上 下
43 / 95

43.姫獅子の時

しおりを挟む
 こっちから見ると、右側に1キロメートルほどかな。
 今夜は月明かりもない、滑走路のはし。
 達美さんが開いた太陽のような光、ポルタから。
 
 キイイー キキイイイー

 タイヤのブレーキ音が聞こえる。
 しかもけたたましいエンジンではなく、ずっと静かな電気モーターの音だよ。
 1台や2台じゃない。
 大変な数でせまってくる!
 ポルタから細かい光が流れでた。
 あれは見慣れた光。
 滑走路の端は赤で、ターミナルビルへの道は青で、縁取りはオレンジの小さな常夜灯だけ。
 その真っ暗な滑走路にそって走りだす。
 車のライトだね。
 左右に激しくカーブを描き、絡まりあって走る。
 一部は空を飛ぶものもいる。
 目を奪われた。
 息を合わせた動きは、ぶつかることも、よどむこともない。
「ボンボニエール、だね」
 そう。ドラゴンメイドの言う通り。
 よかった。もう怯えてない。

 4本足にタイヤをつけて、足ごとカーブさせることでできる鋭い軌道が、あれに求められた性能なんだ。
 空を飛んでるのは、4本足にはかせる飛行用ジェットエンジンを備えたから。
 それは分かる。
 だけど、ここに来たのはすーごい数。
 セカンドの前のファーストもふくめた、この世に存在するボンボニエールが全て来たようにもおもえるよ。

「あんな、パレード?
 見たことある?」
 武志さんの質問。
 あの光をパレードと考えるまでにも、悩んだんだろう。
 そしてそんなパレードは。
「見たことも聞いたこともありません」 
 その時、ドラゴンメイドは手が4つある。
 獅子の顔をした鎧武者が手を窓につけて見いってるのは、シュールかもしれない。
 でも、すぐ真っ直ぐ立ち直った。
「下に行ってみよう!」
 背中の羽は、広げれば2メートルほどになるけど、今は亀の甲らみたいにまとまっている。
「私が出したなら、少なくとも害はないはず!」
 それは・・・・・・願いを、あらゆる制約から自由に実行するのが神の力なら、そうかもしれないけど。
 ドラゴンメイドは宣言すると同時に、変身を解除した。
 装甲や第3、4の腕、翼が赤い液体金属にのって分解され、体内にしまわれる。
 あっという間に、左肩に白い藤の花の刺繍がされた、赤い仲居服に戻った。
 振り返ってエントランスへ、走る。
 ガガガ、と木をけずるような足音。
「オーナー。これからどうすれば!?」
 有村さんが聴いてきた。
 その手に持ってるのは、私が頼んだカプチーノじゃない。
 ボタンだよ。
 あの、私の動画『何が忘れられたのか』で前藤さんが押していたような、非常用ブザーのボタンだよ。
「管制室に行って!
 指示はそっちからもらって!」
 それだけ言うと、人間には絶対できない素早さで、エントランスの向こうへ。
 その後に続くのは、やっぱり武志さんだ。
 あの人は、達美さんの同型サイボーグなんだ。
 達美さんは実験もあって、だいぶいじくってるけど。

 私も後をおう。
 アーリンくんも付いてきた。
 初めてあったときと同じ、黒のドレス・ユニフォーム。
 現代日本でも自衛隊の礼服に使われる、ブ厚くてキッチリしたジャケットとズボンだよ。
 左胸には勲章がたくさんある。
 それに、白い上底カバーのある帽子。
 ひさしの他に、帽子の上の方で脹らみがある帽子。

「あんたたちも! 付いてきなさい!」
 管制室からも誰かでてきたんだろうか?
 その人も率いる達美さんの声が下から。
 アーリンくんに追い抜かれた。
 あっちの方が走りやすいからな。

 私は遅れを少しでも取り戻したくて、エスカレーターの手すりに飛び乗って、滑り降りた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

関白の息子!

アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。 それが俺だ。 産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった! 関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。 絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り! でも、忘れてはいけない。 その日は確実に近づいているのだから。 ※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。  大分歴史改変が進んでおります。  苦手な方は読まれないことをお勧めします。  特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

現実的理想彼女

kuro-yo
SF
恋人が欲しい男の話。 ※オチはありません。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...