ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~

リューガ

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12.ファントム・ショットゲーマー

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「あ~。あいつらが製品作りたいって思う私なら良かったな」
 しっとりとした濃い茶色の木造空間。
 おしゃれな臨時レストランと化した、キャバレーハテノ。
 そこに似つかわしくない、押し殺したような怒声。
「どうせ国に帰って「訳が分かりませんでした」と言ったって、お金は何の問題もなくもらえるんだ」
 朱墨ちゃんの声は、この空間を凍てつかせるようだ。
 楽しいおしゃべりやおいしい料理を求める他のお客には目もくれず。
 暗号世界で作られた自分がテストパイロットをするはずのロボット、ロボルケーナ。
 その仕様が気に入らず、一喝した女の子が。
 ハンターキラーとしての通り名は、ファントム・ショットゲーマー。
「うん。
 ……大体の経緯は、さっきの話を聞いてるよ。
 でも、もう少し具体的な経緯を聞かせてもらえないかな?」
「具体的ぃ?」
 ギロリと睨んでくる。
 私はエース。
 身長1千メートルほどの敵にも立ち向かった。
 佐竹 うさぎ。
 なのに、こ、こわい……。
「……最初に書面にしておいたことですよ。製造前に。
 機体の色は私の好きな青にしろ、とか、異能力系のシステムは使うな、とか。
 できると思ったんですよ。
 あのシロドロンド騎士団と言えば、今わかる暗号世界全体を見ても、トップブランドだし」
 よかった。落ち着きを取り戻したらしい。
 ロボルケーナのこと、期待してたんだ。
「……そうですね。
 あのメーカーの飛行ロボットって、評判いいんですよ」
 その言葉には、確かに尊敬の念が込められていた。
 そうだね。それは納得できる。
 私たち陸戦兵機使いにとって、空を飛べるのはで大きなメリットだね。

 彼女、九尾 朱墨について、ちょっと説明しておくね。
 九尾家は、霊狐と呼ばれる強力な異能力を持つ一族。
 人間じゃなくて、狐神と呼ばれる神の一族だよ。
 でも、彼女自身はただの人間だよ。
 朱墨とは、習字に使う赤い墨のこと。
 幼いころ、元の親から虐待されていたところを、養父母に逃がしてもらったんだ。
 お母さんが天狐と呼ばれる狐。
 お父さんはセカンド・ボンボニエールという4メートル台の人型ロボットのパイロット。
 その時の朱墨ちゃんは血だるま、だったらしい。
 傷が治ったころ、頭から赤いペンキをかぶる事件が起こった。
 そしたら彼女は、ネバネバのペンキで遊び始めた。
 その様子が楽しそうで、おかしくて養父母は大笑いした。
 血だるまと、ペンキまみれ。
 そして養父母は考えた。
 見た目は大して変わらないのに、笑ったり泣いたりする、その違いはどこにあるんだろう。
 それはきっと、元気かどうかだ。
 元気さえあれば、見た目は悲惨になっても笑い飛ばすことができる。
 そのことを忘れないために、女の子に赤ペンキに似た朱墨と名付けた。
 私は、その名付けのエピソードが好きなの。

「あ~あ。
 制服の袖がしわになってしまった」
 安菜が嘆いた。
 朱墨ちゃんの頭付きで、ブレザーの結んだ袖が固くしまっていたのを、ほどいていたんだよ。
 すると。
「ごめんなさい」
 朱墨ちゃんがあやまった!
 これは珍しいことではないだろうか?
 あの正義感の塊、公明正大、唯我独尊の朱墨ちゃんが!
 袖のことは私の決めたことだから、アイロンがけしてくるよ。
「そう。お願いね」
 夏だから、いつも着る義務はないから、すぐじゃなくてもいいよね。
「そうね。
 ところで、私が名乗る必要はないのかな?」
 安菜に朱墨ちゃんはそう言われて、固まってしまった。
「……えっと……。
 名のあるハンターキラーだとお見受けしてますけど……」
 自分をあっさり捕らえるなら、そう思ってもしょうがないか。
「あっ! 安菜・トロワグロさん! 」
 そういうと背筋を伸ばし、輝かんばかりに笑いだした。
 安菜の知名度すごい!
「シャイニー☆シャウツの動画、よく見てます!
 失礼しました! あなたのファンです! 」
 そう言ってあく手を求めているよ。
「そうかい、そうかい」
 そう言って安菜は快く手をにぎる。
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