく。
 リッチーさんも一緒に。
(それは、気になるよね)
 そのコウモリ傘が、おびえてる様子はない。

 堤防の上なら、崩れ果てた百万山市がしっかり見える。
 夜に包まれてるけど、満月は明るい。
 雨の後だから、空気もすんでる。
 MCOで作られた、銀色のボルケーナ女神像も。
(しっかり、覚えておいてよね)
 並ぶ黒い背中にお願いする。
 燃やされた所は、まだ赤くくすぶって見えた。

「ネットワークから。
 今、戦闘の終了を報告」
 安菜が報告してくれた。
「それ以外の動きはないみたい。
 これで一人残らずか・・・・・・」
 
 その時、堤防に向かって2つのカーキ色のポンチョを着た影がぴゅーっとおりてきた。
 パーフェクト朱墨のイヤリングだった(?)陰司宮A小隊の2人だった。
 さあ。
 あの堤防が、2人の大舞台なんだ。

『はじめまして。
 私は九尾 九尾。
 こっちは天力 狼万』

 ビデオ撮影は、してる。

 九尾さんの声は、拡声器を使ったみたいに大きかった。
 どんな異能力を使ったんだろう。
 その声を聴いたとたん、隊列が動揺して、ゆれた。
 おもしろいように後ずさった人もいる。
『あなたたちが、異能力者をどれほど恨んでいるかは、わかります』
 九尾さんも天力さんも、隊列をとがめることはしなかった。
『それは私たちも同じです。
 私たちの世界に攻め込まれたのだから』
 その言葉が震えてる。
 怒りがにじんでる。
『ですが、そのまま帰っていただくのでは、
さらに不安です。
 私たち異能力者は、あなた方を助けることもできる。
 そのことを、示したいと思います』
 九尾さんの説明の間、天力さんはスマホを操作していた。
 そのスマホを、九尾さんに見せる。
 何をする気なんだろう。
『あれをご覧ください』
 九尾さんが指差した。
 MCO女神像を。
『あの像には、私のあつかえる異能力のもとになる力をたくわえてます』
 その女神像から白いものがふきだした。 
『ここ、百万山に力を満たすもの。
 水の力、雨の力です』
 白いものは霧なんだ!
 霧は、街をおおっていく。
 そのなかで、火事が消えていく。
 それどころか、くずれたガレキの中からなにかが立ち上がった。
 いいえ、なにかじゃない。
 ガレキのもとになった、家や道路、その物だよ!
 直る範囲は、ドンドン広がっていく。
 山を越えて、街の向こうまで。

『このように壊れた街を直すこともできます。
 ですが、どんなダメージでも直せるわけではありません。
 こん棒エンジェルスが攻撃に使ったのは、魔法炎。
 私たちの世界には本来ありえない力です。
 その魔法炎で、私たちの世界に破壊を上書きしたのです。
 私がやったのは、その上書きされた破壊をはぎ取るだけのこと。
 ですから』
 そう言って、なんか、私の方を指差した。
『私たちの世界で作られたものによる破壊は、直せないのです』
 九尾さんが指さした場所。
『あっ、あの、うさぎちゃんたちのことを責めてるんじゃないのよ』
 申し訳なさそうに言われた。
 指さされた先は、私が黒い大型巨人と戦った、川辺やそばの街だった。 
「いえ、あの街をつぶしたのは私たちです。  
 事実ですから」
 安菜も申しでる。
「申し訳ありません。
 その時、管制をしていたのは私、安菜 デ トラムクール トロワグロです」
 はーちゃんも。
「その際のオペレーション・システムの破滅の鎧です。
 責任なら自分にもあります」

『仲がいいのね』
 ほめられた、と素直に思えた。

 九尾さんは、ふたたびゲコンツ星の部隊に向き合った。
『もうひとつ、力を見せましょう』
 そう言うと、天力さんのスマホに手をかざした。
 同時に、あの人たちの頭上に霧がやってきた。
 霧は四角く、濃く固まっていく。
 その表面で、模様が動き始めた。
 カラーだった。
 そうか。
 スマホの画面の拡大なんだ。
 そこには、私が知らない戦いが写しだされていた。
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