ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

リューガ

文字の大きさ
上 下
64 / 101

64.閻魔 文華

しおりを挟む
「文華と言えば。
 ここは、異能力犯罪を研究しているーー」
 私は、ふりかえった。そして。
「安菜に語ってもらうのが良いでしょう」
 私は安菜と、はーちゃんと見合わせた。
 私はフルフェイスのヘルメット。
 安菜のヘルメットは首も固定された木目に、前と左右の丸窓。
 はーちゃんは、その横につけられた小型カメラ。
 窓ごしカメラごしでおたがいの視線はわかりづらいけど。
 決意を込めて、安菜が話しはじめた。
「あなたが、アーリンくんですね。
 私のことは安菜と呼んでください」
『よろしくお願いします。
 安菜さん』
 うん。ダイジョウブそう。
「文華については、私なりに言いたいことはあります。
 しかし、私は専門で研究しているわけではありません。
 それでも良いのなら、できる限りのお話をさせていただきます」
 プロではないけど、こういうときに手をぬかないのが安菜なんだ。
『むしろ、それを知りたいのです。
 僕も自分なりに調べてみたのですが、なんと言いますか』
 アーリンくん、前より安心してる感じがする。
『年月でウワサが一人歩きしているような気がするのです。
 それなら、当事者の近くにいる人がどう思っているか知りたい。
 なにに怒っているか知れば、それが注目するべき点だと思うのです』
 朱墨ちゃんのそばで、良い経験を積んだみたい。
 そういえば、朱墨ちゃんが執事をやとった、というウワサが流れたけど、アーリンくんのことかな。
「なるほど。ならまずは・・・・・・」
 安菜、一呼吸おいて。
「あっ。はーちゃん、この件は私に任せてちょうだい。
 手だしは無用」
「もともと手はだせません。
 口はだせますが。
 ですが、わかりました」
 ありがとう、と安菜は答えて。
 さてアーリンくんに、なにを話すかな。
「閻魔 文華と聞いて、すぐ連想したエピソードをお話します。
 私やうさぎにとって身近な人が巻き込まれた、有名な事件です」
 これで監視任務に集中できる。

 ありがたい。
 だけど、これから聞こえるのはゆかいな話じゃない。
 寒気がしてきた。
「10年くらい前まで文華は、元は魔術学園高等部の先生でした。
 出身は暗号世界ルルディ。
 彼女は、その王と王妃の子。
 つまり、お姫様です」
 こういうときの私の声は、どうしてもカクカクしてしまう。
 安菜は、そんなことない。
 人をリラックスさせる、耳にやさしい声。
「ちなみにですが、私はルルディや他の世界から人が来ることは、素晴らしいと思います。
 出身の友人がいます。
 世界同士でも技術や経済的に重要だし、なにより楽しいからです。
 ですが、文華はそんな流れにのらなかった。
 これは予想ですが、彼女には優秀な人には他に野心がある。
 それが理解できなかったのではないでしょうか」

 このまま、何らかの事件について話すだろう。
 それを聞いたら、気持ち悪くなることもあるかもしれない。
 ノイズキャンセラーで、安菜たちの声を消そうか?
 私のヘルメットについた機能の1つだよ。
 音は、空気を伝わる波だから。
 いらない音に、その反対の音の波をぶつけて、消してしまうんだよ。
 でも、このまま消すなんてもったいない、という気もちもあるの。
 私たちハンターキラーに、いまも影を落とす大事件。
 安菜の心に、どう写ってるのか知るチャンスかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...