上 下
32 / 95

32.『ゲリラ』

しおりを挟む
 私は浜崎 春代。
 テルガド共和国日本大使館の職員で、今回の通訳案内者だ。
 大学はこちらのに通った、筋金入りといえば入りの外交官だ。

 SUVの中は、快適だった。
 イスの中にしっかりした骨格とスプリングを感じる。
 こんなに疲れないイスは初めて。
 包むのは白い牛革のように見えた。
 ドアやダッシュボードには木目パネルが使われている。
 落ち着いた、高級感ある内装だと思った。
 シートは3列。
 運転席以外は向かい合わせになっている。
 一番安全な真ん中の列に、前藤官房長官。
 さっきまで隣の秘書と書類を読んでいた。
 だが今は、車酔いしたので外をながめている。
 その目が、なんだか真剣そうに見えた。
 道路のすみからすみまで見たいのか、視線を忙しくしている。
 この車の窓は開かない。
 防弾ガラスはそれだけ重く、ブ厚いからだ。
 他の国の同種の車両には、絶対ない装備もある。
 官房長官のすぐ上、天井には大きなボタンがある。
 彼の異能力を生かすための、極めてシンプルな装置が。

 そういえば・・・・・・。
「あの、官房長官はテルガドは二度目なんですよね」
 私に振り向いた。
「ええ、200X年の海外派遣の時。この道路も二度目です」
 その答えに、私は面食らった。
「二度目ですか」
「取材して本にしました。
 自衛隊が作るときいてね。   
 今のテルガド内閣が決まった選挙の時です。
 その時は、選挙に間に合わせるための砂利道でした」
 その選挙のあと、しばらく平和な時代が続いた。
「後にその道はテルガドが舗装し、重要な街道筋となったと聞いたのですが、残念です」
 そうだ。

 この国は貧しい。
 どこに予算をつぎ込んだとしても、そもそもの予算が少ない。
 格差社会が続いた間に、鉱山関係以外の産業や教育などの福祉は、ずっとすみに追いやられてきた。
 そして世代が替わるほどの時がたっても、格差と不公平感、そこから産まれた憎しみは消えない。

 その結果、この国は政府軍とゲリラによる戦闘が、再びはじまった。
 
「グッ」
 短いゲップのような音がした。
 その音とほぼ同時に、天井のボタンが激しく叩かれた。
 前藤官房長官が、大慌てで叩いたのだ。

 ピーーピーーピーーピーーピーーピーーピーーピーー

 せんたく機のエラーの音、電子的なブザーが、大音量で鳴り響く。
 私は耳をふさいだ。
 と同時に、私が後ろへ押し付けられた。
 同時に、官房長官と秘書がこちらに倒れ込んだ。
 車が急発進した!

 その直後、後ろに光が走った。

 ドン!

 重たい衝撃音。
 ロケット砲が打ち込まれたと後で知った。
 泥のなかに突っ込み、爆発は閉じ込められていた。

 ダダダダダダダダダ
 
 外から、銃声が絶え間なく聞こえる。
 セカンド・ボンボニエールには、ミニガンという弾丸をたくさん撃つ銃が着いている。
 その音か。

 キキー!

 急発進は急停止で終わった。 
 セカンド・ボンボニエールたちの、私たちを逃す作戦計画は、失敗した。
 
ドンドン
 
 銃声が止まらない。
 ボンボニエール隊は逃げるのをあきらめ、戦うことを選んだようだ。
 私はドアを開けて逃げようとした。
「よせ!」
 秘書官に止められた。
 彼は、いまだにへたり込んでいる官房長官を抱えている。

ドーン!

 ひときわ大きな爆発を感じた。
「キャー!」
 痛い!
 車の後方が無理やり持ち上げられ、落とされた。
 ロケット砲の直撃だ。
 秘書官は正しかった。

 イスが押し上げられて固まり、防弾ガラスに無数のひびが走る。
 ドアを開けていたら、この爆風にさらされていたに違いない。
 そして思いだした。
 今回の仕事で忘れてはならないことの一つ。
 官房長官は異能力者だ。
 取材中に銃弾を受けた腹の傷。
 そこが、危機が迫ると痛むのだ。
 傷が痛んだ時は、柱のボタンを押して危機を皆に知らせる。
 そしてもうひとつ気づいた。
 私は、パニックにおちいっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

関白の息子!

アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。 それが俺だ。 産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった! 関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。 絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り! でも、忘れてはいけない。 その日は確実に近づいているのだから。 ※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。  大分歴史改変が進んでおります。  苦手な方は読まれないことをお勧めします。  特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

現実的理想彼女

kuro-yo
SF
恋人が欲しい男の話。 ※オチはありません。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

処理中です...