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34.『ダイヤモンドとマリア様』

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「こちらですか?!」
 護衛たちだ。
「予備のコンテナは破壊されていました。
 こうなったら、テルガド軍に救援を要請し、それに頼るしかありません」
「それまで、ここで籠城することになる。
 まだ2台、セカンドボンボニエールがあります!」
「破壊された機体のパイロットは、無事です。
 すぐ合流できます」
 次々に状況が変わっていく。
 それは覚えている。
 でも本当のところ、自分でも何をどれだけ感じていてのかわからない。
 言葉も、官房長官の身に起こったことも、恐怖も。
 受け止めきれない不思議な感覚。
 でも、安心感はあったと思う。
 闇を、色とりどりの輝きを放つ窓が照らしていた。

 打ち捨てられても天使や偉人の行いを伝えるステンドグラスが、美しいと感じられたから。
 それと、父と母に合いたい。
 そう祈ったのだ。
 
 マリア像を見た。
 台座にダイヤモンドがはめこまれている。
 大きなものだ。
 世界的富豪のお宝として、テレビに特集されるような代物が。
 ダイヤモンドは、マリアさまの象徴。
 国歌になるほど知られている。
 それを台座や手のひらにはめ込むのがテルガドの教会だ。

 追撃はなかった。

 やがて、夕焼けが見えた頃、ヘリコプターの音が聞こえてきた。
「官房長官!」
 破壊されたボンボニエールのパイロットだ。
 通信係になっていた。
「救援部隊です。
 指揮官が通信を求めています」
「わかった。でよう」
 ふと、これからこの教会で何が起こるのか。
 恐ろしい確信が浮かんだ。

 今、こういう教会は珍しくなってしまった。
 かつてはテルガド中にあった、その地域の象徴なんだ。
 だからこそ、敵対する勢力の目標になりやすい。
 同じキリスト教徒だから、なんて関係ない。
 次々に破壊され、もう、かつての3分の1にまで減ったと言う話もある。
「だから、この教会はのこしていただきたいのです。
 新しい時代の象徴として」
 もしかしたら、この時もパニックになってしまったかもしれない。
 勢いのまま、話していた。
 でも誰も、私の話をバカにすることはなかった。
『こちら、日本国官房長官、前藤 真志。
 救援に感謝します』
 彼は、英語が達者なのだ。
『突然かもしれないが、ひとつお願いしたい。
 今回のテロリストにいかなる背景があろうと、この教会を含めて、いかなる教会の破壊も慎んでいただきたい』
 私の願いを伝えてくれた。
『教会は、悪意の象徴であってはならない。
 力を合わせる象徴であり、新しい未来への希望としたい』
 しかし、彼の顔は優れない。
 向こうの指揮官は、私たちが逃げたあと、ここを爆破するようだ。
『もし聞き届けて頂けるなら・・・・・・』
 このとき、官房長官は決断したと思う。
『私は感謝状を書く。
 望む転属先でも、海外への留学のための推薦状でもいい。
 だから、ここへの破壊はやめてください』
 
 やがて、ヘリコプターが降りてきた。
 私たちはそれに乗り、無事帰ることができた。
 
 官房長官たちはそのままとんぼ返り。

 帰国後、官房長官は時の総理大臣にこってり油を絞られた。
 感謝状はともかく、推薦状は救援部隊の指揮権を持たない官房長官には越権行為だからだ。

 だが、数日でその話はなくなった。

 あの時のテロリストが、自首してきたのだ。
 あの教会の町で、外国人排斥のテロ組織があったのだ。
 だが、その話がおかしかった。

 私たちが帰ったあと、テロリストたちは教会に向かった。
 ダイヤモンドを盗み出すために。
 そこで、他のテロリストと鉢合わせしたのだ。
 教会があることは、すでに伝わっていたからだ。
 たちまち、銃撃戦になった。
 私たちの時は、得体の知れないセカンド・ボンボニエールに慎重になっていた。
 だが、今回は違う。
 互いを侮り合い、泥沼の戦いは続いた。
 ついに、双方ともに全滅近い損害をだし、物別れに終わった。

 自首しているのは、そのときの生き残り。 
 官房長官は正しかったんだ。
 やがて、多くの人が噂した。
 この結末はマリアさまの怒りのように思える、と。
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