ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

リューガ

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54.来てほしくなかった

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「それで、どうなったの?!」
 3日後、土曜日休みの日、私は安菜に問い詰められていた。
 その表情は真剣そのもの。
 こういう友達は、ありがたい。
 いつもならそう思う。
「落下物は、無事回収できたよ。
 その後は、プロウォカトルやポルタ社の人が来て、大変だった」
 けど、今感じるのは、悪いことしてる、と言う気持ち。
「落下物?
 意思があるんじゃないの?」
「いいえ、らしいよ。
 自分の事を破滅の鎧って言ってたから」
 足が重い。
 聴かれるかぎりは、答えようと思う。
 こんなの、せめてもの償いにもならない。
 でも、それしかできないから。
「ハメツノヨロイ、ねえ」
 恐ろしい言葉の繋がりのはずなのに、こいつは。
 のんきな顔で何を想像してるのか。

 長いトンネルを、2人だけで歩く。
 行く先は、我らが特務機関プロウォカトルの研究所。
 今、安菜と話していることは結構高い機密なんだよ。
 学校では話せない。
 このおしゃべりがよく、ここまでガマンしてくれたと思うよ。
 今の私は、我が家流和洋折衷ロマンスタイル。
 振り袖は錆納戸(さびなんど)、くすんだ緑。
 袴は、さらに青を足した深い色。
 襟や袖口からは、白いレースがのぞく。
 首もとは黒い棒タイを蝶で結んだ。
 帯は、黒地に白いコスモスの刺繍。 
 ぼうしは、この間と同じ麦わら帽子。
 黒いリボンを巻いて白バラで飾った。
 帯留めは白黒白。
 白い日傘と黒のポシェット。

 安菜は、イエローのチュニックに、白のサテンパンツ。
 涼しげながら露出は少ないね。
 細身のシルエットだよ。
 シルバーのウォーキングシューズ。
 靴ひもなのが実用的。
 ベージュのトートバッグを手に。
 アクセサリーは、白のブレスレットウォッチ。
 金の細いロングネックレス。
 ペンダントは、ひねりの入った棒状。
 シンプルだけど、チョコレート色の肌と、腰までのびた波うつ金髪に合う色合い。
 エレガントにいきる、現代の貴族だと思うよ。

 安菜は貴族なんだ。
 名のれるだけだけどね。
 そもそも、フランスには公式に貴族はいない。
 それでも、その血統を証明してくれる協会だかなんだかがあって、名乗ることはできる。
 そういえば、安菜の肌が黒いのは、おばあちゃんがアフリカのアルジェリアから来たからだ。と言ってた。
 旧フランス領土だったところだよ。
 でも、そんなことが安菜をここにいさせる理由にはならない。
 ここには、次に作るシャイニー☆シャゥツの動画が、安菜の「異能力者の犯罪ドキュメンタリー」だから。
 そして私には、ただの人間を巻き込む、裁定人の資格がある。
 イマイマシイことにね。

 暗号世界って私たちの世界とはちがう政治体系で動いてる。
 だからかな。
 こっちの世界から偉い人が行っても、話を聞いてくれないことがある。
 そんな資格はない、ってね。
 そこで、どういう行動を取れば良いか、誰に仕事を引き継いでもらえば良いか考える人が必要になる。
 それが裁定人。

「破滅の鎧を捕らえるときに使ったのが、これと同じものなの」
 私は、襟から金の鎖を引きだす。
 ペンダントには、金の輪にはめられた紫の結晶が。
「エニシング・キュア・キャプチャー。
 昴さんからもらったの」
 ポルタ社の副社長さん。
 全自動こん棒繋ぎマシンの前での約束を、果たしてくれた。
 安菜がのぞき込んできた。
「それさえあれば、なんでも捕まえられるの?」
「捕まえるだけじゃなくて、完全に隔離することもできる。
 検査だってできるし、中と話しすることもできる。
 もしもの時は、これで守るんだ」
 今、破滅の鎧が暴れたら、ウイークエンダーはいない。
「それでも、なるべく使いたくない。
 あんまり、攻め立てるようなことを言ったらダメだよ。
 おびえてるみたいだから」
 対する安菜は。
「まかせて!
 本場のノーブレス・オブリュージユをみせてやるわ!」
 私は本場のオムレットが食べたい。
 そう聞くと安菜はムスッとした。
 ・・・・・・悪かったよ。
 でも、そのムスッは私の気分転換にはなった。

 さて、インターホンに呼びかけよう。
「破滅の鎧さん、佐竹です」
 ドアを開く。
 カードキーで。
 ロケット砲でも破れない分厚いヤツを、電動で。
「安奈 デ トラムクール トロワグロを紹介させていただきます」
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