上 下
23 / 96

23.予期せぬ怒り

しおりを挟む
「ま、待ってください!」
 突然、男の声が引き裂いた。
 あの、落ち着いていればイケメンとしか言えない、リッチーおじさまが。
「そういう扱いでいいのですか!?
 もっとこう、二つの世界の未来に資するような……」
 あまりのセッパ詰まった様子に、絶句してしまった。
 一方リッチーおじさまも、何も考えずに叫んだのか、絶句している。
「……そうだ。もとはボルケーナ様に忖度し、勝手にロボルケーナの使用を変えた者たちがいた。
 それは上位貴族系と聖職者系だ。その団員をすべて解雇するとか!」
 ……は?
「「そんなことをしたら、騎士団が3分の1になります!」」
 二つの声がハーモニーになった。
 思わず見つめあう、朱墨ちゃんとオズバーン団長が。
「そもそも、僕も上位貴族なのに……」
 オズバーン団長が困っている。
 それを見て、リッキーおじさまは「ああっ」とうめいた。
 深い後悔を感じたのか、頭を抱えてうずくまってしまう。
 なに、どういうこと?
 訳が分からないけど、こっちまで罪悪感に飲み込まれてしまうような、落ち込み方……。
「り、リッチー副団長!」
 悲痛な声が聞こえてきた。
 あの、朱墨パパにどなり付けられていた店員が。
 凍り付いたようなノドを、無理やり使ったようなひび割れた声が。
「よ、よせ!」
 たちまち、ほかのお店の人たちに囲まれる。
 思わず、暴力的なことが起こるんじゃないか、そんな想像に身を震わせる。
「彼らを怒らせてどうする!」
 でも、そんなことはなかった。
 あちらはあちらで、共感がお互いを守っているらしい。
 でも、代わりにさみしさがやってくる。
 私たちって、そんなに孤独なのかな……。
「わかってる。わかってるんです。分かったからぁ!」
 うつむき、固く硬く体をこわばらせ、リッチー副団長がうめいた。
「ボルケーナ様は、生まれはこの宇宙だが、育ったのははるかに高次元の神々の世界。
 そこで教育を受けた本物の女神!」
 そう。あの人の本質はそれ。
 時空をつかさどる女神。
 でも……その先は私でも知っている。
「その神の最終試験は、異なる世界で時を過ごし、学ぶこと。
 し、しかしながら……」
 そういえば、この人はなんでその事を今さら言い始めてるんだろう……。
「ボルケーナ様のお体は、大変目立つ!
 ボルケーニウムのあらゆるエネルギーに反応する性質によって!
 我々はそれにより、事の重大さもわからず、攻撃した!
 我々の世界への、未知の脅威として……」
 まずい! 止めなきゃ!
「あの、ボルケーナ先輩はそのことを許してますよ。
 ほかの神とは性質が違うことは、本人が一番よくわかってるって、言ってましたし」
 でもリッチー副団長は、私の言葉を振り払うように体を左右に振った。
「いや、我々の世界だけじゃない!
 その前も、その次も、幾多の世界で同じことが繰り返されたぁ」
 そして憎しみを込めた目をあげた。
「あんたも!あんたも、あんたの世界もそうだろ!?」
 そういって指さした先には、たくさんの暗号世界の人が。
 指さされた人たちは、誰も平穏ではいられない。
 泣きそうになるか、罪悪感を浮かべてうつむくだけだ。
「結局彼女を受け入れたのは、まったく奇跡の力を使えないこの星だぁ。
 そして、こんな世界を標準だと思うようになったぁ
 ボルケーナ様は、認識が狂ってしまったんだぁ!」
 それを聞いた時、私は全身が震え、火の中に投げ込まれたような熱と、不快感に襲われた。
 朱墨ちゃんのロボルケーナの使用を勝手に変えたのも、機械系装備無視して異能力系ばかり持ってくるのも。
 今更、先輩の気を引きたいからだ。
 私たちのことなんて、ちっとも考えてないんだ!
 強い怒りが、私の右手を振り上げさせる!
 揺れすげて尻もちをついた男の頭に、振り下ろすハンマーになるよう望みながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

処理中です...