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41.異界と経済

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(パーフェクト朱墨、パーフェクト朱墨)
 心のなか限定でつぶやいてみる。
(愛情がこもった良い名前だね)
 ウイークエンダー・ラビットは、お母さんかつけてくれた。
 ラビットはうさぎのことだし。
 うちのきょうだいは、みんなそう。
 でも、パーフェクト朱墨は誰が考えたんだろう。
 朱墨ちゃんのお母さん、疾風子さんが?
 ・・・・・・どんなネーミングセンスかは、知らないや。
 もしかして、アーリンくん?
 そんなに朱墨ちゃんを認めてたのかな。
 だったら、うれしいな。
そう思うと、足どりも軽くなるね。

 達美さんを前にエスカレーターをのぼる。
 1階は空港から運ばれた荷物を受けとる場所。
 小さな売店がある。
 2階からは会議室が、3階からは空港の管制室がある。
 管制室のなか以外、人気はない。
 飾りっけなんて、1階にはられた地域のポスターしかない、灰色空間。

 だけどね、グロリオススメは違うよ。
 グロリオススメは、このビルの屋上を改装して作られた。
 ポルタ社の建築用3Dプリンターで。
 長いアームがグールグールと回りながら、先から特殊樹脂をだして固める。
 そして一晩でできた大きなドームが店舗なの。
 ひさしの飛びでた傘みたいな屋根は、ツヤのある黒。
 黒瓦と同じツヤ。
 その下の壁は、窓を大きく作った白。
 しっくい作りの和風建築をイメージしている。
 もともとあったエスカレーターのならびから少しはずれて設置された、最後のエスカレーター。
 それをのぼると、私の家にあるようなエントランスがあらわれた。
 黒い瓦屋根をのせた太い木の柱に、厚い木の扉。
今はその柱に、貸し切りの札がかかってる。
 自動ドアのそれが開くと、明るく照らされた店に入った。
「いらっしゃいませ」
 入ってすぐ左。
 レジが併設されたキッチンから、パティシエのお兄さんの声。
 有村 修さん。
 この人の作務衣は青だ。
 左肩の白い藤の花の刺繍は、この店のスタッフの証。。
 そして仕事中は白マスクを外さない。
「こんばんは。今夜は私もお客さんでいいんですよね?」
 私のパティシエ師匠でもある。
「もちろんです」
 うーむ。師匠に敬語を使われると何かムズムズする。
「それじゃあ、カプチーノください」
 この店は飲み物の最初の一杯は無料なんだ。
「はい。そうだ、先ほど拝見した動画、大変興味深く引き込まれました。
 生きる限り、リスクを背負う時がくる。
 そのときに必要な意志のつかいかたをみせられました」
「そうですか、ありがとうございます」
 バッグからサイフをだす。
 アーリンくんにデザートを。
 きっと落ち着くよ。
「すでに、出せるものは全て出しました。
 若干胃もたれになってるかもしれません」
「うさぎの分も、そこから選んでよ」
 達美さんに言われた。
「そうですか」
 私は、バックから取りだしかけたハンターキラー小判を戻した。
 小判。あの江戸時代にあった、金を楕円形にして作った金貨の、現代版だよ。
 暗号世界にこっちの世界の紙のお金を持って行っても、ただの紙。
 クレジットカードなんかさらに使えない。
 だったら、溶かせば金の延べ棒にできる金貨の方が使いやすいことから、生まれたの。
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