飼い犬に頸を噛まれる。

むぎ

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褒美

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「おい、ちょっと落ち着けって…うわっ!」

 実家に着くや否や、奥の寝室に引きずり込まれ、敷かれた布団に乱暴に投げられる。

 主人に向かってなんだその態度は。文句のひとつでも言ってやりたかったが、狗郎の顔を見て自然と口は閉ざされた。劣情と苦痛を混ぜ込んだような表情。言いたいことは、痛いほどに伝わってくる。

 こいつは俺に逆らうことなどできないのだ。だからこうやって、肉体に訴えかけてくる。狡い奴だと思った。でもそれ以上に狡いのは自分だと気付き、嘲笑してしまう。

 ちなみに松風は到着するや否や、自分のマンションに直帰した。相変わらず察しの良い奴だ。

 仰向けになった頭の両側に狗郎の腕。上下左右囲われて、まるで籠に囚われているようだ。今日はもうこのまま布団から出られないことを察する。ならばこちらもその気にならねば損というもの。覚悟を決めたことを伝えたくて、狗郎の首に腕を回す。

 主人にご褒美を“よし”された犬は、瞳をとろかせてぎゅうと抱きしめてくる。

「廉太郎様、廉太郎様」

 首筋に鼻を埋められ、今日流した汗を味わうようにべろべろと舐められる。お前あのキモ親父と間接キッスしてんぞ。そう言ってやりたがったが、流石に哀れになったのでやめた。

 焦燥に囚われた手は、ボタンを弾かんばかりにシャツを脱がしてくる。露わになった胸板に冷冷とした空気が走り抜け、思わず小さく身をよじった。

「廉太郎様、廉太郎様。愛しています。愛しているんです。俺を受け入れて」
「ぁ…んっ…」

 胸の頂点をすりすりと撫でられ、腰が砕ける。

すりすり ぎゅむぎゅむ こすこす ぴんっ♡

「う゛っ…んぅ…!」

 指紋の溝にさえ感じてしまうそれを皮切りに、馬鹿な脳みそはすぐに高ぶり、快楽を身体中に伝達する。それは喉奥で音に変換され、喘ぎとして口から溢れるばかりだ。こんな浅ましい自分が、ほんと嫌になる。

 そんな自己嫌悪に陥る俺をほっといて、狗郎は首筋に鼻を埋めたまま、指先だけで器用に胸を弄り倒す。すごい集中力だ。耳のすぐそばですぅはぁと気持ち悪い呼吸音を聞かされる身にもなって欲しいが、そんなの今伝えられるわけがない。

くりくりくり…ぴんっぴんっぐにぃ♡ こすこすこす ぎゅむっ♡

「あっ…んぅっ…もうむねばっかやだぁ…♡」

 快感を逃がしたくて腰を小刻みにぐねらせる。でも全くもって効果はなくて、とろりとろけた何かが腰にじわじわと溜まっていく。すぐに界面張力いっぱいまで溜まってしまったそれがもどかしくて、どうにかして欲しくて、目の前の男にみっともなく縋る。

「あっあっやだぁ、むねやだ、くろう、くろぉ」

 狗郎の指先が、乳首の表面に擦れる度にびくびくと身体が跳ねてしまう。胸に与えられた
熱は下腹部に直結し、股間がゆるく勃ちあがるのを感じた。

「廉太郎様は胸が好きですもんね。びくびく震えて可愛らしい」
「いやぁっ好きじゃにゃいっ!好きじゃないもん…!やめろよぉ…」
「そんなこと言わないで。ほら、胸が反れてる。俺にもっと触ってほしくてぐいぐい押し付けてきてる。素直になって、ね?」
「あ゛っっ…!?」

 ぎゅっと力強く引っ張られ、じれったい愛撫でふわふわしていた意識を急に引き上げられた。痛みすら伴うその刺激によって、下半身に甘い電撃が走る。下数秒置いて自分のしでかしたことを理解し、最悪だ、と心の中で呟いた。

「はは、胸だけでイったんですか。かわいい。本当にかわいい」

 ゆっくりと頭を撫でられながらちゅ、ちゅ、と軽いキスを散りばめられる。よくできました、と褒められているようで、俺の理性などお構いなしに胸の底から歓喜が沸き上がる。どちらが主人かわかったもんじゃないその行為を、甘んじて受け入れることしかできない。未だに収まらない痙攣に支配され、頭は真っ白なままだ。褒められた。嬉しい。その単語だけが頭を駆け巡る。

「あ、あ…?♡」
「何が起こったか分からないって顔してる。はぁ、本当に可愛い。とうとう胸だけで絶頂できるようになっちゃいましたね。」

 舌が耳腔に触れるか触れないかの距離で囁かれる。そこらへんのおっさんでは蕁麻疹が出るような行為でも、狗郎の声は心地よくて、気持ちよくて。脊椎がゾクゾクと震えてしまう。

 駄目な脳内麻薬がじゃばじゃばと分泌される。もっと、もっと刺激が欲しい。本能的に目の前の胴に腕をからめた。狗郎は首筋に顔をうずめたまま、俺のスラックスを脱がし始める。しとどに濡れている下着の中心部を見られるのが恥ずかしくて、シャツを掴む手に力がこもった。

 ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえた。見上げると、なんとも色情にまみれた顔。下着の端をつままれ、つーっと腿から足首まで、ゆっくりと脱がされる。卑しい水分を含んでひんやり冷たくなった布が、薄い皮をつたっていく感覚。たまらない気持ちになる。

「あぁ、廉太郎様、綺麗です。なんて美しい。きっと俺は貴方に出会うために生まれてきた。」

 たいそうな台詞を聞き流しながら、指が埋められる奇妙な感覚に耐える。ぐにぐにと、二本の指によって入口のそばをゆっくりと広げられた。何度も行っている行為だが、どうにもこの違和感には慣れない。

 しかし相手はそうでもないようで、それは迷うことなく俺の弱いところを見つけ出した。腰がびくりと跳ねる。

「う、あっそこ、」
「きもちいいですねえ。きゅんきゅん締まってきます。」

 狗郎の長い指によって、時間をかけて、されど的確にほぐされていく。興奮しているのは相手も同じようで、首筋にかかる息が熱く、湿っていく。今までの情事でも好き勝手に弄られ調教されたそこは、優秀に快楽を受け取り、もっともっとと強いるようにナカをきゅうと締め付ける。

「くろぉ、いじわるすんなぁっ、あっう、んっ」
「焦らされて熱が溜まるばっかりの廉太郎様。かわいい…♡」
「かわ、いいなんて、言うな…っ」
「いいえ。かわいいですよ廉太郎様は。とっても可愛らしい。もっとかわいいとこ、俺に見せて下さい」

 言い切ると同時に、今まですりすりと擦るだけだったナカのしこりが二本の指に挟まれて、

ぐにぃっ♡

「あ゙っ!?う゛ぅ~~~~~!!!!」
「あぁ廉太郎様。また射精せずにイけましたね。えらいです♡」
 
 容赦なくつぶされた前立腺が、きゅん♡きゅん♡と切なくなる。またもや盛大にイってしまった。快楽と羞恥で感情がぐちゃぐちゃになる。涙目で狗郎を睨みつけるが、かわいい♡と頭を撫でられて終わってしまった。

 大きな手が頭を撫でつけるのが気持ちよくて、ついぼーっとしてしまう。えらいです。いいこ。かわいい。あいしてます。狗郎の手によってもたらされた二度目の絶頂と、なお囁かれる甘い言葉によって、どうやら俺の脳みその箍は外れたようだ。狗郎の言葉が俺の鼓膜を震わす度にどうしても嬉しくなってしまって、縋ってしまう。

「きもちい、きもちいよぉくろぉ。もっとなでてぇ」
「おやおや、廉太郎様♡甘えたちゃんになってしまいましたね♡かわいい、かわいい。」
「かわいい?おれ、いいこ?」
「とっても可愛くてこれ以上ないくらいにいい子です。目に入れても痛くない。もっとよしよししてあげましょうねえ」
「ふあぁ、あぁ~…♡」

 暖かなプールに溺れているようだった。俺の五感を刺激するなにもかもが気持ちよくて、どうすればいいかわからなくなる。ただ、頭上を行き来する掌の温度に、俺の魂みたいな何かがとろ、とろと溶かされてゆく。

 ふわふわ気分を味わっていると、ふいに後ろに生暖かいものがぴとりと触れる。意識が取り戻され、身体が小さく跳ねた。ベルを鳴らされて涎を垂らす犬のように、これからもたらされる快楽への期待と歓喜が俺の体を支配した。

 かつてない程に鼓動が跳ね上がる。もうすぐだ。もうすぐ…♡その振動は皮二枚を経て狗郎にも伝わったようで、幼子をあやす親のように、頭を抱えられる。ふと目線を上げると、乱れた前髪をそのままに恍惚とした表情でこちらを見つめる男の顔があった。ああ、今からこの男に手籠めにされてしまうのだ、と実感してまた心臓が跳ねる。衝撃に備えて、狗郎の首に回る腕にぎゅっと力を入れた。一呼吸置いて、それは一気に奥まで入り込んでくる。

「お゛っ、あ゛ぁ~~~~~~~~~!!!!!!!!♡♡♡」
「…っ」

 白いフラッシュがチカチカと眼前を照らす。頭を狗郎の胸にぐりぐり押し付けて、どうにか快楽を逃がすようにする。でもそんな気休めで濁流は収まるわけもなく、神経線維中を甘い電撃が駆け回ってやまない。

 大げさなほどに背中が反りかえる。狗郎の首に掴みかかる力すら奪われ、シーツに両腕を投げ出した。それを、がしりと逞しい手によって固定される。

 ぱんっぱんっと腰を振る狗郎は、涎を垂らして恍惚に浸っている。ぼんやりとした頭で、本当に獲物を貪る獣のようだ、と思う。

 ピストンが重ねられる度に、俺を捉える腕にはいかつい血管が浮かび上がり、どんどん力が籠っていくのがわかる。正直少し痛い。きっと明日にはすっかり跡になっているだろう。でもそれもまんざらでもなくて、抵抗などする気はみじんもなかった。

「~~~~~~っ♡♡♡」

 硬いそれに勢いよく結腸を突かれて深イキに入る。腕の中でビクビク痙攣する俺にお構いなしに、腰を止めることなくナカを貪られる。はたから見たらまるで強姦のような体位。でもきっと、それに興奮しているのは俺もこいつも同じで。

「廉太郎様っ…廉太郎様っ…」
「…っ♡」

 狗郎の動きがぴたりと止まる。肉棒が一層熱く膨張したのを感じた刹那、あたたかい精液が大量に吐き出された。焦点を虚空に当てたまま、ぼんやりとその感覚を楽しむ。勢いよく吐き出されたそれは、数秒経っても途切れないまま、奥を丁寧にコーティングする。

「ぁう…たくさん出されてる…♡」

 嬉しくなってつい下腹を擦る。俺に子供を作る臓器は備わってないけれど、ナカに吐き出された種子がなんとも愛おしくて、皮を挟んで慈しむように撫でつけた。

「廉太郎様♡貴方という人は、また煽るようなことを♡」
「あはっ♡またおっきくなったぁ♡」

 お互いを喰らい合うようなセックスは、外の雀が鳴く頃に俺が意識を飛ばしたことで終止符を打たれた。

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