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39.殿様気分カフェ・グロリオススメ

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 私!
 真っ直ぐ立つ!
 お腹とアゴを引っ込める!
 胸を上げて肩を落として!
 ツムジから天井へ糸がピーンと引っ張るイメージ!!
 ……もう少し、ふんぞり返ってみよう。
 大きな鏡の中の私は、おおっ悪役令嬢っぽい。

 あっハハハ。カッコいい?
『それ、話を聞く対象の前ではやめなさいよ』
 着付けを手伝ってくれた、お母さんが冷たく突っ込んだ。
「こんなの、勢いづけだよ」
『なら、いいけど』

 今の私は、鮮やかなブルー。
 市松模様の振り袖。
 首元の襟に、白いレース。黒い蝶リボンをつけて。
 シミ一つない麦わら帽子には、黒いリボンと白い大きな花。
 髪は一房残して、まとめて帽子の中へ。
 帽子をとるとサラ~と流れ落ちるように。
 黒に流れるような白模様の帯を締めて。
 日傘っと。全体にレースをあしらった白。
 バッグも、同じような華やかさ。
 和洋折衷の昭和初期ロマン風が、我が家のスタイルなんだ。
 ゲタを履いたら。
「行ってきます!」

 運転手さんに言った準備時間は、5分オーバーした。
 ごめんなさい。
 
 薄暗い峠をいそいで下りて、西側の海へ。
 そして海沿いをはしる。
 湾になってる東側とちがい、広い日本海をわたった波が、激しく打ち寄せる。
 風も強い。
 天候が激しくて道が封鎖になるなんて、しょっちゅうだよ。
 そう言えば、冬には波の花が舞う。
 波の花ってのは?
 え~と、海中には植物プランクトンが、小さな植物がいるのね。
 それが冬の荒波にもまれて潰されて、ネバネバの液をだす。
 それが海水と混じって泡になり、風に舞うの。
 全国的には、珍しい冬の風物詩だけど、汚くて臭いだけに思えるよ。
 カプチーノみたい、とよく言われるけど、美味しそうに見えないよ。
 
 ・・・・・・また、そう言えば、がでた!
 それだけ緊張してるのかな。
 グネグネの道を猛スピードで進んでるのも、あるかな。
 
 道がグネグネなのは、真っ直ぐ通せなかったから。
 鋭くきりたった崖や岩場だらけの海岸線だからだよ。
 荒々しい波風に、何万年も削られてきたからだよ。
 所々の平地に、家々がぎゅうぎゅうづめになって町を作ってる。
 窓からの灯りが目立つようになった。
 でも、すぐ抜けて闇にはいる。
 もう夜だ。

 崖の向こうに、ひときわ明るい場所が見え隠れしてきた。
 隣の市の中心部、じゃない。
 港があって、停泊するペネトの灯りがみえる。
 そして陸には、ペネトに負けないくらい目立つ建物があるの。
 高さと幅は60メートル、長さは200メートルはある。
 あの灰色の建物がポルタ社本社。
 もとはプロウォカトルの整備工場だったのを、売ったの。
 今でも、ウイークエンダーたちの整備はあそこでやってる。
 裏山には戦闘機やヘリコプターのための空港もある。
 きりたった崖をもつ、平らな山の上に。
 私が向かうのは、そっち。
 空港のターミナルビル。その最上階。
 殿様気分カフェ、グロリオススメ。
 ラテン語の輝かしい、グロリオサスと、日本語のオススメを合わせた造語だよ。

 ポルタ社って、ボルケーナ先輩はいるし、武器は強いし。
 私たちへのコネは強いし。
 暗号世界の人には怖がられる対象なんだ。
 そんなポルタ社を殿様気分で見てもらおう。そうすれば気分よくなってもらえるだろう。と言うのが、あのカフェなの。
 華やかに飾られた空間で、美味しいお菓子とお茶、コーヒー。
 そして崖の上、ビルの上からポルタ社本社を見下ろす。
 ショーステージもある、シャイニー☆シャウツのコンセプトカフェ、コンカフェでもあるの。
 
 良かった。
 約束の時間どうりについた。
 と思ったら、自動ドアが開いた。
 私に関係なく。
「待ってたよ」
 そこにいたのは、赤い瞳の女の子。
 制服の赤い着物に白い帯をしめて。
 左肩に、房に小さな花を並べた藤の花穂を、白く刺繍している。
 短く刈りこんだ髪も赤い。
 そして、頭からネコの耳がピンと立っている。はずなのに。
「少しだけ、話を聞いてちょうだい」
 今日の耳は、ペタンと下りている。
 飛行機の羽みたい。
 ネコが不機嫌なときに見せる習慣だよ。 
 手をつかまれた。
 薄い皮膚と脂肪の感覚。
 それを支える骨と間接は、固い金属の感覚。
 見た目どうりじゃない、破壊力を秘めたサイボーグ。
 生き物と、この場合ネコと機械が合わさった存在。
 真脇 達美さん。
 私たちシャイニー☆シャウツのリーダーで、グロリオススメのオーナー。
 幼なじみと言っていい、長い付き合いの先輩。
「プロウォカトルの仕事は、ハンターキラーの監督でしょ」
 達美さんは、真剣な表情。
「そうですが。
 あの、アーリンくんが、どうかしたんですか?」
 私たちは近くのベンチに座った。
「今、店にいるの。
 とんでもなく落ち込んでる」
 そのとき、ハタと気がついた。
 長い付き合いになるけど、こんな頼まれ方は始めて。
 未知なる状況に、震えが走る。
 どドッ、どうか、恐ろしいことが起こりませんように!
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