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93.全ては良き選択のため

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 倒されたこん棒エンジェルスのパイロット。
 それを見て、ゲコンツ星の部隊が動きだした。
 手にした銃、1メートルはある小銃で、黒いパイロットを取り囲む。
 そして、その銃の肩当て部分をこん棒のように振り上げてた。
 四方から殴りかかる!
 人だかりの下で、水溜まりがはげしく飛び散った。

 パイロットが引きずられていく。
 だけど、リッチーさんが呼び止めたみたい。
 あらためて傘をさして、パイロットをいれた。
 彼に、なにか話しかけてる。  
 次に自分たちを囲むゲコツン星の部隊に目をうつした。

 そうだ! 集音マイク!
 向けないと!

『それでは、そちらへの引き取りは、滞っているのですね』
 リッチーさんの声だ。
『は、はい! わが星では目下、こん棒エンジェルスの拘束が進められております』
 ゲコンツ星の指揮官らしい声。
 おびえてる。
 会議の時のリッチーさんと同じくらい。
 指揮官さんの後ろでは、彼の部下たちが大急ぎでパイロットに駆け寄る。
 取り囲んで、力づくで拘束してる。
『しかしながら逮捕者が、あまりにも多く
 また、不手際も多く』
 そこまでで、言葉をつまらせた。
『全ては、閻魔 文華の悪意を見抜けず、犯人輸送の御期待にもそえない、我々の不徳のいたすところ!
 どうかご容赦ください!
 陛下! 』
 貴族だというのはわかるんだ。
 異世界では、その異能力からリッチーさんは、そうあつかわれてる事を。
 指揮官さんは、はげしく頭を下げた。

『閣下、で良いと思うよ』
 優しい声でリッチーさんが、いたわった。
『ここへは仕事できている、エンジニアの一人だから』
 その声からは以前の混乱ぶりはない。
『ハッ! 失礼しました!
 閣下』
 指揮官は、さらに深く頭を下げた。

 あっ。

『手負いの獣は危ない、というのを知らないほどウカツではないですよね』

 ボルケーナ先輩が近づく!
 不機嫌に。
 左右にしっぽをバッサバッサふりまわして。
 でも、それは失礼だと思ったのか、押さえつける。

『私から獲物をうばった理由を聴かせてくれますね』

 文字どうり、両手で、ムニュムニュと抱え込む!
 それを見てもリッチーさんは、おびえも笑いもしないよ。

『はい。
 すべては、わが団長アーリン アルジャノン オズバーンのなさったことと同じこと』

 本当に、落ち着いた声。

『我々の持ってきた七星を、地球人の力であると認めていただくためです』

 あれ?
 それっておかしくない?

『それはおかしい。
 七星はもう買い取ってるよ』

 そう。先輩の言う通り。
 さっきまで格闘していたしっぽは、ボール状に丸められて、おかに抱えられてるよ。
 ビクビクふるえてる。

『それはそうです。
 しかし、そうではない現実を見てしまったのです』

 リッチーさんはハッキリと言いはなった。

『ご存じの通り、私は七星部隊に対して最初の戦力化訓練をほどこしていました。
 それは、大成功であったと言えます。
 すでにある地球の兵器も、シミュレーションによる怪獣も、問題なく倒すことができました。
 しかし、見てしまったのです。
 それは七星のパイロットと、相手部隊のパイロットの談笑でした。』

 少しだけ、記憶をたどるための間があった。
 ゲコンツ星への列は、まだ動いていない。

『F-3、でしたか。
 日本とイギリス、イタリアが共同開発するという次期主力戦闘機。
 彼らはその事で盛り上がっていました。
 次期主力戦闘機と言っても、異能力を使わない機械です。
 性能は七星に遠く及びません。
 にもかかわらず、そこにいるパイロットたちは、F-3に期待していたのです。
 そのとき、悟ったのです』

 また、間をおいて。

『彼らにとって力とは、異能力がなくても使えなくては意味がない。
 それはそうです。
 この世界では、無能力者が世界中に広まって、様々なことをして、それらが繋がることで力を発揮してきた。
 我々は、力を持つ者のそばに固まることで強くなった。
 だから守りきれる。
 ですがもし、この世界の異能力者に七星を配れば、配れるだけ配ろうと、全く守りきれないのです』
 
 先輩は、静かに聴いていた。
 私なら、また飛びかかって何か問い詰めていたかもしれない。
 でも先輩は、そうしなかった。

『具体的に、今後の計画があるわけではありません。
 ですが、その答えを見つけるまでは、たとえ微力であろうと此の世界のために戦おうと、決意したのです』

 それが、横取りなんだ。
 先輩も言ってたけど、こんなウカツな事がこれからも起こるのかな。
 
『恐らく、他の生産者も、同じようなことを考えていると、思われます』

 やっぱり。
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